自治体は少子高齢化や人口減少などの課題に、限られた財源や人的資源で対応しなければなりません。更に住民のニーズも多様化・複雑化し、従来までの公共サービス維持が困難となる可能性があります。
このような状況において、自治体課題の解決や地域経済の活性化の一つの手段として注目されているのがシェアリングエコノミーです。
本調査研究は、多摩・島しょ地域自治体が自治体課題の解決手段の一つにシェアリングエコノミーを加えられるような情報や視点を提供することを目的として実施しました。
本調査研究では、「シェアリングエコノミーとは、個人等が保有する活用可能な資産等(スキルや時間等の無形のものを含む。)を、インターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動」と定義しました。
シェアリングエコノミーは下図のように、シェア事業者が提供するインターネット上のプラットフォームを通じた不特定多数の個人間での取引が基本です。
▲シェアリングエコノミーの基本構造
分野 | 解決したい課題 | 対応するシェアサービス例 |
---|---|---|
雇用創出 | 若者、女性に向けた地域での新しい仕事づくり | スキルシェア |
男女共同参画 | 女性が働きやすい環境づくり | 時間シェア |
社会福祉 | 子育てしやすい環境づくり | 時間シェア、スキルシェア |
公共交通 | 過疎地域での交通交通の代替となる手段、観光客向けの新たな移動手段の創出 | ライドシェア、カーシェアなど |
観光振興 | 観光ガイド、観光体験プログラムによる観光業の活性化など | 時間シェア、ホームシェアなど |
公的不動産活用 | 自治体が保有する低未利用施設の利活用による稼ぐ公共施設への転換 | スペースシェア |
民間資産活用 | 空き家、空き店舗、空きビル等の利活用による民間不動産の活性化 | スペースシェア |
教育 | 生涯教育 | スキルシェア |
農林水産 | 農林水産資源を生かしたグリーンツーリズムの開発 | 時間シェアなど |
災害対策 | 災害時の緊急支援手段の確保 | ホームシェア、カーシェア |
自主財源の確保 | 特定の地域課題解決に必要となる資金を、従来とは異なる手段で調達 | クラウドファンディング |
▲多摩・島しょ地域自治体のシェアリングエコノミーの実施・検討状況
有識者や先進自治体等におけるインタビュー調査結果から、自治体課題の解決策としてシェアリングエコノミーがもたらす効果は、主に以下の3つであることが明らかとなりました。
1.シェアリングエコノミー伝道師 加藤 遼 氏 |
---|
自治体におけるシェアリングエコノミーの活用について |
2.佐賀県多久市 |
仕事をしたくても育児や介護で働くことができる時間や場所が限られる住民に対し、クラウドソーシングで新たな就業機会を創出 |
3.佐賀県 |
複数の子育てシェアサービスを活用し、利用したいときに利用できる子育て支援サービスを提供 |
4.京都府京丹後市 |
住民・観光客の移動の自由を確保するために公共交通に関する複数の取組を実施し、それでも生じる交通空白地の解消に公共交通空白地有償運送の制度を活用 高齢者などスマートフォンやクレジットカードの利用を困難に感じる方も利用可能な体制を整備 |
5. 埼玉県横瀬町 |
スペースシェアとスキルシェアを活用することで、町の知名度が向上し交流人口が拡大 |
6.東京都日野市 |
スキルシェアを活用し、多世代の交流及び住民同士の困りごとを解決する仕組みを構築 |
シェアリングエコノミーを活用する際には、以下の点について留意する必要があります。
多摩・島しょ地域自治体が優先する上位の課題と、それに対応するシェアサービス例を以下のとおりまとめました。
クラウドファンディングは、既に多摩・島しょ地域の多くの自治体で実施されている手法ですが、スキルシェア、時間シェア、ホームシェアなどを実施している自治体は少なく、今後、新たな手段としてシェアリングエコノミーの活用が検討されれば、多摩・島しょ地域自治体が優先する課題の解決手段が一つ増えると考えられます。
優先する課題 | 対応するシェアサービス例 |
---|---|
社会福祉(子育て支援) | 時間シェア、スキルシェア |
自主財源の確保 | クラウドファンディング(ガバメントクラウドファンディング) |
優先する課題 | 対応するシェアサービス例 |
---|---|
災害対策 | ホームシェア、カーシェア |
観光振興 | ホームシェア、スペースシェア、時間シェア、スキルシェア |
自治体が課題解決手段を検討するにあたって、手順1で複数の手段を検討した結果、課題解決に最適な手法としてシェアリングエコノミーが選定された場合には、手順2のポイントを確認していきます。
【手順1 課題とその解決手段の検討】
(1) 課題の明確化
(2) 課題解決の手段を検討
【手順2 シェアリングエコノミーを活用する場合に検討するポイント】
(1) 法令適合性の確認
(2) シェア事業者選定
(3) 住民への普及啓発