本調査研究は、都市農業・都市農地の位置づけが大きく転換された時機を捉え、今後自治体が農業振興や都市農地を活かしたまちづくりにどのような視座で取り組むべきか、その方向性を示すとともに、実際の取組を進める上で参考となることを目的に、社会動向の整理・分析とその方策を提案しています。
本報告書では、都市農業・都市農地を取り巻く社会動向や、政策機会・ニーズを文献調査やアンケートに基づき明らかにするとともに、各自治体が抱える教育、福祉、防災・減災、シティプロモーション等の政策課題を連動させ、新たな土地利用や都市農業経営スタイルを創出していくための基本スタンスや具体的な方策を提案しています。
また本提言をまとめるにあたって行った調査結果の詳細については、別冊の参考資料編にまとめて掲載しています。
文献調査
アンケート調査
都市農業振興基本法制定の背景:2009 年社会資本整備審議会(農地を都市政策の面から積極的に評価)⇒2015年国土利用計画(戦後初:宅地横ばいの計画)⇒「拡大基調からコンパクトへ」都市政策が転換する中で急速に注目された「都市農地・都市農業」の存在。都市政策全体における位置づけ・役割に留意すべき
土地需要の低下(地価の下落、空き家・空き室率の増加)は、「不動産経営+農業経営」を基本形態とした
多摩地域の都市農業の安定性を根底から覆す恐れ(地価の高さと後継者の存在割合に相関)
2022 年には生産緑地全体の8割程度で買取り申出が可能となり、多くの生産緑地が宅地化可能な状態に移行することから、2022 年を境に急激に都市農地が減少することが懸念されている。(いわゆる2022 年問題)
これに対し、2017 年には特定生産緑地制度の導入、2018 年には生産緑地での円滑な貸借に係る制度(及び相続税納税猶予の適用等)の導入などが進む。いずれの制度利用に関しても自治体の裁量が拡大する傾向
多摩地域では2022 年に買取り申出が可能となる農地面積比率や、所有者の農地所有継続意向の違いから2022 年問題に対する見通しは自治体により大きく異なる。
都市農地所有者の相続人は、農業と疎遠である人の比率が多く、家族で農業を継続していくことが困難になることが想定される一方、現所有者に比べて貸借に対して寛容・前向きな意向が示されている。
多様な目的・主体による都市農業経営、都市農地利用、都市農地創出を複合的に展開し、農業経営形態・農地利用形態の多様性(ダイバーシティ)を高めていく将来像(まちづくり)こそ、人口減少下における多摩地域の都市経営・都市環境の健全性と、都市農業の振興・都市農地の保全を両立する有効な手段
自治体職員もこれまでの都市農業や都市農業振興施策の固定概念や慣習から一度心を解き放ち、思考の再構築とも言うべき「マインド・リセット」(課題解決型、協働・越境、目標設定のマインド・セット)が大切
農業経営形態・農地利用形態の多様性(ダイバーシティ)を高めていく将来像(まちづくり)の実現に向けた具体的な施策を「都市農地利用の多様性」「都市農業経営の多様性」「都市の食農流通の多様性」の3つのアプローチで提案した。
方策の検討にあたり、今般の制度改正等により、従来は困難であった取組が一度に実現できるようになったことから、各施策では取組を通じて実現したい都市農業・都市農地のめざす姿のイメージを明らかにしている。その上で、そのめざす姿を実現するために、自治体が取り組むべき施策について検討を行った。