報告書について
調査研究の成果をまとめた報告書については、右側のリンクからご覧いただけます。
調査研究の概要
1 本調査研究の背景・目的
2 本調査研究におけるeスポーツの定義
- eスポーツとは、コンピューター・ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称である(一般社団法人日本eスポーツ連合より)。
- メディア上では、興行性の高いゲームタイトル(右図の赤色の枠内)がよく取り上げられている一方で、本調査研究は様々な対戦型ゲームを対象とする(右図の緑色の枠内)。
3 eスポーツの特性
- eスポーツには、年齢や性別、障害の有無によらず楽しめるインクルーシブ性がある、絆の形成や認知機能向上に寄与するとの特性があり、この特性は「高齢者福祉」「共生社会の実現」「教育」「観光・産業振興」などの分野における自治体の取組に活用できる。
- 後述するような自治体の取組でゲーム障害になるリスクは低く、本調査研究で取材した先進事例において、ゲーム障害が取組する上での課題となったケースはない。一方で、eスポーツと称した取組を実施することでゲーム障害に関する質問が寄せられる可能性はあることから、ゲーム障害の特徴や対策に関する基礎的な情報を把握しておく必要がある。
4 多摩・島しょ地域の自治体におけるeスポーツ活用の現状把握等(アンケート調査)
- eスポーツを活用している自治体は4分の1程度とまだ少ないが、近年徐々に広がりつつある。自治体におけるeスポーツの活用は草創期にあると言え、本調査研究などの情報に触れることで、活用の幅が広がるのではないか。
- eスポーツは、多世代交流・多文化共生、高齢者福祉、教育の分野で活用されることが多く、潜在的なニーズとしては障害者の社会参画支援の分野も多い。
- 事業を実施している自治体では、人員・予算の不足などが課題であり、未実施自治体では、実施スキーム・方法に関するノウハウ不足、対応できるステークホルダーがいないなどの課題がある。実施事例を参考にスキームを組みつつ、持続可能な体制を構築することが望ましい。
5 多摩・島しょ地域の住民におけるeスポーツ活用へのニーズ(アンケート調査)
- eスポーツを自治体が活用することには6割以上の方が肯定的である。特に高齢者福祉や障害者の社会参画支援、多世代交流・多文化共生、教育を目的とした取組が住民に肯定的に受け止められることから、これらは自治体としても取り組みやすいとみられる。
- 肯定的な印象を持つ理由を見ると、年齢や性別、国籍、身体能力や障害などに関係なく参加できるなどの理由が上位に挙がる。eスポーツの特性であるインクルーシブ性を活用した取組は、理解を得やすいものとみられる。
- 行政が取り組むeスポーツ事業に自身または家族が参加する際のハードルについて、特になしとの回答が最も多い。他、若年層では「プログラムが魅力的ではない」「世間の目が気になる」が多く、高齢者層では「効果がわかりにくい」「行政の取組が周知されていない・イベントや事業を知る機会がない」が多い。eスポーツ事業に参加するハードルは低いものとみられる。その上で、若年層の取り込みにおいてはプログラムの組み方等の工夫、高齢者層に対しては情報発信等の工夫が求められる。
6 eスポーツを活用している事例調査等
事例調査(ヒアリング先)一覧分野 | 自治体名 | 取組内容(開始年度) |
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高齢者福祉 | 東京都西東京市 | 高齢者の集まりの場でのeスポーツ講座の実施(2022年度開始) |
石川県小松市 | 高齢者の集まりの場でのeスポーツ講座の実施(2022年度開始) |
共生社会の実現 | 愛媛県 | 県内の障害者施設へのeスポーツ導入支援(2020年度開始) |
東京都江戸川区 | 中高生の交流施設へのeスポーツの導入(2021年度開始) |
東京都調布市 | 多世代・施設間交流イベントの実施(2022年度開始) |
教育 | 神奈川県横須賀市 | 高校eスポーツ部の設置(2019年度開始) |
東京都江戸川区 | 中高生の交流施設へのeスポーツの導入(2021年度開始) →本編では「共生社会の実現」分野に掲載 |
沖縄県渡嘉敷村 | オンライン部活動としてのeスポーツの活用(2022年度開始) |
観光・産業振興 | 石川県羽咋市 | eスポーツスタジオの設置に向けた機運醸成のためのイベント実施(2022年度開始) |
- 「高齢者福祉」「共生社会の実現」「教育」「観光・産業振興」の分野にて、表のような先進自治体における取組があり、ヒアリングを実施した。
7 提言
eスポーツを活用した取組内容(例)分野 | eスポーツを活用する目的 | 取組内容の例 |
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高齢者福祉 | フレイル予防 (社会性の低下の抑止) | ・ 既存の高齢者コミュニティにおける出張eスポーツ講座の実施 |
デジタル・ディバイドの解消 | ・ eスポーツ体験をきっかけとしたスマートフォン相談会などへの誘導 |
共生社会の実現 | 障害者のウェルビーイング | ・ 障害者施設におけるゲーム機、ソフト、アクセシビリティコントローラーの貸出・購入補助 |
障害者・健常者間の交流 | ・ 障害者と健常者がともに対戦する大会の開催 ・ 障害者施設が開催する地域交流イベントへのeスポーツ導入支援 |
多世代交流 | ・ 高齢者向け体験会における講師役としての学生ボランティアの巻き込み ・ 祭りなど地域イベントにおけるeスポーツの導入支援 |
教育 | 戦略思考やチームワーク、 コミュニケーション能力の 向上 | ・ 部活動や地域でのクラブ活動としてのeスポーツの導入 ・ 交流施設におけるeスポーツブースの開設 ・ 高齢者向け体験会等における講師役としての活躍の場づくり |
ICT分野などのキャリア 形成を考えるきっかけづくり | ・ 大会運営や配信における若年者の巻き込み ・ eスポーツをきっかけとしたICT関連資格取得の推奨 |
自己肯定感の向上 | ・ ゲームを通じて褒め合うことによる、不登校生徒などの交流施設への巻き込み |
(島しょ地域向き) 部活動の選択肢の増加、 本土との交流機会の創出 | ・ 中高生におけるオンライン部活動・地域活動としてのeスポーツの導入 |
- 多くの先進事例において、年齢、性別、障害の有無によらず楽しめる(インクルーシブ)、コミュニケーションツールとして活用できるなどの点が活かされており、これからeスポーツを活用する場合においても意識すべきポイントとなる。
- その上で、自治体がeスポーツの活用について関心を持つ「高齢者福祉」「共生社会の実現」「教育」の分野に照らし合わせて考えると、表のようにeスポーツを活用できる。
- eスポーツの活用が自治体のみで完結することはなく、民間と連携して取り組む必要がある。
- 民間に対して連携を打診する上でも、eスポーツを活用することの目的を明確にした上で、実施体制を構築することが望ましい。
8 まとめ
- eスポーツには、「年齢や性別、障害の有無によらず楽しめるインクルーシブ性がある」「絆の形成や認知機能向上に寄与する」などの特性がある。
- 行政が年齢や性別、国籍、障害などに関係なく参加できるといったeスポーツの持つ特性を活かして事業に取り組むことは、住民からも肯定的にみられている。
- 多摩・島しょ地域におけるeスポーツの活用に取り組む自治体はまだ少ないが、「高齢者福祉」「共生社会の実現」「教育」分野での活用は、自治体・住民双方において関心が高い。
- これらの分野においてeスポーツを活用している先進事例では、フレイル予防や、障害者・健常者間の交流機会の創出、コミュニケーション能力の向上などの効果が得られており、自治体がeスポーツの活用に取り組むことは社会的な意義がある。