情報のデジタル化によって、住民が情報を受け取る手段の選択肢は広がっています。年齢やライフスタイル等の属性によって関心のある情報や利用する媒体は異なり、さらに関心のある情報の分野によっても情報を受け取る手段が異なることもあると考えられます。自治体からの情報発信においても、デジタル媒体の活用により、即時性や利便性が向上する一方で、従来の情報発信方法では、必要な情報を必要な住民に届けられないという事態が起こることも考えられます。
本調査研究は、アナログ、デジタル問わず自治体が情報発信に利用する各媒体の特性や先進的な取組等を整理するとともに、住民アンケート等からさまざまな属性を持つ住民それぞれのニーズを明らかにすることによって、多摩・島しょ地域の自治体が情報発信媒体を効果的に選択したり、活用したりする際の参考となることを目的として実施しました。
●情報通信機器の世帯保有率の構成は近年大きく変化しており、スマートフォンやタブレット端末の保有率は増加傾向で推移。
●インターネット普及やICT の発展により、日常生活の中で情報発信のデジタル化が大きく進展。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)等のアプリケーション・サービスの利用があらゆる世代で浸透。
アンケート等から、多摩島しょ地域における自治体情報発信の課題を次のようにまとめました。
デジタルによる情報発信の魅力は即時性と情報拡散性ですが、紙媒体を想定した決裁ルールでは、迅速な発信・回答ができない可能性があります。SNS は安価に情報を広められる反面、インターネット上のトラブルのリスクもあり、公的立場のSNS運用は注意とスキルを要します。
また、広報部署の人員不足を感じている自治体が半数を超えており、新しい情報発信媒体の導入は業務負担が増し、積極的にはなりにくい状況だと考えられます。
広報部署が関与できない外部要因が複雑に絡み合い成果に帰結するため、因果関係の説明は難しく、また、厳格な広報事業の評価は作業自体が負担であり、広報活動の妨げになるという声も聞かれますが、目標と現状とのズレを把握する手段を持ち合わせていないと住民不在の広報となり、住民の広報離れの原因となる可能性もあります。
先進的な取組をしている自治体や関係事業者にヒアリング調査を実施しました。
ヒアリング対象団体 |
ポイント |
広島県呉市 |
広報紙において市内で頑張っている若者を記事に取り上げ、インタビュー動画と連携させている |
奈良県生駒市 |
地元フリーペーパー、百貨店、薬局など市役所以外の施設等を活用した情報発信を行っている |
千葉県千葉市 |
自治体が持っている個人情報を有効に活用し、住民一人ひとりに合ったサービスの通知に取り組んでいる |
東京都渋谷区 |
広報紙、SNSなど、アナログ・デジタル問わずさまざまな媒体を活用して住民に情報を発信している |
東京都杉並区 |
広報戦略を策定し、広報専門監とともに全庁で情報発信に取り組んでいる |
東京都三鷹市 |
デジタル社会を見据えたビジョンを策定し、情報のデジタル化に対する取組を検討している |
株式会社ホープ |
スマートフォンでの閲覧に適した電子版広報紙を掲載するサービスを展開している |
LINE株式会社 |
住民があらかじめ登録した分野の情報を届けることができる自治体向けアカウントを提供している |
課題を解決するための取組を、以下のように提案しました。
媒体の特性を理解した上で、対象や情報の種類に合わせて媒体を選択したり、連携させたりすることや、住民により身近なものであれば外部の媒体やツールも利用することなど、自治体の情報発信における各種媒体の望ましい組合せを「ベストミックス」としてそのイメージを提示しました。
デジタル媒体に適した業務フローに見直すとともに、運用リスク対策としてガイドライン・マニュアルの作成や職員に対する利用可能なメディアの周知、浸透の取組を提示しました。
高齢者に向けた教育・サポート、障害者の異なるニーズに応じたマルチソースの確保や民間団体と連携した外国人への情報支援等の取組を提示しました。
最終的な結果だけに着目するのではなく情報伝達の各段階に着目した効果測定やSNS等の容易に取得できるデータの活用、情報発信業務の標準化及び運用スキルの向上等の取組を提示しました。