高齢化や核家族化の進展に伴い、ペットに心の安らぎを求める人が増えています。
住民の生活に密着した業務に携わっている基礎自治体においては、ペットが絡む様々な業務が、複数の部署にまたがって存在しています。
例えば、現在大きな問題となっている事柄の一つに、多頭飼育崩壊などの飼育上のトラブルが挙げられます。このような問題は、「単なるご近所トラブルの一種」と思われがちですが、ペットを適正に飼育できない人の背景には、社会からの孤立などの人間社会の問題が潜んでいることが多いといわれています。
しかし、現在の行政の縦割りシステムでは、「動物は動物」、「人は人」と分けて対応せざるを得ません。総合的な対応を行う部署は決まっておらず、動物担当部署(主に犬の登録や狂犬病予防注射等の担当課)と福祉担当部署等との間で情報共有や連携の取組を行うこともほとんどないという場合、動物の問題か人の問題のいずれかがそのまま放置され、問題の根本的な解決にならないことが考えられます。
また、災害が多い日本において、災害時のペットの取扱いの検討は喫緊の課題と言えます。飼い主の防災意識の醸成や、避難所でのペットの取扱い方の明確化等を後回しにしてしまうと、いざ大規模災害が起きた場合、自治体は動物関連の問題で労力を割くことになりかねません。
本調査研究では、基礎自治体が抱えるペット問題の解決を目的に、多摩地域における地域・部署・官民の垣根を越えた連携体制の構築等具体の取組を提言します。
アンケート調査や先進事例調査(本編参照)を踏まえて、多摩地域におけるペット行政の課題を、以下の3種類に分けました。
また、それぞれの課題をさらに3つに細分化し、課題を整理しました。
多摩地域の自治体を対象に行ったアンケートでは、高齢者等社会的な支援が必要な人の入院や死亡に伴い、飼っていたペットの引取先が見つからないといった事案が多いことが確認されました。
そこで、ケーススタディとして実際に発生した同様の事案を取り上げ、社会的な支援が必要な人が飼育するペットについてどのような問題が発生し得るのかを考察するとともに、それを抑制するための対応策について検討しました。
ケーススタディから導き出した、ペット問題の発生防止・早期収拾に必要な関係者間の連携図は以下のとおりです。
基礎自治体は、限られた財源の中で、様々な問題に取り組んでいかなくてはなりません。目の前には、解決すべき行政課題が山積みとなっています。そのような状況を十分認識した上で、本調査研究ではペットの問題を取り上げました。
「人間の問題だけで手一杯なのに、ペットの問題に時間を割いたり、貴重な税金を投入したりする余地はない」
そんな意見もあるでしょう。
しかし、今こそペットの問題に取り組まなければならない理由があるのです。それは、「ペットはかわいいから」というような感情論ではありません。
少し前までは、あくまでもペットは人間の「所有物」に近い存在でした。ところが、ここ数年でペットの立ち位置は大きく変化し、「所有物」ではなく、「家族」となりました。ペットを飼っていない人の中でも、ペットを飼っている人にとっては「家族」であるという認識が浸透しています。また、ある人にとって「家族」でも、動物が苦手な人にとっては、「厄介もの」です。
ペットが「家族」となったことで、ペットを好きな人と苦手な人との間には、これまで以上に大きな、考え方の差が生じてしまいました。もはや、「人間は人間」「ペットはペット」と、分けて考えることはできません。人間社会の問題の一部として、ペットの問題に取り組むという認識を持つ必要があります。
現在の行政の組織体制や、拠り所にしている指針等のほとんどが、ペットがあくまで「所有物」という認識のもとで作られたものです。ペットの立ち位置が変わった今、行政の仕組みや考え方も変えていかなければ、そのしわ寄せは住民や自治体職員が被ることになってしまうのです。
本報告書では、ペット問題の解決に向けた多くの先進事例を紹介しました。取り上げた先進事例のすべてに共通するのは、「ペットの問題に取り組むことで、人間社会の問題も解決できる」ということです。
基礎自治体においては、ペットの問題に関する取組が、我々が担うべき「住民福祉の向上」に直接的に結びつくものであるということを認識するとともに、この問題について自治体のみで取り組むには限界があることから、住民にも啓発し、地域全体で取組んでいく必要があります。