大会の主催地にあり、都心近郊に位置する多摩・島しょ地域市町村においても、積極的に東京2020大会の一翼を担い、オール東京で一体となって、「史上最高のオリンピック・パラリンピック」を実現し成功に導くことが求められている。しかし、多摩・島しょ地域市町村の中には、「東京2020大会を契機に何かに取り組みたいが、具体的にどのような事を行えば良いのかわからない」という声も多く聞かれる。 そこで、本調査研究はこうした状況を踏まえ、東京2020大会をまたとない好機として捉え中長期的な地域の課題解決につながるレガシーを創出すべく、多摩・島しょ地域の現状や意向、特性を把握・分析した上で、そこから導出される各市町村が取り組むべき効果的かつ継続可能な実践的方策を提案する。
オリンピック憲章では、「オリンピック競技大会の有益な遺産(レガシー)を、開催国と開催都市が引き継ぐよう奨励する」 ことをIOC(国際オリンピック委員会)の使命と役割と定めている。レガシーは、開催都市ないし開催国に大会開催準備段階から開催後にわたり長期的に、かつ、社会全体に幅広くもたらされるポジティブな影響と捉えられる。
多摩・島しょ地域は、競技施設が集積する臨海部と比べると、ハード分野におけるレガシー創出は限定的と考えられ、ソフト分野におけるレガシー創出の優位性が高い。ソフト分野のレガシー創出にあたっては、大会開催前における人々の意識の変化や気運の高まりを活かして、課題解決に資する取組を促進することが重要である。その際には、新たな取組だけでなく、既存の取組を加速化・強化する視点が重要である。
主たるレガシーとしては、住民の健康増進、共生社会の形成、ボランティア文化の定着等が挙げられるほか、来訪者視点に基づき形成された安全・安心で魅力的なまちや地域ブランドは交流人口や定住人口の増加に寄与するものである。多摩・島しょ地域が、大会開催後も「選ばれる地域」となるためには、大会開催前から来訪者に配慮したまちづくりやおもてなし意識の醸成に積極的に取り組むことも重要である。
多摩・島しょ地域における東京2020大会開催の意義は、レガシーを創出すべく大会開催前における人々の意識の変化や気運の高まりを活用して課題解決に資する取組を推進すること、そして、大会開催後の創出したレガシーの活用による継続的な課題解決を促進することの2点にある。オリンピック・パラリンピック大会の趣旨や、これら2つの大会開催の意義を踏まえ、多摩・島しょ地域におけるレガシーの創出分野として、(1)「スポーツ・健康」、(2)「障がい者」、(3)「まちづくり」、(4)「文化・教育」、(5)「経済・観光」の5つを設定する。
「スポーツ・健康」分野では、多摩・島しょ地域市町村における主な今後の取組として、あらゆる世代がスポーツ・運動をする機会や環境の充実等が挙げられる。特にウォーキング等ができる遊歩道や自転車道の整備・改修に対する住民の支持は高い。また、事前キャンプ誘致など大会選手との交流に対する住民の評価も高く、取組を通じて大会に向けた気運醸成や教育への活用、国際交流の促進が期待される。
「障がい者」分野では、障がい者に対する理解は十分に進んでいないとする住民が多く、障がい者理解促進のための啓発活動の必要性が高い。
「まちづくり」分野では、市町村においては大会による当該分野への影響度はそれほど高くないと想定されているものの、住民の期待度は比較的高い。観光客の受入環境の充実という観点でまちの美化・清掃活動などに取組意向を示す住民も一定程度存在することから、こうした住民の意欲を活用していく視点が重要である。
「文化・教育」分野では、比較的多くの市町村でボランティアへの参加希望者が増えることが想定されており、ボランティア養成への取組意識も高い。住民においては取組意向を有する者は約3割であるが、その意欲の活用と受け皿づくりが重要となる。加えて、ボランティア活動への取組意向を持たない約半数の住民に対しても、活動への関心を喚起するための取組が必要である。
「経済・観光」分野では、約6割の市町村が地域の魅力や文化のアピールについて取組意向を有している。また、住民においても、多摩・島しょ地域らしさがあり日常生活の中で比較的身近な地域資源についてのアピールに期待をしていることから、住民との連携による地域の身近な魅力や宝の再発見に向けた取組等が必要である。
多摩・島しょ地域らしいレガシー創出に向けた取組の検討にあたって、次の3つの取組理念を導出した。
(1)実施しやすく持続可能な取組を推進する。
(2)地域を見直し、気づきを得る好機とする。
(3)近隣市町村等との広域連携を積極的に推進する。
この取組理念に基づき、次の6つのレガシー創出に向けた取組方策を導出し、その具体的な内容や展開イメージ、参考事例、ロードマップなどを示した。