報告書について
調査研究の成果をまとめた報告書については、右側のリンクからご覧いただけます。
調査の概要
調査研究の背景・目的
食育基本法の制定から10年がたち、家庭や地域、行政、企業などにおいて、食育に関する様々な取組が行われてきました。昨今では、文部科学省の「スーパー食育スクール」事業のように、食育のもたらす教育効果を科学的に検証しようという取組が行われたり、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されるなど、改めて食育や食に対して注目が集まっています。
ライフステージに応じた食育
食は人が生きていく上で土台となるものであり、食育は食育基本法において、知育・徳育・体育の基礎となるべきものと位置付けられています。食に関する適切な知識や習慣を身に付け心身を健やかにし、食にまつわる様々な体験を得て豊かな人間性を育んでいくことは、子ども達をはじめ、すべての世代に必要なことです。
本調査研究では、食育に関するライフステージごとの課題やニーズ、生活者の意識や生活実態、食をめぐる様々な社会の動きなどを踏まえた上で、食育の効果や有意義な食育事業のあり方を提示しました。
持続可能な社会・地域づくりに向けた食育
食育は、地産地消の促進やエネルギー問題、食文化の継承、コミュニティづくりなど、持続可能な社会・地域づくりに係るテーマや課題とも深い関連性があります。毎日の暮らしに身近な食を切り口とすることで、これらに分かり易く、具体的にアプローチすることができ、個人や社会全体の取組を促すことができます。
本調査研究では、食育が健康の分野にとどまらず、環境や産業振興など市町村の様々な施策分野において効果が期待でき、持続可能な社会・地域づくりに資する側面について提示しました。
多摩・島しょ地域の食育をめぐる現状と課題
食育や食に対する生活者の意識・実態
- 多摩・島しょ地域の住民の6割以上が「食育に関心がある」
- 多摩・島しょ地域の住民の半数以上が「食育に関心はあるが、実際には取り組んでいない」(下グラフ)
- 特に、30~40代女性は、「食育に関心はあるが、実際には取り組んでいない」との回答が多く、取り組んでいない理由として、「食育に取り組みたくても具体的に何を行えばよいか分からない」が多い。
- 野菜の摂取量は、多摩・島しょ地域の住民の半数近くが「一日に、約70グラム以上210グラム未満」。「350グラム以上」摂取している人は、全体の1割に満たない。
※ 多摩・島しょ地域の住民に対するアンケート結果(回答数:1,504名)より
<多摩・島しょ地域の住民の食育への関心と取組>
市町村における取組の現状と課題
- 多摩・島しょ地域の市町村の食育事業の対象(ライフステージ)は、「乳幼児期(0~5歳)」と「義務教育期(6~15歳)」が多く、「青年期(16~19歳)」は少ない傾向。
- 多摩・島しょ地域の市町村の食育事業の対象(分野)は、「健康」と「教育」が多く、「環境」や「福祉」は少ない傾向。
- 多摩・島しょ地域の市町村の食育事業の課題は、「食育事業の効果が測れない」、「食育は幅広い分野にわたり、どの分野から取り組めばよいか優先順位が付けられない」が多い。
※ 多摩・島しょ地域の市町村に対するアンケート結果(回答数:39自治体)より
ライフステージに応じた食育
これまで食育は、乳幼児期や義務教育期など、子どもに対する取組が重点的に行われてきましたが、今後は、青年期以降の大人の食育にも力を入れていく必要があります。どのライフステージにおいても、食生活・食習慣をすぐに変えることは難しいため、現在と将来を見据えて、すべてのライフステージを対象に食育に取り組んでいく必要があります。
子どもに対する食育事業の方向性
- 食の楽しさを実感し、基本的な食嗜好・食習慣、食に対する感性や興味・関心を育めるような食育事業を展開。
- 保護者の影響が大きいため、保護者に対してもアプローチできるような取組が有効。
大人に対する食育事業の方向性
- 多忙な人や食育への関心が低い人も無理なく取り組めるように、対象者のニーズに合致し、効果を予測できるようなツールなどを活用して事業展開することが有効。
- 世代特有の接点(通勤・通学経路や外食など)を活かした事業や、対象者の興味・関心の高い題材を活用しながら取組を促していくことが効果的。
- 高齢期は、食育の担い手として、社会参画を促すような取組が効果的。
持続可能な社会・地域づくりに向けた食育
食育は、市町村の様々な施策分野に効果をもたらします。 関連する施策分野を、「環境」、「産業振興」、「文化振興」、「健康福祉」、「教育」、「コミュニケーション」の6分野に分類しました。
また、各施策分野ごとの関連テーマを抽出するにあたり、食のライフサイクル(「生産」、「加工」、「流通」、「消費」、「廃棄」)を設定し、整理しています。
持続可能な社会・地域づくりに向けた食育に関するテーマ例
食品ロス削減やフードマイレージの取組・・・「環境」負荷の低減地産地消や地域の食産業を巻き込んだ食育事業・・・「産業振興」の推進困窮世帯に対する食支援・・・「健康福祉」の推進共食・・・コミュニティづくりなど「コミュニケーション」の促進
効果的な食育事業の方向性
- 「地産地消」「食品ロス」「共食」などのテーマは、「環境」、「産業振興」、「健康福祉」など、複数の施策分野に関連するため、各分野の所管部署が連携することで、効率的・効果的な事業展開が可能。
- これまで主に対象とされてきた「消費」だけでなく、「生産」から「廃棄」までの食のライフサイクル全体を捉えることで、より効果的な食育事業が可能。
ワークショップによる食育事業の実践と検証
食育事業の一例としてワークショップを実施し、事業設計のポイントや事業効果の検証を行いました。
実施概要
- 方法・・・ワークショップ形式(1グループ7名×2グループ)
- 対象者・・・多摩地域在住の30~40代女性で、食育に関心はあるが具体的に何を行えばよいかわからない、家族のお弁当を週1回以上作っている人。
- 内容・・・栄養バランス、地産地消の推進、食品ロス削減をテーマとして、家族へのお弁当づくりを題材にしたグループディスカッションや「そのまんまお弁当料理カード」(群羊社)を使った実習を実施。また、3週間後にアンケート調査を行い、参加者の意識・行動変容の効果を測定。
事業効果と事業設計のポイント
ワークショップによる効果
- 参加者にとって関心の高い家族へのお弁当づくりを題材に、栄養バランスや地産地消、食品ロス削減など、食育の多様なテーマを盛り込みながらワークショップを実施した結果、参加者の意識・行動変容を確認。
- 特に、当初は関心の低かった地産地消、食品ロス削減に関する意識・行動についても効果があらわれた。
事業設計のポイント
- 参加者の興味・関心を引く題材を盛り込むことで、普段の生活の中での実践が期待できる。
- 参加者がもともともっている知識や普段の実践の程度に応じて情報量の設定やツールの活用を行うことで、参加者の意識・行動変容を促進。