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自治体におけるナッジの活用に関する調査研究報告書 ~ちょっとした工夫で政策をより良くするには~

[2023年3月29日]

報告書について

調査研究の成果をまとめた報告書については、右側のリンクからご覧いただけます。

調査研究の概要

1 ナッジとは

ナッジとは、英語で「ひじで軽くつつく、背中を押す」という意味である。行動経済学の分野では、転じて、人々がより良い選択肢を自発的に選択できるように後押しする手法のことを指している。


特長とナッジ活用の留意点

  • ナッジの特徴は、(1)選択の自由は行動主体にあること、(2)経済的なインセンティブを大きく変えることはないこと、(3)行動経済学の知見に基づく手法であること、(4)環境をデザインすること、(5)他の政策手段(情報的手法、財政的手法、規制的手法)を補完する手法の一つであること。
  • 行動経済学とは、心理学、社会学及び脳科学の考え方を経済学に取り入れた学問分野の一つである。我々人間はすべての判断を合理的にできるとは限らず、意思決定の癖(バイアス)がある。このようなバイアスを理解した上で適切な行動をとれるようなコミュニケーションの方法を検討することが重要である。
  • ナッジの推進にあたっては、人々の意思決定に介入した効果がどの程度出たのかを検証することも重要である。これは、文化的・社会的背景が個人の行動に影響を与えるため、特定の成功事例をそのまま横展開しても期待した効果が得られない場合などがあるためである。
  • また、行動経済学の知見は、悪用しようと思えば、恣意的な誘導や不利な状況を選ばせるように誘導することもできる。特に、公共政策への適用という観点では、ナッジは“ちょっとした工夫”により実行できるものもあるため、必ずしも政治的・行政的な手続きを踏まずに実践されることもあり、政策実行者は良いナッジかどうか倫理的な側面を常に考えることを強く意識するべきである 。

2 ナッジ推進にあたっての取組体制

  • 世界では200以上のナッジ・ユニットが設立されている。我が国では、環境省が先駆けて日本版ナッジ・ユニットBEST(Behavioral Sciences Team)を組成し、その後横浜市や尼崎市などの自治体に広がりつつある。
  • ナッジを推進する体制づくりにおいては、組織内のサポート、政治的サポート、専門性や経験・情熱を備えた人材、組織的な位置づけの適切さ、実証主義、アカデミアとの連携という6つの要素を備えていることが重要であるとされている。これらの要素がどのような状態であれば望ましいかは、各地域の背景やナッジを取り入れる目的に応じて異なるため、先行事例等を参考にしながらそれぞれの地域の実情に応じて考えていくことが必要である。

3 多摩・島しょ地域の現状と課題

アンケートから得られた示唆

多摩・島しょ地域におけるナッジの認知・理解の状況
  • 多摩・島しょ地域の半数程度の市町村ではナッジを認知・理解している職員、ナッジ活用への関心を持っている職員がほとんどいない状況であり、関心がない理由の大半もナッジの認知・理解不足であるため、まず何よりも優先してナッジの認知・理解を高めていく必要性がある。



多摩・島しょ地域におけるナッジ活用状況
  • その中でも、多摩・島しょ地域では検診の受診勧奨等を中心にナッジの活用が一定程度進んでおり、全国と比べてもナッジの活用割合は高い水準であることが明らかになった。今後は、対象分野を広げていくような施策が必要だと考えられる。ナッジ活用のきっかけとしては多摩・島しょ地域・全国ともに担当職員の発案によるものが最も多いこと、新しい手法を検討し取り入れる風土があるほどナッジ活用割合が高い傾向にあることなどから、スモールスタートで「やってみよう」の精神を醸成すること、自治体内部での成功・失敗体験を共有すること等の重要性が示唆された。



ナッジ検討時における課題
  • 課題としては、行動科学や評価検証の知見の不足が多く挙げられ、多摩・島しょ地域・全国ともに評価検証を行っているケースは3割前後であることが分かった。行動科学・評価検証の知見不足をハードルだと思わず、試行錯誤的に実践し、評価検証にはこだわり過ぎずに目的に応じて必要性や方法を判断することが、ナッジの活用促進に向けては重要ではないかと考えられる。



4 ナッジに関する事例調査

全国の自治体における先進事例について、16事例のデスクトップ調査を行った。さらに、その中からナッジ活用のきっかけや課題意識、庁内の体制や活用までの困難、ナッジの効果などを把握するため、9事例のヒアリング調査を実施した。

先進事例(ヒアリング先)一覧
自治体/組織分野事例
茨城県つくば市健康・福祉、防災・災害対策、等ナッジを活用した、避難行動要支援者名簿提供に関する同意書の返送率向上
東京都八王子市健康・福祉ナッジを活用した大腸がん検診継続受診率の改善
京都府宇治市健康・福祉手指消毒の促進に向けた「イエローテープ作戦」
沖縄県浦添市健康・福祉ナッジを活用した大腸がん検診の受診率向上
北海道環境ナッジを活用したレジ袋の辞退促進
神奈川県三浦郡葉山町環境葉山町きれいな資源ステーション協働プロジェクト
長野県塩尻市税金ナッジ理論を活用した住民税申告勧奨
千葉県千葉市子育て・教育/ 人事ナッジを活用した男性職員の育休取得促進
岡山県食品衛生チラシ改善による研修会への参加申込み率向上

5 提言

本調査研究では、主な論点を下記の3本柱に絞って整理した。

提言の三本柱
  • 職員個人が抱える課題は、ナッジの習得期・実践期・展開期により異なり、それぞれの課題に応じて対応策を整理することができる。
  • 自治体が組織として抱える制度・インフラ面の課題には、「風土・マインドの醸成」、「事例・情報の共有」、「外部リソースの活用」が挙げられる。新しいことを取り入れることへの評価や失敗を許容する評価制度等による自主的な学びを促す仕組み、庁内イントラ・研修等を活用したノウハウの共有、自治体内のみに閉じることなく外部とのネットワークを積極的に構築すること等が有用である。
  • ナッジの推進体制は、個人単位で進める場合や、複数名のチームを組成して進める場合もあり、目的に応じて選択したり組み合わせたりすることが望ましい。
  • ナッジを行政組織内に浸透させ、様々な分野で広く取り入れるには、行動経済学のほか、サービスデザイン、統計分析等の複合的な専門知識や、人事異動に左右されないノウハウの蓄積が重要なポイントとなる。これらの課題に対応するため、行政課題を抱える担当課がナッジを活用したいと思った段階から実行に移し、さらには継続的な取組にするまでをサポートするような組織を設置する、またはそのような機能を既存の組織内に組み込むことが考えられる。

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問合せ

公益財団法人 東京市町村自治調査会 企画調査部 調査課

電話: 042-382-7722 ファックス: 042-384-6057

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