近年、日本では台風や地震などの災害が頻発しており、多摩・島しょ地域においても災害はより身近なものとなっている。
その中、避難・避難所のあり方は度々起こる災害等により、大きく変化している。
本調査研究では、台風などの水害、地震・津波発生時に、自治体が平時よりも少ない人員・資源となる状況下で、住民の安全と良好な生活環境を提供するための避難・避難所のあり方について提示するとともに、防災担当以外の職員が災害を我が事として考え、取り組めるための方策についても示唆することを目的に実施した。
• 避難行動要支援者(高齢者、障害者等)の支援が重要な課題となっているが、要支援者の個別避難計画の作成は十分進んでいない。
• 住民の自主的な避難所運営・協力について、自治体の期待と住民の意識にギャップがみられる(下記グラフ参照)。
• 災害対応の不安な点として、避難所運営時の急病人対応や要配慮者への対応、住民からの要望への対応など、避難所運営につき不安を抱いている職員が多い。
• 自治体の避難所運営における課題は、運営要員の確保と考える向きが多い(下記グラフ参照)。
避難・避難所のあり方に関する自治体やNPO法人、民間企業にヒアリングを実施した。
事例調査のポイントは下記のとおりとなる。
対象先 | ポイント |
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大分県別府市 | 全国に先駆けて、「インクルーシブ防災事業」による要支援者(障害者)の個別避難計画の作成と、これに基づく訓練・検証を実施。 |
愛媛県宇和島市 | コロナ禍が深刻化する中、要配慮者のホテル等への宿泊費補助制度を創設し、要配慮者の安全な避難と、分散避難を推進。 |
熊本県益城町 | 熊本地震の教訓を踏まえ、「アクションカード」の作成や受援計画の拡充など、災害対応や避難所開設・運営に関する多様な取組を実施。 |
高知県黒潮町 | 南海トラフの巨大地震に備え、地区ごとのワークショップを重ね、津波避難タワーや避難路の整備など、精力的な津波防災対策を推進。 |
静岡県三島市 | 「避難所運営基本マニュアル」の整備や「避難所運営会議」の開催等により、防災分野での積極的な住民及び職員の参画を推進。 |
特定非営利活動法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク | 被災地において、NPO、行政、企業、ボランティアなど関係者の情報共有会議を行い、情報収集や各種調整等を実施。 |
特定非営利活動法人レスキューストックヤード | 被災地支援NPO として、避難所のアセスメントや被災者のケア、運営支援など、専門的ノウハウを生かした多様な支援を実施。 |
綜合警備保障株式会社 | 自治体向けの災害対策サービスを提供。避難所内での犯罪発生防止には、警備員巡回、出入口におけるカメラの設置など、発生を「抑止」する取組が重要との示唆。 |
生活協同組合コープみらい | 停電地域や孤立集落への配達、被災地への物資・ボランティア支援、防災教室の出前授業の実施など、多様な防災・減災活動を展開。 |
一般的に、災害が起きてからできることは少なく、災害発生後は、自治体は生活再建に向けた復旧、復興に注力する必要がある。そのため、自治体は事前の備えに力を入れ、災害が起きてからの避難や避難所運営は、自治体職員の人員不足により、住民をはじめとする自助・共助で対応しなければ難局を乗り越えられない。
こうした前提のもと、調査結果を踏まえた多摩・島しょ地域における避難・避難所のあり方に関する課題と、これに対応する方向性と取組を、次のとおり提言する。