2015年9月に国連サミットで採択されたSDGsのゴール12では、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。」というターゲット12.3が設定されています。このことが後押しとなって、2019年10月1日に「食品ロスの削減の推進に関する法律」(以下「食品ロス削減推進法」という。)が施行され、市町村にも食品ロスの削減の推進に関する計画策定の努力義務が課されました。
我が国では年間570万トンもの大量の食品ロスが発生しており、国民1人当たりに換算すると、毎日お茶碗1杯分(約124g)の食品を捨てていることになります。
また「食品ロス」という言葉は、1990年代からメディアで取り上げられるようになったと言われ、古くて新しい課題です。
そのような状況を踏まえ、本調査研究は、「ごみの減量」、「食育」、「貧困層への支援」を3つの柱として、まちぐるみで行う食品ロス削減のあり方を検討し、多摩・島しょ地域の自治体にとって食品ロスの削減に資する内容を目指しました。
▲食品ロス削減事業を進めるにあたっての課題(複数回答)
▲食品ロス削減の取組についての認知・実施状況・意向(複数回答)
食品ロスの削減に効果的な取組を進めている先進事例の調査を行い、多摩・島しょ地域で展開できるポイントをまとめました。
事例 | 多摩・島しょ地域における展開に向けて |
京都府 京都市 | 〇情報交換会議を毎年開催し、食品ロス削減に関する各部門と連携。 〇継続的なごみ組成調査を実施し、調査結果を施策検討、目標設定、事業実施に活用することで、調査の重要性に対する庁内の認識が向上。 〇食品ロスの金額換算値や、30・10運動による食べ残し削減効果といった調査・分析結果を啓発物等に活用。 〇事業者との連携によって販売期限の延長という商習慣の見直しを通じた事業系食品ロスの削減を実現。また、消費者の受容度などの懸念も払拭し、売上への貢献や従業員のモチベーションアップ等の効果も実現。 〇自治体が食品ロス削減の旗手となり、食品ロス削減に取り組む域内事業者の懸念の払拭、フードシェアリングサービス提供事業者の信頼感の構築に貢献。連携する事業者が取り組みやすい環境を作ることで「まちぐるみ」での食品ロスの削減を実現。 |
長野県 松本市 | 〇楽しく環境教育を実施することで、短期的には家族等への波及効果が見込め、長期的には環境配慮や「もったいない」の意識醸成に期待。 〇食品ロス削減に取り組む事業者の認定制度において、制度単体ではなく他の制度と連携を工夫することで、認定に魅力を感じる事業者を広げられる可能性。 〇フードバンク等の貧困支援施策や、フードシェアリング等の事業系食品ロス削減施策では、実行を担う市民団体や事業者を行政が後押しすることによって、幅広い取組と食品ロスの削減が可能。 〇食品ロス削減の具体的方策は、各自治体の地域特性や食品ロス発生状況等を踏まえ、検証も行いながら選択することが重要。 |
東京都 八王子市 | 〇継続的な組成分析調査を実施することで、調査結果を計画策定や市民に対する啓発の材料として活用。 〇「完食応援店」の取組では、庁内の対象が重なる取組を管轄する部門と連携することで効率的・効果的に取組を推進。 〇 庁外の市民団体や教育機関との連携体制を構築するにあたり、柔軟な形態とすることで、取組の幅が広がる効果を期待。 |
東京都 武蔵村山市 | 〇フードドライブは、単発のイベント開催ではなく通年での月例の実施でも、要因・費用ともに負担が比較的小さく、取組が容易。 〇 寄付によって集まった食品の受入先として、同市における社会福祉協議会が運営するフードバンクのような庁外組織と連携することで、安定的・継続的な取組が可能。 |
東京都 水産局 | 〇低・未利用魚の活用により、生産地の機会創出・販路拡大と、消費現場の食育を同時に実現。 〇 食育を通じて生産現場を知ることにより、中長期的な食品ロスの削減につながる意識の醸成が期待。 |
株式会社 クラダシ | 〇売上の一部を社会貢献活動団体や自社が主体的に社会課題に取り組むための基金(クラダシ基金)への寄付に充てることで、消費者や事業者の社会貢献という付加価値の付与にもつながっている。 〇フードロス削減への取組が切り口となって、地域活性化や関係人口の創出といった他の社会課題の解決に取り組むきっかけにもなり得る。 〇事業者がフードロス(事業系食品ロス)削減に取り組むことは、過剰在庫の軽減などのメリットとなる可能性もある。 〇食品ロス削減の旗手としての姿勢を自治体が示すことで、事業者・市民の意識変革の促進、各主体の活動の場の提供、まちぐるみでの食品ロス削減の取組を実現。 |
<自治体における取組の方向性と具体策>
食品ロスの発生抑制のためには「食育」が不可欠である。また、本来食べられるのに捨てられる恐れのある食品については、必要な人に提供することで有効活用され「貧困層への支援」につながる。発生してしまった食品ロスについては、処分量の減量のためにも、発生した食品ロスの現状把握を行うこと、そしてコンポスト化等を通じて「食育」へとつなげていくことが重要である。その結果として、「ごみの減量」が継続的に達成されます。
<古くて新しい「食品ロス」の課題に取り組む意義>
SDGsの広がりや食品ロス削減推進法の施行によって、近年食品ロス削減の機運が上昇しています。
<目標・指標設定による取組の重要性>
食品ロス量や食品ロス削減量など、成果を評価できるわかりやすく具体的な目標や指標を設定することが有効です。
<まちぐるみでの取組推進の必要性>
食品ロス削減の取組は多くの課題ともつながっていることから、自治体は自ら率先して実行するだけでなく、住民や事業者、団体等の取組やニーズをつないでいくことが重要な役割です。
「ごみの減量」「食育」「貧困層への支援」のそれぞれについて、庁内外の関係する人を把握・理解し、自治体がつなぎ役となり食品ロスの削減をまちぐるみの取組とすることで、より有効で発展的な食品ロスの削減に結び付いていきます。
▲「3R」の観点から整理した4つの課題
食品ロス削減の4つの課題 | 自治体における食品ロス削減の取組の提言 |
ごみの減量 | 「食品ロスの発生抑制」のためにはごみの組成調査・分析を行い、地域でどのような食品ロスが発生しているかを見極めることが取組の第一歩である。現状把握を行い、データを活用した啓発、そして給食残渣のコンポスト化等を通じた「食育」につなげていくことが重要である。 |
食育 | 子どもを対象とした環境教育は、短期的に家族との会話による保護者世代への波及効果を見込めるだけでなく、「もったいない」意識を幼少期から醸成することによって長期的に人材を育成する教育効果も期待できる。 |
貧困層への支援 | 本来食べられるのに廃棄されるおそれのある食品については、「必要な人に提供」することで有効活用される。その取組として、フードドライブ等がある。フードドライブは自治体が比較的取り組みやすく、メリットとして域内の貧困問題を住民が認知する機会にもなる点が挙げられ、まちぐるみで取り組むきっかけとなる可能性がある。 |
まちぐるみでの削減 | 食品ロス削減の取組を自治体として自ら取り組むだけでなく、地域内外の事業者や非営利組織、そして住民等をつなぐ役割が重要である。日頃からこれらの事業者や住民等とネットワークを構築し、「ごみの減量」、「食育」、「貧困層への支援」それぞれの取組を行うことが効果的である。 |