2026(令和8)年度調査研究結果発表シンポジウム「生成AIは自治体をどう変えるのか~多摩・島しょ地域自治体の課題と可能性~」を開催しました!
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当調査会では毎年度、市町村の自治に関する調査研究を行っています。
今回、昨年度の調査研究の結果を踏まえ、「生成AIは自治体をどう変えるのか~多摩・島しょ地域自治体の課題と可能性~」と題してシンポジウムを開催しました。
シンポジウム概要
1.日時 2026年7月31日(金) 13時30分から16時45分
2.会場 府中市市民活動センタープラッツ バルトホール
3.プログラム
- 主催者挨拶
加藤 育男 (公財)東京市町村自治調査会 理事長(福生市長) - 基調講演
「生成AI前提で考えるDXの次 ― 10年後の自治体業務はどう変わるか」
佐藤 周一 NTTアドバンステクノロジ株式会社 AIエヴァンジェリスト - 調査研究結果発表
「多摩・島しょ地域自治体における生成AIの活用に関する調査研究」
浅見 幸隆 (公財)東京市町村自治調査会 企画調査部 企画調査課 主任 - パネルディスカッション
【第1部:生成AI活用の今 ~自治体の目線から~】
「生成AI導入から組織変革へ」
太田 耕平 神奈川県 横須賀市 経営企画部 デジタル・ガバメント推進室 担当部長
「窓口DXの最前線 ― 葛飾区における行政特化型AIエージェントシステムの実装と展望」
小原 竹志 葛飾区 政策経営部 DX戦略課長
「小さな町の生成AIへの挑戦」
碓井 洋寿 北海道 当別町 企画部 デジタル都市推進課 主幹
【第2部:意見交換 ~生成AIは持続可能な自治体運営を実現するのか?~】
基調講演
生成AI前提で考えるDXの次 ~10年後の自治体業務はどう変わるか~
はじめに、NTTアドバンステクノロジ株式会社AIエヴァンジェリストである佐藤周一氏にご講演いただきました。

(講演要旨)
現在、多くの自治体がDX(※1)を推進していますが、デジタル人材の不足や業務の増加など課題は山積しています。これまでのDXは既存業務のデジタル化を追うあまり、全体最適化に至らない側面がありました。
そこに登場したのが生成AIです。ゼロからコンテンツを生み出す技術であり、誰もが直感的に活用できる力を秘めています。しかし組織的な導入には、紙資料や複雑な表組をAIが読み取れる状態にする「データのAI-Ready化」という壁が存在します。
この壁を越える近道は「完璧を求めない実践」です。すべてを整えてから始めるのではなく、まずは今ある資料でAI-Ready化を試し、課題をあぶり出しながら精度を上げるアプローチが有効となります。
また、生成AIが扱いやすいよう業務を標準化することは、多摩・島しょ地域のような多様な規模になる自治体が広域連携を行うための布石にもなります。
では、生成AIが職場に定着した10年後の自治体業務はどう変わるのでしょうか。
将来的には、自律的に思考・実行する「AIエージェント(※2)」が定型的な窓口対応や書類作成を担うと予測されます。これは単なる合理化が目的ではありません。最大の理由は、自治体職員が役所を出て住民と対話し、個別の困りごとに寄り添う時間を創出することにあります。
生成AIがどれほど進化しても、「どのような地域社会をつくりたいか」というビジョンは描けません。AI時代に最も求められるのは、地域の未来に対する人間のビジョン、さらに言えば「欲望(Desire)」です。です。生成AIは私たちが本来注力すべき「人に向き合う仕事」を取り戻すための、心強いパートナーとなるはずです。
(※1)Digital Transformation の略(「trans」には「cross」の意味があり、「cross」は「X」と表現されることから、DX と略記される。)。ICT(情報通信技術)の浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること
(※2)周囲の環境やコンテキストを自ら把握し、明確な目標に向かって自律的に行動を計画・意思決定し、タスクを遂行できるAIを指す。
調査研究結果発表
多摩・島しょ地域自治体における生成AIの活用に関する調査研究
続いて、当調査会の浅見幸隆主任から、2025(令和7)年度に実施した「多摩・島しょ地域自治体における生成AIの活用に関する調査研究」結果について発表を行いました。

(講演要旨)
人口減少に伴う人材不足が進む中、限られた人員で安定した公共サービスを提供するため、自治体業務における生成AIの活用が注目されています。活用状況をみると、全自治体の40%を超える自治体で導入等が進み、多くの自治体で生成AIの活用が広がっています。現在は、挨拶文等の文章作成や議事録の要約など、日常的な業務の効率化を目的とした活用が多くみられます。
多摩・島しょ地域の自治体においても導入が進んでおり、今後は「住民サービス窓口」や「広報」など、住民と直接かかわる業務での活用が期待されています。一方で、「職員のリテラシー不足」や「予算面の制約」「セキュリティへの懸念」が共通の課題となっています。
こうした課題に対し、独自の工夫を行う自治体もあります。山形県南陽市では、職員や市民が活用できる「プロンプト(指示文)集」をホームページで公開し、AIに触れるきっかけづくりに取り組んでいます。静岡県では広報活動に画像・動画生成AIを導入し、著作権上のリスクに配慮したサービスを選定することで、安全性を確保しながら広報物の作成時間の削減につなげています。
生成AIを組織に定着させるには、段階的な対応が重要です。導入初期は、小さく安全に始め、身近な成功体験を共有して心理的ハードルを下げることが有効です。より高度な活用へ進むには、生成AIの利用を個人の裁量に任せるのではく、業務プロセスそのものに組み込み、組織として活用していく視点が大切です。
何より重要なことは、「技術導入」を目的にしないことです。各自治体で今できることを見極め、従来の仕組みと組み合わせながら、組織全体として業務の質や効率を高めていくことが、今後ますます求められます。
パネルディスカッション
続いて、自治体における生成AIのあり方について、理解を深めることを目的に、基礎自治体から3名の方にご登壇いただきました。はじめに、それぞれの取組内容についてご紹介いただいた後、パネルディスカッションを行いました。
【第1部】生成AI活用の今 ~自治体の目線から~
生成AI導入から組織変革へ
神奈川県横須賀市経営企画部デジタル・ガバメント推進室担当部長である太田耕平氏から横須賀市での生成AI導入についてご紹介いただきました。

(講演要旨)
2023(令和5)年4月、横須賀市は、全国に先駆けて生成AIを全職員向けに導入しました。現在では幅広い年代の7〜8割の職員が利用し、「困ったらAIに聞く」文化が定着しています。
早期導入の背景には、文章作成や法令の翻訳といった行政事務と生成AIの相性の良さへの確信がありました。「効果があるツールを使わないことによる市民サービスへの損失」という危機感が、迅速な決断を後押ししました。
約1ヶ月という短期間での全庁導入を実現できたのは、柔軟なDX関連予算やSaaS(※3)型サービス契約のための法人カード作成といった事務インフラが整っていたためです。また、さらなる職員への定着を図るため、ルールは最低限にとどめ、ゲーム雑誌を模した生成AI裏技集の庁内展開や、「AIに失言させる」ホワイトハッカーコンテストなど、「文化祭のノリ」で楽しみながらリテラシーを高める取組を行いました。
結果として、年間2万時間以上の残業削減効果が見られましたが、最大の成果は職員の「マインドチェンジ」です。生成AIを使用した文章作成の質を上げるために「もっと高度な使い方をしたい」という意欲が引き出されました。
現在では庁内業務にとどまらず、英語対応のAIアバター(※4)による情報発信や、24時間365日対応可能、閉庁時間帯の市民の相談に寄り添う「傾聴AI」、市民の個人健康データをAIに解析させ、将来的な健康リスク算出をすることで、保健師から市民への健康指導について支援する予防指導など、市民サービスへの展開も進んでいます。
今後は、学校教育でクラウドツールに慣れ親しんだ世代が社会に出る数年後を見据え、システム基盤の全面移行も計画しています。
AIは魔法の杖ではありません。業務の8割をAIに任せ、空いた時間で「人にしかできない仕事」に注力し、「誰も一人にさせないまち」を実現させるために、横須賀市は生成AIを活用しています。
(※3)Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)の略。利用者に特定の業務系のアプリケーション、コミュニケーション等の機能、運用管理系の機能、開発系の機能、セキュリティ系の機能等がサービスとして提供されるもの。
(※4)AIを活用して音声・表情・動作を伴いながら対話や動画生成を行うデジタル上のキャラクターや人物のこと。
窓口DXの最前線葛飾区における行政特化型AIエージェントシステムの実装と展望
葛飾区政策経営部DX戦略課長である小原竹志氏から葛飾区での生成AI活用についてご紹介いただきました。

(講演要旨)
葛飾区では、2024(令和5)年度に導入したASP型生成AI(※5)では葛飾区特有の状況に応じた回答の精度が低いという課題がありました。そこで、例規集や個別計画、起案文書などを厳選してAIに学習させることで、RAG(検索拡張生成)(※6)により回答を生成する「かつしかChat」を構築し、内部事務の効率化を図りました。
そして、次のステップとして着目したのが、窓口での住民サービス向上でした。若手職員の増加に伴い、窓口対応のレベルに差が生じ、また、区民の待ち時間の増加が課題となる中、戸籍住民課や国保年金課の実務マニュアルに加え、民間企業や行政機関が発行する書籍データもAIに学習させた「かつしかChat(窓口対応版)」をリリースしました。
さらに、窓口での会話をマイクで拾い(音声入力)、リアルタイムで回答を職員に提示する仕組み「行政特化型AIエージェントシステム」の実証実験を進めています。キーボード入力の手間を省き、会話を止めずに対応できるため、職員が「少々お待ちください」と裏へ調べに行く時間を削減できます。これにより、配属直後の新人であっても、ベテラン職員と同等のスムーズな対応が可能になると期待されています。
現在は、実証実験の結果を踏まえ、マイクの認識の精度向上や回答のチューニングなど、本稼働に向けた調整を続けています。将来的には学習領域の拡大や多言語対応も見据えています。
(※5)Application Service Providerの略。インターネットを経由してアプリケーションを提供するサービスのこと。
(※6)Retrieval-Augmented Generation(検索拡張生成)の略。生成 AI が利用者の質問に対して、外部の情報源(社内データベース、Web など)から関連情報を検索し、それをもとに自然な文章で回答を生成する技術。
小さな町の生成AIへの挑戦
北海道当別町企画部デジタル都市推進課主幹である碓井洋寿氏から当別町での生成AI利用率向上の取り組みについてご紹介いただきました。

(講演要旨)
人口約1万5千人、職員数約200人の当別町では、ChatGPT公開直後から情報収集を始め、横須賀市の先進事例に背中を押される形で、2024年7月に早期の全庁導入に踏み切りました。しかし、導入直後は利用率が横ばいとなり、「使う人は使うが、使わない人は全く使わない」という二極化の壁に直面しました。
そこで、機運醸成のための地道な活動を展開しました。生成AI活用のコツを紹介する独自の「生成AIマガジン」の継続的な発行や、庁内で生成AIを使いこなす職員を「伝道師」に任命してサポートの輪を広げるなど、多岐にわたる取組を行い、勉強会の開催数は70回を超えました。
その後、利用率が劇的に伸びる転換点が訪れました。それは、「プロンプト(指示文)をしっかり書く」という教育方針からの脱却でした。立派なプロンプトの書き方を教えることが、逆に「どう書けばいいか分からない」という心理的ハードルを生んでいたのです。「1回で100点を求めず、AIと会話をしながらやりたいことを言語化すればいい」。そう伝えたことでハードルは下がり、現在では毎月6〜7割の職員が生成AIを1回以上利用し、毎日利用するスーパーアクティブユーザーは2~3割になるまでに定着しました。
今後は、さらに“先”を見据えた次世代の働き方を構想しています。これまでは「人間がAIに合わせたプロンプトを書く」時代でしたが、今後はクラウド上に業務データを集約し、日常で使用するアプリの中で生成AIが文脈を理解して「人間に寄り添う」環境の構築を目指し、その上で行政サービスの向上を行っていきたいと考えています。
【第2部】パネルディスカッション~生成AIは持続可能な自治体運営を実現するのか?~
ここまでの講演や取組の紹介を踏まえ、より具体的なポイントを探るべく、「生成AIに向いている業務」「導入後も活用し続けるための方策」「活用する人材育成のあり方」「10年後、30年後…自治体職員とAIの関係はどう変わるのか」等について議論を行いました。

シンポジウムを終えて
有識者や自治体職員を招き、基調講演、事例発表及びパネルディスカッションを実施することで、多摩・島しょ地域自治体における生成AI活用の現状や課題、今後の展望について、貴重な知見を共有いただきました。
本調査研究並びにシンポジウムが多摩・島しょ地域自治体における生成AIのあり方を考える契機となりましたら幸いです。
