誰にも伝わる情報発信に関する調査研究報告書 第4章わかりやすい情報発信の課題 1. 職員の取組意欲の向上 2. 読み手の立場に立った文書の作成 3. 取組を組織内で展開するための体制の構築 これまで、第2章では、わかりやすい情報発信の取り組み状況や住民の評価などから、自治体がわかりやすい情報発信に取り組む際の問題点を6項目に整理した。第3章では、先行研究や先進的な取組事例から問題点を解決するためのヒントを探った。これらの点を踏まえ、多摩・島しょ地域の自治体がわかりやすい情報発信に取り組むにあたっての課題を3つに整理する。 1.職員の取組意欲の向上 前述のとおり、自治体がわかりやすい情報発信に取り組むにあたっては、行政分野の違いによる部署間の取り組みにくさや職員間の取組意識に差があるという問題が挙げられた。 わかりやすい情報発信に取り組むことの必要性は、職員にも認識されている。自治体の責務としての認識、あるいは、問い合わせや苦情などの外的要因をきっかけとして必要性を認識した場合もあろう。しかし、その必要性を感じているにもかかわらず、積極的に取り組めない状況も生じている。その理由として、「やり方がわからない」「作業量が増える」「情報不備等のリスクが生じる」「他の業務に比べ緊急性が低い」などが挙げられる。 これは、文書の見直し作業に伴う作業時間の増加や、文書の書き換えによる新たな情報不備の発生リスクなどを考慮してしまい、躊躇する心理が働くことによるものと考えられる。 まして、住民からの問い合わせやクレーム等の外的要因もない場合などは、取組の緊急性も低く感じられ、自ら進んで取り組む必要性を感じることは難しい面もある。その結果、わかりやすい情報発信の取組に消極的になったり、優先順位の低い課題になったりする。取り組みにくい分野においては、なおさらである。 また、そもそもわかりやすい情報発信の取組の必要性を認識していない職員もいる。その理由には、「問い合わせや苦情などを受けたことがない」「現状で問題ない」などが挙げられている。 このような状況の中、わかりやすい情報発信に取り組むためには、職員の自発的な取組意欲をどのように高めるのかが重要となる。 取組意欲を高めるには、動機づけが必要である。取組の必要性や重要性、業務における効果などに気付いてもらうこと、わかりやすい情報発信の方法を知ることは、動機につながる。また、担当者個人の取組に留めず、同僚、上司、部下など、周囲を巻き込むことは、取組を持続させることにつながる。さらに、取組の効果を測定することや評価を得ることで、継続的な取組や改善につなげていくことができる。 例えば高松市の臨時特例給付金の事例(p.81から82)のように、わかりやすい申請書の作成が記載漏れや添付書類漏れを減らし、その結果窓口での業務量の減少につながる。このような効果を実感し共有することで、全庁的な取組が進むきっかけとなる。 このように、動機付けや周囲の理解、取組効果の実感などにより、職員の意欲を高めることがわかりやすい情報発信の取組に向けた課題である。 図表4−1問題点と課題の整理 <問題点> (1)行政分野の違いによる取り組みにくさの差 (2)職員の取組意欲を高めることの難しさ <課題> 職員の取組意欲の向上 ・動機付け ・取組の共感 ・効果の測定、評価 (この図表終わり) コラム 担当者の気付き【電話が鳴らなければ仕事ははかどる】 自治体職員の皆様は、残業中や休日出勤の際、仕事がはかどると感じたことがおありかと思います。はかどる主な理由は、電話が少なく、集中できるからではないでしょうか。問い合わせ等で受ける電話が少ないこと、提出書類の不備等でかけなければいけない電話が少ないことは、業務の効率化に直結します。実際、先進自治体では、問い合わせ件数や業務コストの減少が確認されています。 近頃、働き方改革として、残業の削減が求められていますが、仕事は減らず、人は増えないという声が多くあります。わかりやすい情報発信の取組は、業務時間短縮のための有効な方策です。広報誌やホームページの所管課だけでなく、全部署において 取り組み、問い合わせを減らし、仕事を効率的に進め、早く帰宅しましょう。 (コラム終わり) 2.読み手の立場に立った文書の作成 わかりやすい文書作成にあたっては、行政情報が持つ表現の難しさや、受け手の違いによるわかりやすさの評価の差の問題があった。 行政情報の中には、制度が複雑で内容が難しいもの、専門用語が多いものなど、その性質上、理解が困難な情報が多くあり、このような情報をわかりやすく表現することは難しい面もある。さらに、受け手となる住民は、子ども、高齢者、障害者、外国人など、対象が様々であり、すべての人に向けてわかりやすく表現することは難しい。例えば、子どもや知的障害者、外国人向けに平仮名を多くし、すべての漢字にふりがなを振ると、一般の住民には読みづらいものになる。また、高齢者向けに文字を大きくすると書類の枚数が多くなり、外国人向けに多言語化すると文書の数も増える。費用の面からも対応に限度がある。 このような状況の中ではあるが、わかりやすい情報発信に取り組むためには、誰に向けて文書を作成するのか対象者を想定し、読み手の立場に立つことが重要である。 行政から発信する情報の対象は広く一般的であるために具体的な想定が難しいことも多い。しかし、対象者がすべて均一なわけではない。受け手の中でもより情報入手が困難だと考えられる人を想定することが有効である。その際には、読み手がどのような状況で、どのような情報を必要としているかを考えながら文書を作成することも必要である。また、行政の情報のわかりにくさを改善するための方策を探り、基準や方法を共有していくことも必要になる。 このように、具体的な読み手の想定とわかりやすい文書作成の基準などによる読み手の立場に立った文書作成が、わかりやすい情報発信の取組に向けた課題である。 図表4−2問題点と課題の整理 <問題点> (3)受け手の違いによるわかりやすさの評価の差 (4)行政情報の表現方法の難しさ <課題> 読み手の立場に立った 文書の作成 ・具体的な読み手の想定 ・一定の基準やルール ・読み手の立場での見直し (この図表終わり) 3.取組を組織内で展開するための体制の構築 わかりやすい情報発信に努めることを、職員個人や一部の部署の課題意識や取組に留めず、自治体全体で取り組むにあたっては、わかりやすい文書作成のための統一的な基準作成の難しさの問題や、行政内部の体制や人材の確保の問題が挙げられる。 頻度の差はあるものの市町村ではほとんどの部署が住民への情報発信を行う。全庁的な方針や統一的な基準などがあると、各部署ではそれに沿って積極的に取り組むことができ、庁内全体での取組が広がりやすいと考えられる。しかし、どの部署でも関連しうる事柄であるがゆえに、中心となって取り組む部署が決まらず、全庁的な方針が策定できないという現状がみられる。また、部署によって発信する内容や対象が異なるため、基準の作成にあたり技術的な調整が難しいという点もある。 このような状況の中、わかりやすい情報発信を自治体内で拡げていくためには、どの部署が中心となり、どのような取組方針や基準を掲げ、どのように展開していくのか、庁内での取組体制を構築していくことが重要である。この際、庁内体制には様々な形がありうる。専門部署の設置の意義は大きいが、それがなければ取り組めないわけではない。自治体の状況にあった体制の構築を進めていくことが求められる。 また、取組を展開するには、一定の方針や基準が必要である。方針や基準は、全庁統一的なものもあれば、各部署独自のもの、複数の部署で共通したものもある。組織の状況や段階に応じて、方針や基準を作成することが求められる。 さらに、わかりやすい情報発信に対する組織風土を醸成していくことも重要である。ひとりでも多くの職員が必要性を理解することが必要であり、部署内や庁内での啓発活動は重要な役割を果たす。必ずしも専門担当部署でなくとも、問題意識を持った職員や部署が発信を始め、庁内に取組を拡げることもできる。 このように、わかりやすい情報発信に取り組むためには、方針や基準の作成や取組の普及、組織的な展開など、取組体制の構築が課題である。 図表4−3 問題点と課題の整理 <問題点> (5)統一的な基準づくりの難しさ (6)中心となって取り組む体制や人材の問題 <課題> 取組体制の構築 ・方針や基準の作成 ・部署内及び庁内での啓発 ・継続した取組の展開 (この図表終わり)