第1章調査の概要 1. 「誰にも伝わる情報発信に関する調査研究」の背景と目的 2. 調査フロー 3. 調査の概要 4. 本報告書の構成 1.「誰にも伝わる情報発信に関する調査研究」の背景と目的 (1)背景 自治体から住民に向けての情報発信は、正確性、公平性と並び伝達の確実性も求められる。様々な媒体が活用されている情報の発信・伝達だが、その表現の「わかりやすさ」は、どんな媒体によるものにせよ、情報内容の確実な伝達のための重要な要素である。さらに今後、多様性が重視される社会において、災害時など非常時の緊急的な情報伝達や、外国人・独居高齢者・視覚障害者など「情報の受け取りに弱点を抱える人」への情報伝達など「すべての人に伝わるユニバーサルな情報発信」の重要性が増していくと考えられる。 そういった状況の中、わかりやすい情報発信に向けた研究や取組が進められている。例えば、「減災のための『やさしい日本語※』」による災害情報の提供は、阪神淡路大震災を機に研究が進められ、現在では、自治体や在住外国人を支援する民間団体などを中心に、災害情報や日常生活情報の発信に活用されている。また、在住外国人への日本語教育の視点からの「やさしい日本語」の研究は、公文書の書き換えに応用されるなど、日本語学としての研究も進められている。 これらの研究も踏まえ、一部の自治体においては、多言語対応のひとつとして「やさしい日本語」による情報発信や情報のユニバーサルデザインなど、わかりやすい情報発信への取組が進められている。 (2)目的 本調査研究は、行政から住民への情報発信において、「誰にもわかりやすく伝える」ことを実現するための手法を自治体職員へ提示することを目的として行った。「言葉」と「表現」に着目し、「やさしい日本語」の考え方を応用して、ユニバーサルな情報発信・伝達を実現する表現手法を探った。さらに、職員の意識改革を促すとともに、業務の中で実践するための手法を整理した。 ※『やさしい日本語』とは 「やさしい日本語」とは、普通の日本語よりも簡単で、外国人に対してもわかりやすい日本語のこと。 “やさしい”という語は、一般的に簡易な表現でわかりやすく、という意味で使われる場合もあるが、この報告書では、第3章で説明する研究におけるものを採り上げ、「やさしい日本語」と括弧付きで表記する。 2.調査フロー 本調査のフローは以下のとおりである。 【先行研究・先進的な取組の整理】文献調査、有識者ヒアリング 【情報発信の現状と課題の整理】多摩・島しょ地域の自治体へのアンケート、多摩・島しょ地域の住民へのアンケート、障害者・外国人等支援団体ヒアリング 【「誰にも伝わる情報発信」手法の検討】先進事例ヒアリング、「誰にも伝わる情報発信」手法の整理 【有効性の検証】ワークショップの実施、グループインタビューの実施 【報告書とりまとめ】 3.調査の概要 (1)多摩・島しょ地域の自治体へのアンケート @目的 ◆下記項目を把握するため自治体の担当部署へのアンケートを実施 ◇多摩・島しょ地域の自治体等の情報発信業務の実態 ◇わかりやすい情報発信の取組状況や課題、住民からの問い合わせ状況等 ◆得られた情報をもとに以下3点を整理 ◇わかりやすい情報発信のための課題抽出 ◇文書作成の視点や情報発信までのプロセス等の把握 ◇市町村職員が業務の中で実践可能な方法の整理 A調査の対象 ◆対象自治体:多摩・島しょ地域の 39市町村 ◆対象部署:住民に向けた情報発信を定期的に行っている部署(下記 10分野) 図表1−1 アンケート回答部署の行政分野 [各部署/単一回答] <分野ごとに回答部署数、構成比を示す棒グラフ> 項目、部署数(部署)、構成比(%) 市民生活に関する分野(54)13.2 市町村行政に関する分野(51)12.5 税や国民健康保険に関する分野(50)12.3 福祉に関する分野(48)11.8 地域行事や生涯学習などに関する分野(47)11.5 教育に関する分野(42)10.3 子どもの福祉や保育に関する分野(41)10.0 保健・健康に関する分野(35)8.6 防犯や防災に関する分野(34)8.3 その他の分野(6)1.50 サンプル数(408) (この図表終わり) B調査実施期間 ◆2016(平成28)年8月4日木曜日から2016(平成28)年8月 26日金曜日 C実施方法 ◆配布、回収はメールにて実施 ◆各自治体の企画担当課あてに送付し、企画担当課から適宜関係各課へ配布 Dアンケート構成と回収数 ◆自治体へのアンケートは以下2つで構成 ◇全庁的な取組に関するアンケート ◇各部署の取組に関するアンケート ◆各部署の取組に関するアンケートでは、「各部署の取組状況」と「各部署が発信している情報の具体例」について尋ねている。 図表1−2 自治体へのアンケート構成と回収数 【全庁的な取組に関するアンケート】 全庁的な取組状況 1自治体につき1つの回答 回答自治体数 39市町村 【各部署の取組に関するアンケート】 各部署の取組状況 1自治体につき複数回答が可能 以下の10分野からの回答を依頼 1.市町村行政に関する部署 2.地域行事や生涯学習などに関する部署 3.防犯や防災に関する部署 4.市民生活に関する部署 5.子どもの福祉や保育に 関する部署 6.教育に関する部署 7.保健・健康に関する部署 8.福祉に関する部署 9.税や国民健康保険に関する部署 10.その他の分野に関する部署 回答部署数 408部署 各部署が発信している情報の具体例 1部署につき 最大3例まで回答可能 発信している具体的な情報@ 発信している具体的な情報A 発信している具体的な情報B 発信している情報の具体例の数 1,037件 (この図表終わり) (2)多摩・島しょ地域の住民へのアンケート @目的 ◆自治体からの情報を受け取る際の現状や課題等の把握 ◆情報媒体・内容などに対する住民評価の整理 A調査の対象 ◆インターネット調査会社にモニター登録している多摩・島しょ地域の住民で、20歳以上の男女 ◆調査は事前調査と本調査の2段階で実施 ◆事前調査の回答者のうち、以下の条件を満たした回答者に対して本調査を実施 ◇事前調査の設問「最近1年以内で、お住まいの市町村からのお知らせや暮らしに関わる情報などを見ましたか。(複数回答)」に対して、2つ以上の情報を見た人(2つ以上選択した回答者) ◆本調査では、年代(20歳代・30歳代・40歳代・50歳代・60歳以上)と性別(男性・女性)が均等になるよう割付、回収 事前調査 図表1−3 回答者の男女比 [事前調査/単一回答] <円グラフ> 男性52.4% 女性47.6% サンプル数=11,489 (この図表終わり) 図表1−4 回答者の年代 [事前調査/単一回答] <円グラフ> 20から29歳10.8% 30から39歳19.0% 40から49歳29.1% 50から59歳22.5% 60歳以上18.6% サンプル数=11,489 平均年齢:47.0歳 (この図表終わり) 本調査 図表1−5 回答者の男女比 [本調査/単一回答] <円グラフ> 男性50.0% 女性50.0% サンプル数=1,040 (この図表終わり) 図表1−6 回答者の年代 [本調査/単一回答] <円グラフ> 20から29歳20.0% 30から39歳20.0% 40から49歳20.0% 50から59歳20.0% 60歳以上20.0% サンプル数=1,040 平均年齢:45.5歳 (この図表終わり) B調査実施期間 ◆事前調査期間 :2016(平成28)年8月 15日月曜日から2016(平成28)年8月 22日月曜日 ◆本調査期間 :2016(平成28)年8月 18日木曜日から2016(平成28)年8月 22日月曜日 C実施方法 ◆配布、回収はインターネット調査にて実施 D回収数 ◆事前調査サンプル数 :11,489件 ◆本調査サンプル数 :1,040件 (3)ヒアリング @目的 ◆わかりやすい文章の基準や技術などの抽出・整理 ◆自治体職員が業務の中で実践するための仕掛けなどの抽出・整理 Aヒアリングリスト ◆対象は「わかりやすい情報発信」に関する有識者、参考となる先進的な取組を実施している自治体、情報の受け取りが困難な「情報弱者」と身近に接している団体等 ◆取組の背景や現状、課題等について聴取 対象 有識者ヒアリング 一橋大学 国際研究センター 庵功雄教授 弘前大学 人文学部 社会言語学研究室 佐藤和之教授 桜美林大学 谷内孝行専任講師(障害者福祉) 先進事例ヒアリング (一社)ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会 弘前市 経営戦略部 広報広聴課 宇都宮市 市民まちづくり部 国際交流プラザ 、保健福祉部 保健福祉総務課 高松市 市民政策局 ユニバーサルデザイン推進室 健康福祉局 健康福祉総務課 市民政策局 市民課 横浜市 市民局 広報相談サービス部 広報課 堺市(※書面で実施) 文化観光局 国際部 国際課 、上下水道局 経営管理部 総務課 、上下水道局 上水道部 排水計画課 、財政局 税務部 市民税管理課 障害者・外国人等支援団体ヒアリング (社福)大阪市手をつなぐ育成会 東京日本語ボランティア・ネットワーク B調査項目 ◆有識者ヒアリング ◇わかりやすい情報発信の必要性について ◇作り手が心がけるべきこと ◇発信側の意識改革の方法 ◇自治体職員が取り組む際の課題や自治体への要望 など ◆先進事例ヒアリング ◇取組の背景、きっかけ(課題意識) ◇わかりやすい情報発信のポイント ◇発信側の意識改革の方法 ◇わかりやすい情報発信における課題 など ◆障害者・外国人等支援団体ヒアリング ◇(障害者・外国人等支援団体が実施している)取組の背景、きっかけ ◇障害者・外国人等当事者の情報入手に関する現状と課題 ◇障害者・外国人等当事者にとってわかりやすい情報発信について ◇わかりやすい情報発信における課題 ◇自治体が情報発信時に配慮すべき事項(内容や発信媒体など) など (4)ワークショップ @目的 ◆情報の発信側に対して、本調査研究で提案する手法の有効性検証 ◆業務の中で実践するための課題等の把握 ◆自治体の情報発信に対する住民ニーズ等の共有 ◆「誰にも伝わる」ことの必要性と意義を伝えることで、積極的な取組への動機付けと意識改革の促進 A参加対象者 多摩・島しょ地域の市町村の、住民へ通知を送付する機会のある部署の職員 B実施概要 ◆東京都市町村職員研修所との共催により実施 ◆ワークショップのプログラムは以下の通り @.調査結果の報告 [株式会社アール・ピー・アイ] A.講演「情報発信において大切なこと」 [一橋大学 庵教授] B.講演「『わかりやすい』情報発信をするために」[(一社)ユニバーサルデザインコミュニケーション協会 三村事務局長] C.ワーク「わかりやすい情報発信に向けた実践(書き換えの実践)」 (5)グループインタビュー @目的 ◆住民にとっての、本調査研究の有効性検証及び住民意見の把握 ◆ワークショップで自治体職員が実践した成果をもとに、住民がわかりにくいと感じている点や情報発信に対する要望などの把握 A参加対象者 子育て中の(乳児から小学生の子どもを持つ)女性 4.本報告書の構成 第1章 調査の概要 1.「誰にも伝わる情報発信に関する調査研究」の背景と目的 2.調査フロー 3.調査の概要 4.本報告書の構成 第2章 自治体から住民への情報発信の現状 1.わかりやすい情報発信の必要性 2.多摩・島しょ地域の自治体によるわかりやすい情報発信の取組 3.多摩・島しょ地域の住民の情報入手の状況 4.高齢者・障害者・外国人の情報入手の状況 5.多摩・島しょ地域におけるわかりやすい情報発信の問題点 第3章 わかりやすい情報発信に向けた研究や取組事例 1.減災のための「やさしい日本語」 2.公文書の書き換えを行う「やさしい日本語」 3.情報のユニバーサルデザイン 4.多くの取組に共通する要素 (第2章及び第3章を受けて、第4章へ) 第4章 わかりやすい情報発信の課題 1.職員の取組意欲の向上 2.読み手の立場に立った文書の作成 3.取組を組織内で展開するための体制の構築 第5章 わかりやすい情報発信の取組の提案 1.わかりやすい情報発信の取組 2.有効性の検証 3.本調査研究のまとめ