誰にも伝わる情報発信に関する調査研究報告書 平成29年3月 公益財団法人 東京市町村自治調査会 目次 第1章 調査の概要 1 1.「誰にも伝わる情報発信に関する調査研究」の背景と目的 3 2.調査フロー 4 3.調査の概要 5 4.本報告書の構成 12 第2章自治体から住民への情報発信の現状 13 1.わかりやすい情報発信の必要性 15 2.多摩・島しょ地域の自治体によるわかりやすい情報発信の取組 16 3.多摩・島しょ地域の住民の情報入手の状況 30 4.高齢者・障害者・外国人の情報入手の状況 40 5.多摩・島しょ地域におけるわかりやすい情報発信の問題点 47 第3章わかりやすい情報発信に向けた研究や取組事例 51 1. 減災のための「やさしい日本語」 53 2. 公文書の書き換えを行う「やさしい日本語」 65 3. 情報のユニバーサルデザイン 78 4. 多くの取組に共通する要素 89 第4章わかりやすい情報発信の課題 91 1.職員の取組意欲の向上 93 2.読み手の立場に立った文書の作成 95 3.取組を組織内で展開するための体制の構築 96 第5章わかりやすい情報発信の取組の提案 97 1.わかりやすい情報発信の取組 99 2.有効性の検証 110 3.本調査研究のまとめ 116 コラム「担当者の気付き」目次 高齢者より 30歳代が困っている?! 36 わかりやすい情報発信は誰のため? 43 どんな分野でも、わかりやすさは必要 62 わかりやすさの基本は誰でも同じ 75 情報の量を減らすことが大事! 88 電話が鳴らなければ仕事ははかどる 94 先進自治体のマニュアルへの依存はだめ? 100 目の前にいる人には … 104 ボトムアップからトップを動かす! 109 理想は「取り組むことは当たり前」 113 住民は日常的に小さな不満を抱えている? 115 情報の量を減らすことが大事!その2 地図 119 最も大切な考え方を身に付けるために 120 報告書表記上の注意点 ○報告書中の構成比は百分率(%)で表示。基数となるべき実数(サンプル数)はnとし、nを100%として算出した。 ○報告書中の図表および文中に表示している百分率は小数第二位を四捨五入している。四捨五入の関係で、構成比の合計が100%にならない場合がある。 ○回答が「複数回答」の場合、構成比の合計が100%を超える場合がある。 ○報告書中の図表がどのアンケート結果から得られたかを図表タイトルの右横に以下の略称で示す。各アンケートの実施方法、サンプル数等の詳細は「第 1章3.調査の概要」を参照すること。 『全庁』:「多摩・島しょ地域の自治体等へのアンケート」の「全庁的な取組」に関するアンケート結果 『各部署』:「多摩・島しょ地域の自治体等へのアンケート」の「各部署の取組」に関するアンケート結果 『具体例』:「多摩・島しょ地域の自治体等へのアンケート」の「各部署の取組」に関するアンケートから得られた、各部署が発信している情報の具体例 『事前調査』:「多摩・島しょ地域の住民へのアンケート」における事前調査の結果 『本調査』:「多摩・島しょ地域の住民へのアンケート」における本調査の結果 ○報告書中で掲載している基準等は、調査期間内で得た情報をもとにまとめている。 ○図表中の「‐」は、件数が 0件の場合に表記。「0.0%」は件数が 1件以上ある場合に表記している。 第1章調査の概要 1. 「誰にも伝わる情報発信に関する調査研究」の背景と目的 2. 調査フロー 3. 調査の概要 4. 本報告書の構成 1.「誰にも伝わる情報発信に関する調査研究」の背景と目的 (1)背景 自治体から住民に向けての情報発信は、正確性、公平性と並び伝達の確実性も求められる。様々な媒体が活用されている情報の発信・伝達だが、その表現の「わかりやすさ」は、どんな媒体によるものにせよ、情報内容の確実な伝達のための重要な要素である。さらに今後、多様性が重視される社会において、災害時など非常時の緊急的な情報伝達や、外国人・独居高齢者・視覚障害者など「情報の受け取りに弱点を抱える人」への情報伝達など「すべての人に伝わるユニバーサルな情報発信」の重要性が増していくと考えられる。 そういった状況の中、わかりやすい情報発信に向けた研究や取組が進められている。例えば、「減災のための『やさしい日本語※』」による災害情報の提供は、阪神淡路大震災を機に研究が進められ、現在では、自治体や在住外国人を支援する民間団体などを中心に、災害情報や日常生活情報の発信に活用されている。また、在住外国人への日本語教育の視点からの「やさしい日本語」の研究は、公文書の書き換えに応用されるなど、日本語学としての研究も進められている。 これらの研究も踏まえ、一部の自治体においては、多言語対応のひとつとして「やさしい日本語」による情報発信や情報のユニバーサルデザインなど、わかりやすい情報発信への取組が進められている。 (2)目的 本調査研究は、行政から住民への情報発信において、「誰にもわかりやすく伝える」ことを実現するための手法を自治体職員へ提示することを目的として行った。「言葉」と「表現」に着目し、「やさしい日本語」の考え方を応用して、ユニバーサルな情報発信・伝達を実現する表現手法を探った。さらに、職員の意識改革を促すとともに、業務の中で実践するための手法を整理した。 ※『やさしい日本語』とは 「やさしい日本語」とは、普通の日本語よりも簡単で、外国人に対してもわかりやすい日本語のこと。 “やさしい”という語は、一般的に簡易な表現でわかりやすく、という意味で使われる場合もあるが、この報告書では、第3章で説明する研究におけるものを採り上げ、「やさしい日本語」と括弧付きで表記する。 2.調査フロー 本調査のフローは以下のとおりである。 【先行研究・先進的な取組の整理】文献調査、有識者ヒアリング 【情報発信の現状と課題の整理】多摩・島しょ地域の自治体へのアンケート、多摩・島しょ地域の住民へのアンケート、障害者・外国人等支援団体ヒアリング 【「誰にも伝わる情報発信」手法の検討】先進事例ヒアリング、「誰にも伝わる情報発信」手法の整理 【有効性の検証】ワークショップの実施、グループインタビューの実施 【報告書とりまとめ】 3.調査の概要 (1)多摩・島しょ地域の自治体へのアンケート @目的 ◆下記項目を把握するため自治体の担当部署へのアンケートを実施 ◇多摩・島しょ地域の自治体等の情報発信業務の実態 ◇わかりやすい情報発信の取組状況や課題、住民からの問い合わせ状況等 ◆得られた情報をもとに以下3点を整理 ◇わかりやすい情報発信のための課題抽出 ◇文書作成の視点や情報発信までのプロセス等の把握 ◇市町村職員が業務の中で実践可能な方法の整理 A調査の対象 ◆対象自治体:多摩・島しょ地域の 39市町村 ◆対象部署:住民に向けた情報発信を定期的に行っている部署(下記 10分野) 図表1−1 アンケート回答部署の行政分野 [各部署/単一回答] <分野ごとに回答部署数、構成比を示す棒グラフ> 項目、部署数(部署)、構成比(%) 市民生活に関する分野(54)13.2 市町村行政に関する分野(51)12.5 税や国民健康保険に関する分野(50)12.3 福祉に関する分野(48)11.8 地域行事や生涯学習などに関する分野(47)11.5 教育に関する分野(42)10.3 子どもの福祉や保育に関する分野(41)10.0 保健・健康に関する分野(35)8.6 防犯や防災に関する分野(34)8.3 その他の分野(6)1.50 サンプル数(408) (この図表終わり) B調査実施期間 ◆2016(平成28)年8月4日木曜日から2016(平成28)年8月 26日金曜日 C実施方法 ◆配布、回収はメールにて実施 ◆各自治体の企画担当課あてに送付し、企画担当課から適宜関係各課へ配布 Dアンケート構成と回収数 ◆自治体へのアンケートは以下2つで構成 ◇全庁的な取組に関するアンケート ◇各部署の取組に関するアンケート ◆各部署の取組に関するアンケートでは、「各部署の取組状況」と「各部署が発信している情報の具体例」について尋ねている。 図表1−2 自治体へのアンケート構成と回収数 【全庁的な取組に関するアンケート】 全庁的な取組状況 1自治体につき1つの回答 回答自治体数 39市町村 【各部署の取組に関するアンケート】 各部署の取組状況 1自治体につき複数回答が可能 以下の10分野からの回答を依頼 1.市町村行政に関する部署 2.地域行事や生涯学習などに関する部署 3.防犯や防災に関する部署 4.市民生活に関する部署 5.子どもの福祉や保育に 関する部署 6.教育に関する部署 7.保健・健康に関する部署 8.福祉に関する部署 9.税や国民健康保険に関する部署 10.その他の分野に関する部署 回答部署数 408部署 各部署が発信している情報の具体例 1部署につき 最大3例まで回答可能 発信している具体的な情報@ 発信している具体的な情報A 発信している具体的な情報B 発信している情報の具体例の数 1,037件 (この図表終わり) (2)多摩・島しょ地域の住民へのアンケート @目的 ◆自治体からの情報を受け取る際の現状や課題等の把握 ◆情報媒体・内容などに対する住民評価の整理 A調査の対象 ◆インターネット調査会社にモニター登録している多摩・島しょ地域の住民で、20歳以上の男女 ◆調査は事前調査と本調査の2段階で実施 ◆事前調査の回答者のうち、以下の条件を満たした回答者に対して本調査を実施 ◇事前調査の設問「最近1年以内で、お住まいの市町村からのお知らせや暮らしに関わる情報などを見ましたか。(複数回答)」に対して、2つ以上の情報を見た人(2つ以上選択した回答者) ◆本調査では、年代(20歳代・30歳代・40歳代・50歳代・60歳以上)と性別(男性・女性)が均等になるよう割付、回収 事前調査 図表1−3 回答者の男女比 [事前調査/単一回答] <円グラフ> 男性52.4% 女性47.6% サンプル数=11,489 (この図表終わり) 図表1−4 回答者の年代 [事前調査/単一回答] <円グラフ> 20から29歳10.8% 30から39歳19.0% 40から49歳29.1% 50から59歳22.5% 60歳以上18.6% サンプル数=11,489 平均年齢:47.0歳 (この図表終わり) 本調査 図表1−5 回答者の男女比 [本調査/単一回答] <円グラフ> 男性50.0% 女性50.0% サンプル数=1,040 (この図表終わり) 図表1−6 回答者の年代 [本調査/単一回答] <円グラフ> 20から29歳20.0% 30から39歳20.0% 40から49歳20.0% 50から59歳20.0% 60歳以上20.0% サンプル数=1,040 平均年齢:45.5歳 (この図表終わり) B調査実施期間 ◆事前調査期間 :2016(平成28)年8月 15日月曜日から2016(平成28)年8月 22日月曜日 ◆本調査期間 :2016(平成28)年8月 18日木曜日から2016(平成28)年8月 22日月曜日 C実施方法 ◆配布、回収はインターネット調査にて実施 D回収数 ◆事前調査サンプル数 :11,489件 ◆本調査サンプル数 :1,040件 (3)ヒアリング @目的 ◆わかりやすい文章の基準や技術などの抽出・整理 ◆自治体職員が業務の中で実践するための仕掛けなどの抽出・整理 Aヒアリングリスト ◆対象は「わかりやすい情報発信」に関する有識者、参考となる先進的な取組を実施している自治体、情報の受け取りが困難な「情報弱者」と身近に接している団体等 ◆取組の背景や現状、課題等について聴取 対象 有識者ヒアリング 一橋大学 国際研究センター 庵功雄教授 弘前大学 人文学部 社会言語学研究室 佐藤和之教授 桜美林大学 谷内孝行専任講師(障害者福祉) 先進事例ヒアリング (一社)ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会 弘前市 経営戦略部 広報広聴課 宇都宮市 市民まちづくり部 国際交流プラザ 、保健福祉部 保健福祉総務課 高松市 市民政策局 ユニバーサルデザイン推進室 健康福祉局 健康福祉総務課 市民政策局 市民課 横浜市 市民局 広報相談サービス部 広報課 堺市(※書面で実施) 文化観光局 国際部 国際課 、上下水道局 経営管理部 総務課 、上下水道局 上水道部 排水計画課 、財政局 税務部 市民税管理課 障害者・外国人等支援団体ヒアリング (社福)大阪市手をつなぐ育成会 東京日本語ボランティア・ネットワーク B調査項目 ◆有識者ヒアリング ◇わかりやすい情報発信の必要性について ◇作り手が心がけるべきこと ◇発信側の意識改革の方法 ◇自治体職員が取り組む際の課題や自治体への要望 など ◆先進事例ヒアリング ◇取組の背景、きっかけ(課題意識) ◇わかりやすい情報発信のポイント ◇発信側の意識改革の方法 ◇わかりやすい情報発信における課題 など ◆障害者・外国人等支援団体ヒアリング ◇(障害者・外国人等支援団体が実施している)取組の背景、きっかけ ◇障害者・外国人等当事者の情報入手に関する現状と課題 ◇障害者・外国人等当事者にとってわかりやすい情報発信について ◇わかりやすい情報発信における課題 ◇自治体が情報発信時に配慮すべき事項(内容や発信媒体など) など (4)ワークショップ @目的 ◆情報の発信側に対して、本調査研究で提案する手法の有効性検証 ◆業務の中で実践するための課題等の把握 ◆自治体の情報発信に対する住民ニーズ等の共有 ◆「誰にも伝わる」ことの必要性と意義を伝えることで、積極的な取組への動機付けと意識改革の促進 A参加対象者 多摩・島しょ地域の市町村の、住民へ通知を送付する機会のある部署の職員 B実施概要 ◆東京都市町村職員研修所との共催により実施 ◆ワークショップのプログラムは以下の通り @.調査結果の報告 [株式会社アール・ピー・アイ] A.講演「情報発信において大切なこと」 [一橋大学 庵教授] B.講演「『わかりやすい』情報発信をするために」[(一社)ユニバーサルデザインコミュニケーション協会 三村事務局長] C.ワーク「わかりやすい情報発信に向けた実践(書き換えの実践)」 (5)グループインタビュー @目的 ◆住民にとっての、本調査研究の有効性検証及び住民意見の把握 ◆ワークショップで自治体職員が実践した成果をもとに、住民がわかりにくいと感じている点や情報発信に対する要望などの把握 A参加対象者 子育て中の(乳児から小学生の子どもを持つ)女性 4.本報告書の構成 第1章 調査の概要 1.「誰にも伝わる情報発信に関する調査研究」の背景と目的 2.調査フロー 3.調査の概要 4.本報告書の構成 第2章 自治体から住民への情報発信の現状 1.わかりやすい情報発信の必要性 2.多摩・島しょ地域の自治体によるわかりやすい情報発信の取組 3.多摩・島しょ地域の住民の情報入手の状況 4.高齢者・障害者・外国人の情報入手の状況 5.多摩・島しょ地域におけるわかりやすい情報発信の問題点 第3章 わかりやすい情報発信に向けた研究や取組事例 1.減災のための「やさしい日本語」 2.公文書の書き換えを行う「やさしい日本語」 3.情報のユニバーサルデザイン 4.多くの取組に共通する要素 (第2章及び第3章を受けて、第4章へ) 第4章 わかりやすい情報発信の課題 1.職員の取組意欲の向上 2.読み手の立場に立った文書の作成 3.取組を組織内で展開するための体制の構築 第5章 わかりやすい情報発信の取組の提案 1.わかりやすい情報発信の取組 2.有効性の検証 3.本調査研究のまとめ 第2章 自治体から住民への情報発信の現状 1. わかりやすい情報発信の必要性 2. 多摩・島しょ地域の自治体によるわかりやすい情報発信の取組 3. 多摩・島しょ地域の住民の情報入手の状況 4. 高齢者・障害者・外国人の情報入手の状況 5. 多摩・島しょ地域におけるわかりやすい情報発信の問題点 1.わかりやすい情報発信の必要性 自治体が住民に向けて発信する情報は、行政施策の情報や、社会生活に必要な情報、生命や財産に関わる情報など、多岐にわたる。どのような情報であっても、対象となる住民に確実に伝え、行政サービスの周知や利用促進、必要な手続きの遂行、必要な行動などを促すことは重要である。 しかし、自治体からの情報に、住民にとってわかりづらい表現や内容があることも残念ながら事実である。情報が正確に伝わらないことで、誤解を生じたり、必要な手続きに不備が生じたり、生命の危機に見舞われることもある。 住民が感じるわかりにくさの原因の一つには、発信している情報に公文書独特の表現や用語が用いられていることがあると考えられる。行政機関同士や行政内部でやりとりされている「公文書」には、表現方法や語彙、書式などに一定の基準がある。これに従って作成され公文書には、一般には使用されない表現や独特の用語なども多く含まれている。内部であれば問題はないが、それと同様に作成された文書を住民に向けて発した場合、これは住民が わかりにくいと感じる要因のひとつとなる。 また、文章が複雑で情報が多いこともわかりにくさの原因の一つと考えられる。自治体から住民に向けて情報を発信する場合、正確に伝えること、公平に伝えること、確実に伝えることが重視される。そのため、法令や「公文書」の表現、用語を用い、必要な情報をすべて記すことで、情報の不備や間違いを回避し、苦情や問い合わせのリスクを抑えているものと考えられる。このことで、文章が複雑になったり、情報が多くなったりし、住民がわかりにくいと感じることにつながっている。 しかし、情報は、相手に理解されなければ伝えていないのと同じである。行政としての責務を果たせず、住民の信頼を低下させることにもなりかねない。 情報をわかりにくいまま発信することは、住民の生活だけでなく、業務の遂行にも影響を及ぼす。災害情報が行き届かなかったために適切な避難誘導ができなかったような例だけでなく、内容が理解しにくいための問い合わせの殺到、記載箇所のわかりにくさによる申請書類不備の続出などの例もある。このことにより、業務が増えたり、作業効率が低下したり、他の業務に支障が出たりする恐れもある。 また別の視点から見てみると、現在は住民が自治体を選ぶ時代といわれる。都市部における待機児童問題などに見られるように、よりよいサービスや生活環境を求めて住民は移動する。良いサービスを実施していても、サービスの存在やその内容を知ってもらわないと、住民から選ばれる可能性も低い。自治体が行政サービスを住民に提供するうえで、その内容をわかりやすく伝えることは、この点でも重要である。 これらのことを踏まえると、わかりやすい表現や語彙を用いた情報発信に努め、住民に確実に情報を伝えることは、今の自治体にとって必須の取組である。 2.多摩・島しょ地域の自治体によるわかりやすい情報発信の取組 この節では、「多摩・島しょ地域の自治体へのアンケート」の結果から多摩・島しょ地域の自治体の取組について述べる。「多摩・島しょ地域の自治体へのアンケート」は、以下の3種類を行っている。(詳細は「第1章3.調査の概要(1)多摩・島しょ地域の自治体へのアンケート」(5から6ページ)を参照) @39市町村の企画担当部署を対象とした「住民向け情報発信の全庁的な取組について」のアンケート(39件回収) A業務の中で住民に対して情報発信を行っている 10分野の担当部署を対象とした「住民向け情報発信の各部署における取組について」のアンケート(408件回収) B10分野の担当部署が具体的に発信している情報を対象とした「取組の内容について」のアンケート(1,037件回収) (1)の項では、@とAのアンケート結果から、全庁的な取組と各担当部署での取組の現状を整理し、取り組むきっかけや分野ごとの傾向などを把握した。 (2)の項では、Bのアンケート結果から、文章を作成する際に心がけていることなどを整理し、取組の具体的な内容や分野ごとの傾向などを把握した。 (3)の項では、@とAとBのアンケート結果の主に自由回答から、自治体職員が課題と感じていることを整理した。 (1)わかりやすい情報発信の取り組み状況 @9割の部署で取り組んでいるが、全庁の統一的な基準がある市町村はわずか1/3 多摩・島しょ地域の39 市町村のうち、「全庁の基本的な方針や統一的な基準がある」自治体は13 市町村、「全庁的な方針や基準はないが、個別に基準等を作成している部署がある」自治体は4市町村であった【図表2−1】。一方、部署ごとでは、「全庁の基本的方針や統一的な基準にそって取り組んでいる」部署が45.6%、「各担当者が独自に工夫して取り組んでいる」部署が39.0%など、わかりやすい情報発信に取り組んでいる部署は9割であった【図表2−2】。 実際に情報発信を行う各担当部署ではわかりやすい情報発信に取り組む姿勢があるものの、全庁をあげての取組に至っている市町村は少ないことがわかる。 図表2−1 わかりやすい情報発信の全庁的な取り組み状況 [全庁/単一回答] <円グラフ> 全庁の統一的な基準がある13自治体33.3% 複数部署にわたる横断的な方針や基準がある0自治体- % 全庁的な基準はないが、個別に基準等を作成している部署がある4自治体10.3% その他5自治体12.8% 各部署での独自の取組を把握していない7自治体17.9% 方針や基準などはない10自治体25.6% サンプル数=39 わかりやすい情報発信に取り組んでいる・計 22自治体56.4% (この図表終わり) 図表2−2 わかりやすい情報発信の各部署取り組み状況 [各部署/単一回答] <円グラフ> 全庁の統一的な基準にそって取り組んでいる45.6% 部署独自の基準にそって取り組んでいる5.6% 各担当者が独自に工夫して取り組んでいる39.0% 取り組んでいない9.6% 無回答0.2% サンプル数=408 わかりやすい情報発信に取り組んでいる・計 90.2% (この図表終わり) A取り組みにくい分野は、制度が複雑な分野や専門性が高い分野 分野別にみると、「子どもの福祉や保育に関する分野」、「地域行事や生涯学習に関する分野」、「市民生活に関する分野」では「全庁の基本的方針や統一的な基準にそって取り組んでいる」部署が5割を超えている。また、「市町村行政に関する分野」や「防犯や防災に関する分野」では「部署独自の基準にそって取り組んでいる」部署の割合が他分野よりも多く、「全庁の基本的方針や統一的な基準にそって取り組んでいる」と合わせて、基準にそった取組を行っている。このような分野では、積極的な取組を行っているといえる。一方で、「税や国民健康保険に関する分野」や「保健・健康に関する分野」では「各担当者が独自に工夫して取り組んでいる」部署が5割を超えており、基準にそった取組よりも、担当職員の判断による取組が行われている【図表2−3】。 制度が複雑な分野や専門性が高い分野では、基準にそったわかりやすい情報発信に取り組みづらい傾向があることがうかがえる。 図表2−3 わかりやすい情報発信の行政分野別取り組み状況 [各部署/単一回答] <分野ごとの帯グラフ> 市町村行政に関する分野 (n=51) 地域行事や生涯学習などに関する分野 (n=47) 防犯や防災に関する分野 (n=34) 市民生活に関する分野 (n=54) 子どもの福祉や保育に関する分野 (n=41) 教育に関する分野 (n=42) 保健・健康に関する分野 (n=35) 福祉に関する分野(n=48) 税や国民健康保険に関する分野 (n=50) その他の分野 (n=6) 分野ごとに、全庁の基本的方針や統一的な基準にそって取り組んでいる、部署独自の基準にそって取り組んでいる、各担当者が独自に工夫して取り組んでいる、取り組んでいない、無回答の構成比を示す また「取り組んでいる・計」として、「全庁の基本的方針や統一的な基準にそって取り組んでいる」「部署独自の基準にそって取り組んでいる」「各担当者が独自に工夫して取り組んでいる」の合計 の数値も表示 (この図表終わり) Bマニュアル作成と庁内研修は全庁をあげた取組、指導や教育は部署ごとの取組 わかりやすい情報発信に向けた取組の内容をみると、全庁的には「文章作成のマニュアル等の整備」(13市町村)や「庁内で職員だけの研修」(12市町村)、「部署内での指導や教育」(11市町村)などが多く【図表2−4】、部署ごとでは「部署内での指導や教育」(45.7%)、「文章作成のマニュアル等の整備」(28.8%)、「他地域や他分野のマニュアル等を参考にする」(25.8%)などが多い【図表2−5】。 マニュアル等の整備や庁内での研修などは全庁をあげた取組であり、マニュアル等を参考にした指導や教育は部署ごとの取組である。 図表2−4 方針や基準を浸透させるための取組内容 [全庁/複数回答] <取組内容の構成比を示した棒グラフ> ※対象は、回答のあった 39自治体中わかりやすい情報発信に取り組んでいると回答した 22自治体 文書作成等のマニュアル等を整備している 59.1% 庁内で職員だけの研修(外部講師なし)を実施している 54.5% 部署内での指導や教育に努めている 50.0% 庁外の研修等へ職員を派遣している 31.8% 外部専門家を招き指導を受けている 18.2% 外部機関や第三者機関による評価を得ている 9.1% その他 9.1% 特別な取組は行っていない 4.5% わからない - 無回答 - (この図表終わり) 図表2−5 取組を行っている部署における取組内容 [各部署/複数回答] <取組内容の構成比を示した棒グラフ> ※対象は、回答のあった 408部署のうちわかりやすい情報発信に取り組んでいると回答した 368部署 部署内での指導や教育に努めている 45.7% 文章作成のマニュアル等を整備している 28.8% 他地域や他分野のマニュアル等を参考にしている 25.8% 庁内で職員だけの研修(外部講師なし)を実施している 14.9% 庁外の研修等へ職員を派遣している 12.5% 外部機関や第三者機関による評価を得ている 2.7% 外部専門家を招き指導を受けている 2.4% その他 16.8% 無回答 4.6% (この図表終わり) 図表2−5の別表 「その他」の主な内容[各部署/自由記述] ※各項目において3つずつ意見を掲載。 【複数の担当者での確認作業:14件】 ・担当職員間でのディスカッション ・係内において、内容のダブルチェックを行っている。 ・関係職員で表現の分かりやすさ等に付いて確認をしている。 【外部(過去)の基準・出版物を参考にする:12件】 ・他部署や過去の作成物を参考に、わかりやすい表現を心掛けている ・他自治体のホームページや広報を参考にしている。 ・広報紙の校正は、時事通信社の「記事スタイルブック」、第一法規の「新表記辞典」を参考にしている 【全庁の基準に沿って作成:10件】 ・広報の基本ルールや文書事務の手引(いずれも庁内の規程)に沿うようにしている ・全庁で使用しているハンドブックに沿って作成・発信している。 ・文書管理規定に則り、わかりやすい表現、見やすい字体、大きさとしている。 【表現・大きさなどを工夫:5件】 ・文字を大きくしたり、図や表で読みやすくしている。 ・文字を大きくしたり、内容を理解しやすいよう図を用いたりすることに心がけている。 ・各案件ごとにわかりやすく表現している 【他部署と連携:4件】 ・広報課への相談、指導を求める ・広報課の指示に従っている。ホームページ作成研修を受講している。 ・情報発信部署と連携し取り組んでいる。 【各担当者が工夫:3件】 ・各担当者が独自に取り組んでいるが、その内容については取りまとめていない。 ・情報伝達が必要な箇所に対して独自に追加配信、改善 ・わかりやすい表現となるよう、各担当が判断し、工夫している。 【外部機関と連携:3件】 ・消費生活センター運営協議会と文章表現等の見直しを行っている。 ・過去に実施していた委託業者との勉強会で学んだことを活用している。 ・ボランティアの市民からなる運営協議会と協働で事業を進めている。 【その他:10件】 ・市民参加により内容を充実させている。 ・基準は作成していないが、市民に伝わりやすいよう毎年見直しを行っている。 ・シティプロモーション研修への参加 (この図表終わり) C取組のきっかけは、住民からの問い合わせや社会的な関心の高まりなど 全庁的な取組を行うに至った一番の理由は、「部署の方針として決めたから」(4市町村)、「首長の施政方針等に盛り込まれているから」(4市町村)、「社会的な関心が高まっているから」(3市町村)であった【図表2−6】。一方、部署ごとでは、「住民等からの問い合わせが多いから」(37.2%)、「社会的な関心が高まっているから」(20.9%)であった【図表2−7】。住民等からの問い合わせが多いことが理由となっている分野は、「税や国民健康保険に関する分野」、「市民生活に関する分野」、「保健・健康に関する分野」などであった【図表2−8】。 情報を発信する担当者が、現場の日々の業務において住民と接する中でわかりやすい情報発信の必要性を感じたことが、取組のきっかけとなっている。 図表2−6 全庁的な方針や基準等を作成するに至った一番の理由 [全庁/単一回答] <円グラフ> 部署の方針として決めたから 4自治体 18.2% 首長の施政方針等に盛り込まれているから 4自治体 18.2% 社会的な関心が高まっているから 3自治体 13.6% 住民等からの問い合わせが多いから 2自治体 9.1% その他 4自治体 18.2% 特に理由はない、わからない 5自治体 22.7% サンプル数=22 (この図表終わり) 図表2−7 部署において情報発信に努める一番の理由 [各部署/単一回答] <円グラフ> 住民等からの問い合わせが多いから37.2% 社会的な関心が高まっているから20.9%部署の方針として決めたから6.8% 首長の施政方針等に盛り込まれているから6.8% その他23.6% 特に理由はない、わからない3.0% 無回答1.6% サンプル数=368 (この図表終わり) 図表2−7の別表 「その他」の主な内容[各部署/自由記述] ※各項目において3つずつ意見を掲載。 【行政に関する情報をきちんと伝えるため:25件】 ・市政に関してより理解を深めてもらうため ・制度や事業の内容をよく知っていただくため。 ・多くの方に市政に関心をもってもらいたいから。 【事業を周知し、多くの方の参加を促すため:14件】 ・より多くの市民にイベント、講座等に参加いただきたいから ・施設やイベント等の情報を発信することで、制度の活用やイベントの参加を促すため ・行政情報を、住民に分かりやすく伝えることにより、理解を求めるとともに、必要な行動を促すため。 【住民にわかりやすく伝えることは当然の責務であるため:10件】 ・市民に分かりやすく伝えるために当然の責務 ・課税は市民に負担を課す行為でもあるので、その根拠は市民から見てわかりやすく明確でなくてはならないため。 ・分かりやすい情報発信が責務と考えているから 【高齢者・障害者への配慮が必要なため:10件】 ・障害のある方への配慮 ・障害者にわかりやすく理解してもらうため ・高齢者が読みやすいようにといった配慮。 【制度への理解を深め適切な運営へつなげるため:9件】 ・滞納の解消及び滞納整理を推進するため ・納付方法について市民への理解を促し、税収の安定的な確保につなげるため。 ・保育所の入所の手続き等について、住民にわかりやすく説明するため 【施政方針等に盛り込まれているため:6件】 ・文書管理規則に定めがあるため ・全庁的な方針 ・自治基本条例において、市民に対し、市政情報をわかりやすく公表することが定められているから。 【住民サービス向上のため:5件】 ・住民サービスにつながるため。 ・サービスの向上と業務の効率化の両面のメリットがあるから ・市民サービスの向上のため 【住民生活の安心に直結する内容であるため:5件】 ・市民の安全安心に係る内容のため ・市民の生命と財産を守るために正確な情報を迅速に伝える必要があるため ・住民生活に直結する内容であるため 【その他:3件】 ・ウェブアクセシビリティ(高齢者や障害者など心身の機能に制約のある人でも、年齢的・身体的条件に関わらず、ウェブで提供され ている情報にアクセスし利用できること)及びユーザビリティへの配慮のため ・幅広い世代の方に当市の魅力をPRするため ・消防という特殊な分野の為、専門用語等が多いため。 (この図表終わり) 図表2−8 行政分野別 わかりやすい情報発信に努める一番の理由 [各部署/単一回答] <分野ごとの棒グラフ> 市町村行政に関する分野(47) 地域行事や生涯学習などに関する分野(40) 防犯や防災に関する分野(31) 市民生活に関する分野(51) 子どもの福祉や保育に関する分野(40) 教育に関する分野(35) 保健・健康に関する分野(33) 福祉に関する分野(41) 税や国民健康保険に関する分野(45) 以上の分野ごとに以下の回答の構成比を示す 住民等からの問い合わせが多いから 社会的な関心が高まっているから 部署の方針として決めたから 首長の施政方針等に盛り込まれているから その他 特に理由はない、わからない 無回答 (この図表終わり) (2)わかりやすい情報発信の取組内容 @全体に周知・理解や行動を促す情報が5割、個人に行動を働きかける情報が1割 発信している情報の特性は、「全体に対して、周知・理解を促す」情報が31.9%、「全体に対して、行動を促す」情報が19.9%、「特定の個人に向けて、必須の行動を働きかける」情報が10.9%であった【図表2−9】。 図表2−9 発信している情報の特性 [具体例/単一回答] <3列×3行の表> サンプル数 1,031 個人や世帯などを特定している情報 × 対象者に対し、行動等を伴わず理解を促す(周知させるもの)5.1% 個人や世帯などを特定している情報 × 対象者に対し、行動を促す(参加を促進させるもの)3.9% 個人や世帯などを特定している情報 × 対象者に対し、必須の行動を働きかける(手続き等が必要なもの)10.9% 性別や年齢・地域など、ある属性を持つ不特定多数に向けた情報 × 対象者に対し、行動等を伴わず理解を促す(周知させるもの) 5.8% 性別や年齢・地域など、ある属性を持つ不特定多数に向けた情報 × 対象者に対し、行動を促す(参加を促進させるもの)10.3% 性別や年齢・地域など、ある属性を持つ不特定多数に向けた情報 × 対象者に対し、必須の行動を働きかける(手続き等が必要なもの)5.0% 全体にむけて発信している情報 × 対象者に対し、行動等を伴わず理解を促す(周知させるもの) 31.9% 全体にむけて発信している情報 × 対象者に対し、行動を促す(参加を促進させるもの) 19.9% 全体にむけて発信している情報 × 対象者に対し、必須の行動を働きかける(手続き等が必要なもの) 6.7% (この図表終わり) A情報の発信手段は「ホームページ」と「広報誌」。個人に向けた情報は「通知」 情報の発信手段は、「公式ホームページ」が71.2%、「広報誌」が61.5%、「郵便等による通知」が26.6%であった。「ある属性を持つ不特定多数に対して、必須の行動を働きかける」情報や「全体に対して、必須の行動を働きかける」情報、「全体に対して、行動を促す」情報、「ある属性を持つ不特定多数に対して、行動を促す」情報などは「公式ホームページ」や「広報誌」を活用する傾向にある。また「特定の個人に向けて、必須の行動を働きかける」情報や「特定の個人に向けて、行動を促す」情報、「特定の個人に向けて、周知・理解を促す」情報、「ある属性を持つ不特定多数に対して、必須の行動を働きかける」情報は「郵便等による通知」を活用する傾向にある。【図表2−10】。 図表2−10 情報の特性別 発信媒体 [具体例/複数回答] <図表2-9の9件の特性ごとに発信媒体の構成比を示す棒グラフ> ( )内はサンプル数 特定の個人に向けて、必須の行動を働きかける(113) 特定の個人に向けて、行動を促す(40) 特定の個人に向けて、周知・理解を促す(53) ある属性を持つ不特定多数に対して、必須の行動を働きかける(52) ある属性を持つ不特定多数に対して、行動を促す(107) ある属性を持つ不特定多数に対して、周知・理解を促す(60) 全体に対して、必須の行動を働きかける(69) 全体に対して、行動を促す(206) 全体に対して、周知・理解を促す(331) 以上の特性ごとに以下の回答の構成比を示す 公式ホームページ 広報誌 郵便等による通知 SNS(フェイスブック・ツイッターなど) メールマガジン 防災無線 自治会等の回覧板 その他無回答 (この図表終わり) B取組内容は、「文章の削減」「専門用語や行政用語の書き換え」「デザインの工夫」 文章を作成する際に工夫していることは、「文章を簡潔にしている」(51.7%)、「情報量が過大とならないように、情報を整理・選択している」(49.7%)、「読みやすいレイアウトやデザインを工夫している」(40.3%)、「難しい制度等の内容は、平易な表現に改めるよう注意している」(34.7%)、「使う用語は、専門用語、カタカナ語、略語等を避けるように注意している」(31.1%)であった【図表2−11】。 「情報を整理・選択」することで文章の削減に取り組んだり、専門用語や行政用語を平易な表現に書き換えたり、見やすいデザインに努めたりしている。 C制度が複雑な分野や専門性が高い分野は「平易な表現」に努めている 行政の分野別にみると、「子どもの福祉や保育に関する分野」や「税や国民健康保険に関する分野」は「難しい制度等の内容は、平易な表現に改めるよう注意している」傾向があり、「地域行事や生涯学習などに関する分野」「保健・健康に関する分野」は「読みやすいレイアウトやデザインを工夫している」傾向がある【図表2−11】。 難しい制度の情報や専門性が高い情報などは平易な表現を工夫しており、生活情報や住民サービス情報などは見やすさなどを工夫しているといえる。 図表2−11 文章を作成する際に工夫していること [具体例/複数回答] <行政分野ごとに工夫していることの構成比を示す棒グラフ> ( )内はサンプル数 市町村行政に関する分野(128) 地域行事や生涯学習などに関する分野(120) 防犯や防災に関する分野(84) 市民生活に関する分野(136) 子どもの福祉や保育に関する分野(109) 教育に関する分野(104) 保健・健康に関する分野(90) 福祉に関する分野(123) 税や国民健康保険に関する分野(129) 以上の分野ごとに以下の回答の構成比を示す 文章を簡潔にしている情報量が過大とならないように、情報を整理・選択している 読みやすいレイアウトやデザインを工夫している 難しい制度等の内容は、平易な表現に改めるよう注意している 使う用語は、専門用語、カタカナ語、略語等を避けるよう注意している 重要な情報が優先的に伝わるよう、載せる情報の順位を編集している 大事な情報は、例示するなど具体的に書いている 命令調や押し付けがましい表現はさけている 文字を大きくしている 色弱者に配慮し、色彩を工夫している その他 特にない 無回答 (この図表終わり) (3)わかりやすい情報発信に取り組むにあたって課題と感じていること @全庁的な展開ができない理由は、「各部署で実施」「技術的に困難」「体制が整わない」 取組が全庁的に展開できていない理由は、「それぞれの部署で工夫をしているため」「文書を作成する各課の判断に任せているため」など『各部署に任せているので必要ない』ことが多く挙げられている。また、「発信する内容が様々であり、全庁的な基準の設定が困難である」など『統一的な基準を作成するのが技術的に難しい』ことや、「全庁的に取り組む部署がない」「マンパワー不足で全庁的取組に至るまでの余力がない」など『庁内体制が整っていない』ことなども挙げられる【図表2−12】。 図表2−12 取組が全庁的に展開できていない理由 [全庁/自由記述] ※各項目において3つずつ意見を掲載。 【各部署に任せているので必要ない:7件】 ・各分野で様々な対象者に内容を伝えるにあたり、それぞれの部署で工夫をしているため。 ・文書を作成する各課の判断に任せているため。 ・各担当の意欲に任せているため 【統一的な基準を作成するのが技術的に難しい:6件】 ・媒体が市報とSNSでは表現方法が異なり、対象者が高齢者、障害者、子ども等でもそれぞれ表現方法が異なり、統一した基準を設けることが難しいため。 ・表現の問題は、正解がないうえ、わかりやすく表現してみようとマニュアルで訴えても、国の制度などを説明する際は、簡単な表現ができない状況もあり得る。そのため、なかなかパターン化することができず定着も難しい。わかりやすい表現の「心がけ」という点での呼びかけになってしまうことになる。 ・住民向けの分かりやすい情報発信の必要性に対する認識が、各部署で異なるため。 【庁内体制が整っていない:4件】 ・「わかりやすい情報発信」を全庁的に取り組む部署がない。 ・関連部署が多く、取りまとめが難しいため。 ・マンパワー不足で全庁的取組に至るまでの余力がない 【その他:5件】 ・町が行っている情報発信について、受け手である住民の評価やニーズに関して全庁的に把握していないため、情報発信に関する課題が明確になってない。 ・ホームページや広報等による情報発信の手段については、統一されているが、情報発信の内容について統一的な発信内容とする取り組みにかかるきっかけがなかったため。 ・広報・公聴係が広報の作成および防災無線で情報発信をしており、また、各課からの情報をまとめているため全庁の基本的な方針や統一的な基準に近い役割をしている。 (この図表終わり) A全庁的に展開するには、「職員意識の向上」「マニュアルの整備」「体制の整備」が必要 全庁をあげて伝わりやすい情報発信を目指すには、「わかりやすい情報発信の必要性について、全職員の意識付けを継続的に行う」など『職員の意識を向上』させることが必要なこととして挙げられた。また、文章作成の『基準やマニュアルの作成』や「中心となり取り組む部署を設置する」など推進していくための『庁内体制の整備』も必要なこととして挙げられている【図表2−13】。 図表2−13 全庁的にわかりやすい情報発信に取り組むための課題 [全庁/自由記述] ※各項目において3つずつ意見を掲載。 【職員意識の向上:8件】 ・住民に対して伝わりやすい情報発信が必要であるということについて、全庁的な意識共有を図ること。 ・適切な文書処理が行われるよう公文書作成要領を定めているが、多くの職員が公文書作成要領に従い公文書の作成を行なえていない。公文書作成要領を十分に理解し、適切な公文書を作成できる職員の育成が課題である。 ・わかりやすい情報発信の必要性について、全職員の意識付けを継続的に行っていく必要がある。 【基準・マニュアル作成と職員への周知:7件】 ・分かりやすい印刷物を発行することで市民からの問合せ件数を減らすことなど、ユニバーサルデザインを活用した市民サービスの向上と業務の効率化を目指し、ユニバーサルデザインガイドラインの見直しを含め、検討している。 ・先進的な自治体がマニュアル等を定めて行っている、情報発信におけるユニバーサルデザインの視点を取り入れた対応(全ての人が見やすい文字の大きさ、文字間隔、書体等)が課題と考えています。 ・手に取ってもらえる広報誌、見に来てもらえるホームページを作成できるよう、全庁的に取り組むための研修や更なるマニュアル整備が必要。 【多様な受け手に応じた情報発信:6件】 ・さまざまな年齢・性別・状況の人に情報を伝えなければならないこと。 ・誰が、誰に向けて、どのように情報を発信していくのか、対象者に合わせた発信方法を工夫するなど全庁的な方針を構築し、「伝える情報」から、「伝わる情報」へと受け手がわかりやすく正しく理解できる情報を発信していく必要があります。 ・専門用語の使用を控えるなど、情報を受け取る側の市民の目線に立った情報発信が必要である。 【庁内体制の整備:3件】 ・住民向けの分かりやすい情報発信について、中心となり取り組む部署を設置するなど、推進するための体制作りが課題であると考えられる。 ・全庁的、又は横断的な取り組みを推進する組織が定まっていない。 ・情報発信に関する全庁的な理解と、課題点等の共有化を行うことができる体制整備。 【その他:6件】 ・市のホームページや市報等について,興味を持って見ている住民は少数であるため,住民に興味を持ってもらうような仕掛けが必要である。 ・急速な高齢化の進行、新聞購読の低下、情報発信の手段の多様化などで、必要な情報が必要な市民に行き届かなくなっている。 ・ホームページを始め、SNSなどの新たな手段による情報発信を図りつつ、ネット環境がない市民が不利益にならないよう引き続き配慮したい。 (この図表終わり) B部署での取組の課題は、「情報を取捨選択できない」「やり方がわからない」 部署での取組の課題は、「重要な情報が多く、減らせない」、「説明不足の指摘を恐れて、どうしても発信情報量が多くなる」など『情報量が多く取捨選択が難しい』ことが挙げられている。また、「広範囲に受け入れられる情報の作成が難しい」、「法律用語や専門用語が難しく、わかりやすく表現できない」などわかりやすい情報発信のやり方がわからないことや「担当者が多く、表現方法を統一させることが難しい」ことなども挙げられる。【図表2−14】。 図表2−14 各部署でわかりやすい情報発信に取り組むための課題 [各部署/自由記述] ※各項目において3つずつ意見を掲載。 【すべての住民に伝える難しさ:34件】 ・限られたスペース内で、全ての市民の方に同じ理解をしていただくための、表現の仕方 ・簡潔にかつ、どの方にもわかりやすく、漏れがなく伝えること。 ・情報を受け取る側の感性が個々異なるため、広範囲に受け入れられる情報の作成が困難である。 【法律用語・専門用語・制度の難しさ(書き換えの難しさ):21件】 ・税制度については、複雑な内容が多く、個人ごとに必要な情報が違うため、記載する情報を選定するのに苦慮する。 ・税法上の専門用語を簡潔かつ平易に説明すること。 ・専門用語が多数あり、専門知識のない市民が内容を理解できない場合が多いので、内容を簡潔に分かり易く説明することが課題である。 【職員間の意識・技術の差:19件】 ・職員によって取り組みにばらつきがあること。 ・課題は共通していることが多いのだが、事業が多く担当者もたくさんいるので、わかりやすい表現方法を統一させることが難しい。 ・共同通信社の記者ハンドブックを担当職員しか持っていないため、職員全体に浸透していない。 【情報の伝え方に工夫が必要:17件】 ・情報紙や独自の子育て情報サイト等、媒体はそろっているため、今後はわかりやすい文章やレイアウトなど中身の質を上げることが重要。 ・広報媒体が限られており、市民全体への周知に結びつきづらい部分がある。 ・市の広報誌やホームページをご覧いただけていない市民の方にどのように情報を届けるか。 【情報の簡潔さと正確さのバランスをとる難しさ:11件】 ・国の制度は、必ずしも市民にとって理解し易い文書が使用されていないため、正確に情報を伝えることにより、市民にとって理解の難しい内容となってしまうこともある。(給付担当) ・行政表現を使用すると難解となることがある一方、わかりやすく口語表現とすると、正確な情報や意味が伝わりづらくなることがある。 ・情報の分かりやすさと、正確な情報を伝えることの両立。(誤解を完全になくすためには、極端には契約書の約款のような詳細な文書が必要となりますが、情報は伝わりにくくなります) 【情報量の多さ・取捨選択の難しさ:10件】 ・理解してもらうために文章が多くなりがちだが、なるべく簡素にする方法が課題。 ・一定の制約(紙面スペース、予算等)の範囲内で、受け手の多様なニーズに応えるための情報量の判断と発信する情報の取捨選択。 ・発信する情報の、取捨選択が大変重要。住民からの反響に大きく関わるため。 【全庁的にとりまとめる部署が不在、統一基準が必要:5件】 ・内容が複数の課にまたがるため、言葉づかいや語句の使い方など統一が必要。 ・全庁統一的に取り組むべき事項でもある ・部署内での工夫に留まるため、全庁的にチェックする部署がないことが課題である。 【効果の測定しにくさ:4件】 ・取り組みの効果が測定しにくい。 ・実際に市民に分かりやすく伝わっているのかどうか結果の把握が難しい。 ・情報量が多いため、十分に市民に伝わっているかの判断が難しく、できていない。 【対応に人手が必要:3件】 ・現状の取り組み以上のことをするには、財政・マンパワーの面で課題がある。 ・時間的な制約(人員不足) ・点字やルビ振り等、資料作成に時間と労力がかかる。 【情報伝達の迅速性:2件】 ・「防災・安全メール」は、警察や気象庁等からの情報を市民に伝えるため、配信元の情報を受信してから、安全メールを配信するまでのタイムラの改善が課題である。 ・観光の情報発信においては、即時に発信するべき情報があるため、その掲載に時間がかかってしまうと情報の重要性が低まってしまうこと。 【その他:20件】 ・犯罪の発生状況なので、個人を特定されないようにしないといけない。また、同種被害に遭わないようにできる限り具体的に記載しないといけない。 ・市報では同じ内容を複数回掲載できない為、情報を発信する時期が大切になってくること。 ・委託している事業が多いため、委託先が作成したものを修正するのに時間を要する。 (この図表終わり) C取り組まない理由は、「必要性を感じていないから」 部署で取り組んでいないのは、「理由は特にない」(30.8%)や、「現状で十分であるため」(23.1%)など、必要性を感じていないことが理由として挙げられている。一方、「全庁統一的に取り組むべき事項であるため」(25.6%)との理由も挙げられる【図表2−15】。 今後については、「取り組む意向はあるが、部署内での検討には至っていない」(41.0%)、「今後取り組むために、部署内で検討中である」(2.6%)など、取組に前向きな部署もある一方で、「取り組む意向はない」部署も30.8%であった【図表2−16】。わかりやすい情報発信に取り組むには、担当職員に必要性を感じてもらうことが大事であるといえる。 図表2−15 取り組んでいない部署における、取り組んでいない理由 [各部署/単一回答] <円グラフ> ※対象は、回答のあった408 部署中わかりやすい情報発信に取り組んでいないと回答した39 部署 全庁統一的に取り組むべき事項であるため25.6% 現状で十分であるため23.1% 取り組み方がわからないため10.3% 忙しいため5.1% その他5.1% 理由は特にない30.8% サンプル数=39 (この図表終わり) 図表2−16 取り組んでいない部署における今後の意向 [各部署/単一回答] <円グラフ> ※対象は、回答のあった408 部署中わかりやすい情報発信に取り組んでいないと回答した39 部署取り組む意向はあるが、部署内での検討には至っていない0.0% 取り組む意向はあるが、部署内での検討には至っていない41.0% 取り組む意向はない30.8% 今後取り組むために、部署内で検討中である2.6% 現在、取り組みに向けて基準等を作成中である- % わからない25.6% サンプル数=39 (この図表終わり) 3.多摩・島しょ地域の住民の情報入手の状況 この節では、「多摩・島しょ地域の住民へのアンケート」の結果から、多摩・島しょ地域の住民の情報入手の現状と評価について述べる。「多摩・島しょ地域の住民へのアンケート」は、以下の2種類を行っている。(詳細は「第1章3.調査の概要(2)多摩・島しょ地域 の住民へのアンケート」(7から8ページ)を参照) @事前調査:20歳以上の男女を対象とした「情報入手の実態について」のアンケート(11,489件回収) A本 調査:事前調査の回答者のうち「1年以内に市町村からの情報を入手した人」を対象とした「入手している情報の評価について」のアンケート(1,040件回収) (1)の項では、情報入手の現状とわかりやすさへの評価を整理し、わかりにくいと感じている情報の特徴を把握した。 (2)の項では、情報を得にくい媒体や理解しにくい通知文の特性を整理し、わかりにくいと感じる理由を把握した。 なお、このアンケートはインターネット調査会社のモニターを対象に Web上での調査を行ったため、母集団は多摩・島しょ地域に住むモニター会員に限られる。そのため、回答者には、インターネットで情報を入手することが困難な高齢者や障害者等の当事者は含まれていない。そこで、高齢者や障害者等については、支援団体等へのヒアリング調査を実施し、次節で情報入手の現状と問題点を整理した。 (1)住民の情報入手の現状とわかりやすさの評価 @わかりにくいと感じている人は1/4。わかりやすい情報発信に向けた取組が必要 事前調査の対象者のうち、「住んでいる市町村からの情報やお知らせなどは一度も受け取ったことがない」人は14.0%( 1,604人)であった【図表2−17】。以下、この 1,604人を除いた9,885人を対象に分析を行う。 1年以内に自治体からの情報を入手した人は全体の9割弱であり【図表2−18】、入手した情報の種類は、「広報誌」(74.2%)、「通知書」(35.9%)、「公式ホームページ」(30.4%)など、平均で 2. 4種類の情報を入手している【図表2−19】。わかりやすいと感じている人は多いものの、わかりにくいと感じている人も全体の1/4の割合でいる【図表2−20】。4人に1人がわかりにくいと感じており、よりわかりやすく情報を発信していく取組が必要である。 図表2−17 住んでいる市町村からの情報の受取状況 [事前調査/単一回答 ] <円グラフ> 住んでいる市町村からの情報やお知らせなどを受け取ったことがある 9,885人 86.0% 住んでいる市町村からの情報やお知らせなどは一度も受け取ったことがない 1,604人 14.0% サンプル数=11,489 (この図表終わり) 図表2−18 住んでいる市町村からの1年以内の情報の受取状況 [事前調査/単一回答] <円グラフ> 最近1年以内に住んでいる市町村からの情報を見た 8,681人 87.8% 最近1年以内に住んでいる市町村からの情報を見ていない 1,204人 12.2% サンプル数=9,885 (この図表終わり) 図表2−19 直近 1年間の情報入手の現状 [事前調査/複数回答] <棒グラフ> 広報誌を読んだ 74.2% あなたや同居者に対する通知書が届いた(給付金通知や納税通知、検診・健康診断通知、選挙など) 35.9% 公式ホームページを見た 30.4% 回覧板を見た 22.1% 役所の窓口で申請手続き等を行った 18.0% 生活情報冊子を見た(暮らしの便利帳など) 11.7% 街なかにある情報掲示板で情報を見た 8.7% メールマガジンやSNSで入手した(防災防犯情報など) 7.3% その他 0.2% 最近1年以内にお住まいの市町村からの情報を見ていない 12.2% 平均情報入手数(種類)2.4 ※「平均情報入手数(種類)」は0種類(最近1年以内にお住いの市町村からの情報を見ていない)を除いて集計 (この図表終わり) 図表2−20 住んでいる市町村からの情報のわかりやすさ [事前調査/単一回答] <円グラフ> わかりやすい、読みやすいと感じている 17.5% どちらかというとわかりやすい、読みやすいと感じている 57.9% どちらかというわかりにくい、読みにくいと感じている 20.2% わかりにくい、読みにくいと感じている 4.3% サンプル数=9,885 「わかりにくい」の計 24.6% (この図表終わり) A情報に接する頻度の低い人や若い人がわかりにくいと感じている わかりにくいと感じている人は、情報入手の数が少ないほど多い傾向がある【図表2−21】。 年代が高いほど入手した情報の数は多く、20歳代の平均は 2.1種類に対し、60歳以上は 2.7種類であった。わかりにくいと感じている人をみると、20歳代が28.5%であるのに対し、60歳以上では19.4%であった【図表2−22】。情報を多く入手している高齢者のほうがわかりにくさを感じていない。 図表2−21 情報入手数別 わかりやすさ [事前調査/単一回答] <普段接している行政情報の数ごとに、わかりやすさの感じ方の構成比を示す帯グラフ> 普段接している行政情報の数 最近1年以内にお住まいの市町村からの情報を見ていない (n=1,204) 1種類 (n=3,412) 2種類(n=2,064) 3種類 (n=1,367) 4種類 (n=876) 5種類以上(n=962) 全体 (n=9,885) 以上の数ごとに以下の回答の構成比を示す わかりやすい、読みやすいと感じている どちらかというとわかりやすい、読みやすいと感じている どちらかというとわかりにくい、読みにくいと感じている わかりにくい、読みにくいと感じている (この図表終わり) 図表2−22 年代別 直近1年間の入手した情報 [事前調査/複数回答] <年代ごとに入手した情報の構成比を示す棒グラフ> ( )内はサンプル数 全体(9,885) 20歳代(889) 30歳代(1,810) 40歳代(2,912) 50歳代(2,265) 60歳以上(2,009) 以上の年代ごとに以下の回答の構成比を示す 広報誌を読んだ あなたや同居者に対する通知書が届いた(給付金通知や納税通知、検診・健康診断通知、選挙など) 公式ホームページを見た 回覧板を見た 役所の窓口で申請手続き等を行った 生活情報冊子を見た(暮らしの便利帳など) 街なかにある情報掲示板で情報を見た メールマガジンやSNSで入手した(防災防犯情報など) その他 最近1年以内にお住まいの市町村からの情報を見ていない <年代別平均情報入手数(種類)の表> 全体 2.4 20歳代 2.1 30歳代 2.3 40歳代 2.3 50歳代 2.3 60歳以上 2.7 <年代別わかりにくいと感じている人の構成比の表> 全体 24.6% 20歳代 28.5% 30歳代 26.0% 40歳代 24.8% 50歳代 26.2% 60歳以上 19.4% ※「わかりにくい・計」:受け取っている行政情報が「わかりにくい、読みにくいと感じている」「どちらかというとわかりにくい、読みにくいと感じている」の合計 (この図表終わり) Bわかりにくい情報は、制度が複雑な情報や専門用語が多い情報 1年以内に情報を受け取っている人のうち、普段入手している行政情報は、「市民生活に関する情報」(73.6%)、「市町村行政に関する情報」(70.1%)、「地域行事や生涯学習などに関する情報」(61.3%)などが多く【図表2−23】、入手している行政情報数の平均は 4.3種類であった【図表2−24】。わかりやすいと感じている分野は、「地域行事や生涯学習などに関する情報」(87.4%)や「防犯や防災に関する情報」(86.5%)などであった。 一方、わかりにくいと感じている分野は、「税や国民健康保険に関する情報」(43.1%)や「福祉に関する情報」(32.3%)などであった【図表2−25】。制度が複雑な情報や専門用語が多い情報は、わかりにくいと感じている人が多い。 図表2−23 普段自治体から入手している行政情報の種類 [本調査/複数回答] <年代別に入手している行政情報の分野の構成比を示す棒グラフ> 市民生活に関する情報市町村行政に関する情報 地域行事や生涯学習などに関する情報 防犯や防災に関する情報 保健・健康に関する情報 税や国民健康保険に関する情報 福祉に関する情報 子どもの福祉や保育に関する情報 教育に関する情報 その他 (この図表終わり) 図表2−24普段自治体から入手している行政情報の種類数 [本調査/単一回答] <入手している情報の種類数の構成比を示す棒グラフ> (この図表終わり) 図表2−25 行政分野別 情報のわかりやすさ [本調査/単一回答] <行政分野ごとにわかりやすさの感じ方の構成比を示す棒グラフ> ( )内はサンプル数 全体 (n=1,040) 市町村行政に関する情報 (n=729) 地域行事や生涯学習などに関する情報 (n=637) 防犯や防災に関する情報 (n=587) 市民生活に関する情報 (n=765) 子どもの福祉や保育に関する情報(n=285) 教育に関する情報 (n=195) 保健・健康に関する情報 (n=543) 福祉に関する情報 (n=288) 税や国民健康保険に関する情報(n=425) (この図表終わり) C30歳代が受け取る子育てに関する情報はわかりやすく伝わっていない 普段入手している行政情報の種類(行政分野)をみても、年代が高いほど多くの分野を受け取っている。20歳代の平均は 3.3種類に対し、60歳以上は 5.1種類であった。30歳代が入手している情報は「子どもの福祉や保育に関する情報」や「教育に関する情報」の割合が他の年代と比べて高く、60歳以上は「防犯や防災に関する情報」「保健・健康に関する情報」「福祉に関する情報」「税や国民健康保険に関する情報」の割合が他の年代と比べて高い【図表2−23】。わかりにくいと感じている人の割合は、多くの分野で 30歳代が全体よりも高い【図表2−26】。30歳代にとって必要な子育てに関する情報がわかりやすく伝わっていないと考えられる。 図表2−26 年代別 各行政情報のわかりにくさ [本調査/単一回答] <行政分野ごと、かつ年代ごとににわかりやすさの感じ方を示す表> (この図表終わり) コラム 担当者の気付き【高齢者より 30歳代が困っている?!】 当初、高齢になる程文書は理解しにくいと感じるのでは、と考えていたのですが、結果は意外にも逆でした。 30歳代がここまで「わかりにくい」と感じているとは予想していませんでした。高齢の方は行政の文書に慣れざるを得なかったのでしょうか。仕事もしながら育児に奮闘している 30歳代は、短時間で読んでもすぐ理解できないと感じているのでしょうか。その年代別差異の理由は、今回の調査研究では詳しく追うことはできませんでしたが、考えさせられる結果でした。 (コラム終わり) (2)わかりにくい理由 @必要な情報を得にくい媒体は、「防災無線」「自治会等の回覧板」 住民が普段自治体から入手している情報媒体は、「広報誌」が92.8%、「公式ホームページ」が 59.3%、「自治会等の回覧板」が 33.8%、「郵便等による通知」が 28.9%であった【図表2−27】。必要な情報を得にくいと感じている情報媒体は、「防災無線」(51.0%)や「自治会等の回覧板」(34.9%)であった【図表2−28】。 図表2−27 普段自治体から入手している情報媒体の種類 [本調査/複数回答] <普段接している情報媒体の構成比を示す棒グラフ> 広報誌 92.8% 公式ホームページ 59.3% 自治会等の回覧板 33.8% 郵便等による通知 28.9% 防災無線 18.5% メールマガジン 12.0% SNS(フェイスブックやツイッターなど) 6.1% その他 1.0% (この図表終わり) 図表2−28 情報媒体別 情報の得やすさ [本調査/単一回答] <媒体ごとに情報の得やすさの構成比を示す棒グラフ> 広報誌 (n=965) 公式ホームページ(n=617) メールマガジン (n=125) SNS(フェイスブックやツイッターなど)(n=63) 自治会等の回覧板 (n=352) 防災無線 (n=192) 郵便等による通知 (n=301) その他 (n=10) 以上の媒体ごとに以下の回答の構成比を示す 必要な情報を得やすい どちらかというと必要な情報を得やすい どちらかというと必要な情報を得にくい 必要な情報を得にくい (この図表終わり) A理解しにくい通知文は、「保険に関する通知」「給付金等に関する通知」 住民が普段自治体から入手している通知文は、「納税通知」が56.3%、「健康診断等に関する通知」が55.4%、「各種手当・給付金等に関する通知」が32.2%であった【図表2−29】。理解しにくいと感じている通知文は、「介護保険や国民健康保険、後期高齢者医療保険に関する通知」(41.0%)や「各種手当・給付金等に関する通知」(31.3%)であった【図表2−30】。 図表2−29最近受け取った通知文の種類 [本調査/複数回答] <受け取った通知の種類の構成比を示す棒グラフ> 納税通知 56.3% 健康診断等に関する通知 55.4% 各種手当・給付金等に関する通知 32.2% 介護保険や国民健康保険、後期高齢者医療保険に関する通知 27.7% 子育て支援や小中学校入学に関する通知 12.6% その他の通知 1.7% 通知文は受け取っていない 17.0% (この図表終わり) 図表2−30 通知文種類別 理解しやすさ [本調査/単一回答] <通知文ごとに理解しやすさの構成比を示す帯グラフ> ( )内はサンプル数 納税通知 (n=585) 健康診断等に関する通知 (n=576) 各種手当・給付金等に関する通知 (n=335) 子育て支援や小中学校入学に関する通知(n=131) 介護保険や国民健康保険、後期高齢者医療保険に関する通知(n=288) その他の通知 (n=18) 以上の通知の種類ごとに以下の回答の構成比を示す すぐに理解できた 理解するのに時間がかかった 理解できなかったので、調べた 理解できなかった その他 (この図表終わり) Bわかりにくい理由は、情報の優先度、多さ、デザイン。通知では内容、具体性など 「広報誌」や「公式ホームページ」におけるわかりにくい理由は、「どの情報が重要かわかりにくい」、「情報が多くてわかりにくい」、「レイアウトやデザインが読みにくい」などが挙げられる【図表2−31】。また、「納税通知」や「各種手当・給付金等に関する通知」、「介護保険や国民健康保険、後期高齢者医療保険に関する通知」では、「内容が難しい」、「例示などがなく具体的でない」などが挙げられる【図表2−32】。 図表2−31 情報媒体別 情報が得にくい理由 [本調査/複数回答] <情報媒体ごとに、情報が得にくい構成比を示す表> 広報誌(148) 公式ホームページ(106) メールマガジン(21) SNS(フェイスブックやツイッターなど)(11) 自治会等の回覧板(123) 防災無線(98) 郵便等による通知(42) その他(2) 以上の媒体ごとに以下の回答の構成比を示す 用語に、専門用語、カタカナ語、略語等が多い 内容が難しい 例示などがなく具体的でない 情報が多くてわかりにくい どの情報が重要かわかりにくい 文章が簡潔でない 命令調や押し付けがましい言い方がある 文字が小さい 色が見にくい レイアウトやデザインが読みにくい その他 ※防災無線の「その他」理由で具体的記述があった 63件(64.3%)中、「音声が不明瞭」「音が小さい」など『聞き取りづらい』が 58件であった。 (この図表終わり) 図表2−32 通知文種類別 理解しにくい理由 [本調査/複数回答] <通知文の種類ごとに、情報が得にくい構成比を示す表> 納税通知(160) 健康診断等に関する通知(92) 各種手当・給付金等に関する通知(105) 子育て支援や小中学校入学に関する通知(32) 介護保険や国民健康保険、後期高齢者医療保険に関する通知(118) 以上の通知の種類ごとに以下の回答の構成比を示す 用語に、専門用語、カタカナ語、略語等が多い 内容が難しい 例示などがなく具体的でない 情報が多くてわかりにくい どの情報が重要かわかりにくい 文章が簡潔でない 命令調や押し付けがましい言い方がある 文字が小さい 色が見にくい レイアウトやデザインが読みにくい その他 (この図表終わり) 4.高齢者・障害者・外国人の情報入手の状況 この節では、情報発信において特に配慮が必要だと考えられる高齢者・障害者・外国人の情報入手の現状と問題点について述べる。この節の内容は、「多摩・島しょ地域の住民へのアンケート」での「同居者別クロス」結果や支援団体等へのヒアリング調査結果、文献調査結果をもとに整理した。 (1)の項では、「多摩・島しょ地域の住民へのアンケート」結果から、高齢者や障害者、外国人等と同居する世帯の情報入手の現状と評価を整理し、わかりにくいと感じている情報の特徴を把握した。 (2)の項では、支援団体等へのヒアリング調査結果や文献調査結果から、高齢者や障害者、外国人等が情報入手の際に直面している問題点等を整理し、配慮すべき事項を把握した。 (1)高齢者・障害者・外国人の情報入手の現状とわかりやすさの評価 @障害者等や外国人と同居する人は、わかりにくいと感じている人の割合が高い 高齢者や障害者、外国人と同居している人は、「広報誌」や「通知書」などの情報を受け取っている割合が高い。次に割合が高いのは、障害者等と同居している人では「役所の窓口での手続き」(32.8%)、「公式ホームページ」(31.8%)、外国人と同居している人では「公式ホームページ」(31.4%)である。わかりにくいと感じている人は、全体が24.6%であるのに対し、高齢者と同居している人は23.9%、障害者等と同居している人は29.1%、外国人と同居している人は30.0%であった【図表2−33】。情報入手数の平均は、全体が 2. 4種類であるのに対し、高齢者と同居している世帯は 2.6種類、障害者等と同居している世帯は 2.6種類、外国人と同居している世帯は 2. 5種類であった【図表2−34】。障害者や外国人等と同居する人は、情報に接する頻度が高いにもかかわらず、わかりにくいと感じている人の割合が高い傾向にある。 図表2−33 同居者別 直近 1年間の入手した情報 [事前調査/複数回答] <同居者ごとに入手した情報の構成比を示す棒グラフ> ( )内はサンプル数 中学生以下の子どもを含む複数の情報弱者と同居している(中学生以下の子どものみを含む)(2,476) 65歳以上の高齢者を含む複数の情報弱者と同居している( 65歳以上の高齢者のみを含む)(2,125) 障害者、要支援・要介護者等を含む複数の情報弱者と同居している(障害者、要支援・要介護者等のみを含む)(881) 外国人を含む複数の情報弱者と同居している(外国人のみを含む)(70) 情報弱者とは同居していない(4,994) 広報誌を読んだ 以上の同居者ごとに以下の回答の構成比を示す あなたや同居者に対する通知書が届いた(給付金通知や納税通知、検診・健康診断通知、選挙など) 公式ホームページを見た 回覧板を見た 役所の窓口で申請手続き等を行った 生活情報冊子を見た(暮らしの便利帳など) 街なかにある情報掲示板で情報を見た メールマガジンやSNSで入手した(防災防犯情報など) その他 最近 1年以内にお住まいの市町村からの情報を見ていない (この図表終わり) 図表2−34 同居者別 直近 1年間の入手した情報の数 [事前調査/単一回答] <同居者ごとに入手した情報の数を示す表> (この図表終わり) Aわかりにくい情報は、税や福祉に関する情報 住民が普段入手している行政情報を分野別にみると、「市民生活に関する情報」や「市町村行政に関する情報」などが多い。中学生以下の子どもと同居している人をみると、「子どもの福祉や保育に関する情報」(69.6%)や「教育に関する情報」の割合が他より高く、高齢者や障害者等と同居している人では、「税や国民健康保険に関する情報」や「福祉に関する情報」が他より高い【図表2−35】。中学生以下の子ども、65歳以上の高齢者、障害者等、外国人と同居している人は、同居していない人に比べて、わかりにくいと感じている人の割合が高い。特に、「税や国民健康保険に関する情報」や「福祉に関する情報」などでわかりにくいと感じている人の割合が高い【図表2−36】。 図表2−35 同居者別 直近 1年間で入手した情報の種類 [本調査/複数回答] <同居者ごとに入手した情報の種類の構成比を示す棒グラフ> ( )内はサンプル数 中学生以下の子どもを含む複数の情報弱者と同居している(中学生以下の子どものみを含む)(247) 65歳以上の高齢者を含む複数の情報弱者と同居している( 65歳以上の高齢者のみを含む)(202) 障害者、要支援・要介護者等を含む複数の情報弱者と同居している(障害者、要支援・要介護者等のみを含む)(116) 外国人を含む複数の情報弱者と同居している(外国人のみを含む)(4) 情報弱者とは同居していない(543) 以上の同居者ごとに以下の回答の構成比を示す 市民生活に関する情報 市町村行政に関する情報 地域行事や生涯学習などに関する情報 防犯や防災に関する情報 保健・健康に関する情報 税や国民健康保険に関する情報 福祉に関する情報 子どもの福祉や保育に関する情報 教育に関する情報 (この図表終わり) 図表2−36 同居者別 各行政情報のわかりにくさ [本調査/単一回答] <行政分野ごとに、情報弱者との同居の有無によるわかりやすさの差を示す表> (この図表終わり) コラム 担当者の気付き【わかりやすい情報発信は誰のため?】 「わかりやすい情報発信への取組」というと、その対象は子ども、高齢者、障害者、外国人など、情報の受け取りに弱点を抱える人を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。彼らに配慮した情報発信を行うことは、わかりやすい情報発信の取組のひとつです。 しかし、情報の受け手に特別なハンデがなくても、相手に『伝えたい』ことを『伝わる』ようにするのは簡単なことではありません。アンケート結果からも、4人に1人がわかりにくいと感じていることがわかりました。つまり、わかりやすい情報発信の取組の対象は、情報を受け取るすべての住民と考えていいと思います。さらには、友人や家族などプライベートで接する人に対しても、誤解のないようにわかりやすく伝えることが大切です。 このように、「わかりやすい情報発信への取組」は、情報を発信するすべての場面で重要な意味があります。「わかりやすい情報発信」に取り組むことは、業務だけでなく日常生活でも生かせる取組ではないでしょうか。 (コラム終わり) (2)高齢者・障害者・外国人が情報入手の際に直面している問題点 @高齢者は文字の大きさだけでなく、行間や色使いなど「文書の見た目」によってわかりにくいと感じる 高齢者は加齢に伴い、一般的に視力や色覚機能が低下する。小さい文字が見えにくくなることに加え、行間が狭いと読みづらいと感じる。また、黄系や青系の感度が鈍くなり、コントラストに対する感度も低下する。 このように、高齢者向けの文書では、文字の大きさだけでなく、行間や色使いなどへの配慮が求められている。 A障害者は障害の種類と程度により、一人ひとり状況が異なる 視覚障害者は、全盲や弱視などにより、情報入手に不自由を感じている。文字による情報入手が困難であるため、自治体側は音声化や点字化などの対策を講じた情報発信を行う。しかし、視覚障害者のうち点字習得者は1割強(厚生労働省「平成 18年身体障害児・者実態調査結果」(注1))であり、点字を読めない人の方が多い。その理由のひとつとして、事故や病気、加齢等で視力が低下し障害者となる場合が多く、その場合は点字の習得が困難であることが挙げられる。また、色覚障害もタイプによって感度や見え方が異なる。このように、視覚障害者に配慮すべき事項は一律ではなく、人により様々である。 ただ、技術の進歩に伴い、視覚障害者の情報入手をサポートする仕組みは構築されつつある。タブレットやパソコンを用いれば文字を拡大することもできるし、自動で音声化や点字化する機器もある。情報を発信する側からテキストデータを提供することで、情報の受け手自身が、自身の状況や利用している用具に合わせてデータを活用できる。 注1 厚生労働省『平成18年身体障害児・者実態調査結果』、2008(平成20年)3月 <http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/shintai/06/dl/01.pdf>2017年1月13日確認 (注終わり) 聴覚障害者は、難聴や失聴などにより、音声による情報入手に不自由を感じている。情報の発信側は、文書による情報入手には問題がないと考え、手話による対策のみを講じる場合が多い。しかし、聴覚障害者のうち手話をコミュニケーション手段として活用している人は2割弱(前述の厚生労働省調査)であり、手話を理解できる人は少ない。従って、手話が理解できない聴覚障害者に対しては、文字による情報発信のわかりやすさは益々重要となる。 一方、手話が理解できる人にとっても、文書における情報発信のわかりやすさは重要である。なぜなら、手話は日本語とは異なる言語体系で作られているからである。自治体によっては、手話をひとつの言語として扱う手話言語条例を制定するところも増えてきた。長年手話でコミュニケーションしていると、日本語の文章であっても理解が難しい場合がある。実際、日本語の通知文に手話通訳が必要となる場合も多い。 そのため、聴覚障害者への情報発信における配慮としては、手話での提供だけでなく、文書そのもののわかりやすさを重視することが必要である。 知的障害者や知的障害児の多くは、複雑な表現や難しい漢字、抽象的表現などの理解が困難である。そのため、漢字にふりがなを振ったり、平仮名で記載したりといった対策を講じて情報発信を行う。しかし、単にふりがなを振ったり平仮名で記載したりするだけでは、文書自体が難しい場合や、単語の意味そのものの理解が難しい場合など、知的障害者らが、受け取った情報を自力で理解することは難しい。多くの場合は、保護者や支援員らが分かりやすく言い換えて説明したり、「絵カード」等を活用したりして、知的障害者らに情報を伝えている。従って、知的障害者が保護者等の支援を受けずに、自ら情報を得ることができるよ う、平易な単語や表現を用いたわかりやすい文書での情報が求められている。 取組例として、内閣府の「障害者差別解消法リーフレット(わかりやすい版)」が挙げられる。この「わかりやすい版」は、単語や表現を平易にし、図やイラストを活用しているもので、通常のリーフレットと併せて公開されている。この内閣府の取組のように、通常の文書に併せて「わかりやすい版」を作成することも有効である。なおこの取組は、前述のとおり聴覚障害者にとっても有効である。 このように障害者は、一言で障害者と言っても、障害種別の違いだけでなく、障害の程度の違い、それぞれの状況や利用している用具等によっても、必要としている支援や情報の受け取り方が異なる。そのため、それらに応じた情報提供が必要である。また、自治体が発行する障害福祉に関するサービスを掲載した資料でさえも、様々な対象者に関する情報が一冊にまとめてあることが多く、自分に必要なサービス情報を探すことに苦労するという意見もある。その人がどんな状況にあり、どんな支援を必要としているかは、支援する側が想像しきれない部分も多く、全てを想像することは困難である。だからこそ、情報の受け手に情報 弱者が含まれる可能性があれば、テキストデータや「わかりやすい版」のような、多様な媒体による情報提供が有効となる。 B外国人には「多言語化」よりも平易な日本語のほうが伝わりやすい場合がある 現在日本に住む在留外国人は、約 230万人 (注2)(2016(平成 28)年6月)、多摩・島しょ地域の外国人住民の人口は約7万5千人(注3)(2016(平成28)年10月)であり、その国籍や言語は多岐にわたる。しかし、自治体による多言語対応は、英語、中国語、ハングル、スペイン語などにとどまり、すべての言語に対応した情報発信には限界がある。ただ、母語以外では英語よりも平易な日本語の方が理解できるという外国人も多い。 また、外国人住民は、「暮らしの情報」や「事故や火事の情報」、「災害時の情報」などの情報を必要としている。しかし前述のとおり、多言語化のみでは限界があるため、必要とする情報の内容が伝わらず、災害時に避難ができなかったり、適切なゴミ出しができずに近隣住民同士のトラブルが発生したりする場合もある。 注2 法務省『平成28年6月末における在留外国人数について(確定値)』2016(平成28)年9月27日報道発表 <http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00060.html> 2017年2月15日確認 注3 東京都総務局統計部『外国人人口 平成28年』、2016(平成28)年10月 <http://www.toukei.metro.tokyo.jp/gaikoku/2016/ga16010000.htm> l2017年2月15日確認 (注終わり) 以上のことから、外国人住民に向けては、多言語対応のひとつとして、平易な日本語表現による情報発信も求められている。 このとき外国人は、例えば二重否定や尊敬語・謙譲語、構造が複雑な文章などを難しいと感じる。また、母語が漢字圏か非漢字圏かによっても文章の理解度が異なる。日本語の言葉の背景にある文化が、母語にない概念や異なる文化であった場合、さらに理解が難しい。外国人住民に対しては、文化の違いを考慮しながら、できるだけ平易な日本語で表現することが求められている。 ただ、平易な表現といったとき、その平易な単語が辞書で引きやすいかどうかに留意する必要がある。例えば、「注意する」を「気を付ける」と言い換え、平易に表現したつもりが、その単語の意味を知りたい外国人が辞書を引こうとしてもかえってうまく調べられないということがある。この場合、「注意する」という表現したほうが、辞書で調べやすくなる。 小学 1年生の教科書に載っているような単語のほうが、外国人にとってはこのような難しさがあるという意見も聞かれた。 これらのことから、外国人に向けた平易な表現とは、子ども向けとは異なることも忘れてはならない。母語、文化、日本語の習熟度等、様々である人々に、一律の基準で対応しようとすること自体、無理があると考えるのが現実的である。 C支援の必要度合いで配慮すべき事項を整理する このように、「情報の受け取りに弱点を抱える人」の状況は一人ひとり異なる。障害者や外国人については前述のとおりであり、高齢者も同様であるし、状況も変化していく。この多様さゆえ、情報発信において配慮すべき事項も多様ということになる。 通常、情報の受け取りに弱点を抱える人への配慮事項は、障害者や高齢者、外国人などの「属性」ごとに考えがちである。しかし、この属性別に情報発信媒体を準備することは、費用や人員体制の面からも難しい。したがって、情報発信の対象者が必要としている支援の内容や度合で考えることで、より汎用性の高い配慮をすることができる。その一つとして、高齢者・障害者・外国人への情報提供の問題点をみると、配慮すべき事項に共通する部分があることに気づく。例えば文字を大きくし、行間を空けることは、高齢者だけでなく、視覚障害者や知的障害者、在日歴の長い外国人住民にとっても効果的である。また、平易な表現や漢字のふりがなは、外国人住民だけでなく、子どもや知的障害者、聴覚障害者にとっても効果的である。 このように、高齢者・障害者・外国人に対してわかりやすい情報を発信するためには、「属性」別に情報発信を考えるのではなく、必要な支援の種類と度合いに応じて配慮すべき事項を整理することが求められる。ただし、漢字にふりがなを振ることは高齢者にとって煩雑で見づらさにつながる場合があるなど、配慮すべき内容は相手により相反する場合があるので、その点を十分考慮する必要がある。 5.多摩・島しょ地域におけるわかりやすい情報発信の問題点 この節では、本章の2節から4節で把握した現状をもとに、1節の「わかりやすい情報発信の必要性」に照らし、多摩・島しょ地域の自治体がわかりやすい情報発信に取り組むにあたっての問題点を6つに整理する。 (1)行政分野の違いによる取り組みにくさの差 自治体の取組状況と住民の評価を比べると、「市民生活に関する分野」「保健・健康に関する分野」「子どもの福祉や保育に関する分野」などは、自治体の取組も積極的であり住民の評価も高い。一方で、「税や国民健康保険に関する分野」や「福祉に関する分野」などは、自治体の取組に限界もあり住民の評価も低い【図表2−37】。 住民生活に身近で具体的、イメージのわきやすいような情報を発信する分野においては、自治体は比較的取り組みやすく、住民評価も高い。一方で、制度が複雑な分野や専門性の高い分野においては、他分野に比べて取組が難しく、住民もわかりにくいと感じている。行政分野の違いによる取り組みにくさの差が、住民の評価にも違いを生じさせている。取り組みにくい分野があるということは、自治体がわかりやすい情報発信に取り組むにあたってのひとつの問題点である。 図表2−37 行政の取り組み状況と住民の評価 <行政の取組状況と住民の評価を対比させたグラフ> ※「各部署」と「本調査」の結果を合成して作成 縦軸:住民による行政情報のわかりやすさへの評価 横軸:行政のわかりやすい情報発信への取組の状況 (この図表終わり) (2)職員の取組意欲を高めることの難しさ 各部署においてわかりやすい情報発信に努める一番の理由は、「住民等からの問い合わせが多いから」が4割弱であった( p.22、図表2−7)。住民からの要望のような外的要因は、職員の取組意欲を高めるきっかけになることがわかる。 しかし、アンケートの自由回答によれば、職員は、「全職員の意識付けを継続的に行う必要がある」、「伝わりやすい情報発信の重要性を職員一人ひとりが意識する必要がある」などといった課題を抱えている。これらの意見からは、取組の必要性を感じていない職員の存在が読み取れる。職員間の意識の差により、意欲の高い職員が取組を広げることが難しい場合があると思われる。これは、取組の緊急性の低さや重要性の認識の差など、内的要因による理由もあるのだと考えられる。 このように、取組のきっかけとなり得る外的要因がありながらも、取組を進めにくい内的要因がある状況において、職員の取組意欲を高めていくことは容易なことではない。わかりやすい情報発信に取り組むにあたっては、職員の取組意欲を高めることの難しさが問題点として挙げられる。 (3)受け手の違いによるわかりやすさの評価の差 全体では、自治体からの情報に接する頻度が高い人のほうが、わかりやすいと感じている傾向が見られたが、一方で、障害者等や外国人と同居する世帯は、情報に接する頻度が比較的多いにも関わらず、わかりにくいと感じている人が多い傾向にあった。また、若い人ほどわかりにくいと感じており、特に 30歳代に向けた子育てに関する情報はわかりやすく伝わっていない傾向にあった。 このように、情報に接する頻度や受け手の立場、情報の内容など、受け手の状況により何をわかりやすいと感じるかは異なる。対象を限定せず多様な人に情報を発信する場合、すべての人にわかりやすいと感じてもらうことは難しい。わかりやすい情報発信を目指すにあたっては、受け手の立場によって何がわかりやいか(わかりにくいか)、すなわちわかりやすさの評価が異なることが問題点といえる。 (4)行政情報の表現方法の難しさ 自治体職員は、文章を作成する際に「文章を簡潔にする」、「情報を整理・選択する」など情報量の削減や、「難しい制度等の内容を平易な表現に改める」、「専門用語、カタカナ語、略語等を避ける」など行政用語の書き換えに取り組んだり、「読みやすいレイアウトやデザインを工夫する」など見やすいデザインに努めたりしている(p.25、図表2−11)。その一方で、「情報の取捨選択が難しい」、「法律用語や専門用語をわかりやすく表現できない」などといった課題も抱えている。他方、住民は、「どの情報が重要かわかりにくい」、「情報が多くてわかりにくい」など文章量の多さや、「レイアウトやデザインが読みにくい」 など見た目によるわかりにくさを感じている。この自治体と住民の回答を対比させたのが、【図表2−38】である。 職員がわかりやすい情報発信に努めているにもかかわらず住民の評価が得られていないのは、情報の整理やレイアウトの工夫がまだ不足しているのではないかと考えられる。しかしそれに加え、専門用語をわかりやすく表現できないことや、法律用語を使わざるを得ないことなど、わかりやすさに向けた取組に一定の限界があることが原因として考えられる。行政情報自体、わかりやすく伝えることが難しいということが問題点といえる。 図表2−38 自治体職員の取組と住民の評価の比較 <行政の「取組内容」と住民の「わかりにくい理由」の対比の表> ※「具体例」と「本調査」の結果を合成して作成 (この図表終わり) (5)統一的な基準づくりの難しさ 各部署におけるわかりやすい情報発信の取組内容は、「部署内での指導や教育」(45.7%)のほか、「文章作成のマニュアル等の整備」(28.8%)や「他地域や他分野のマニュアル等を参考にする」(25.8%)などが挙げられており(p.20、図表2−5)、わかりやすい表現のための基準が求められていることがわかる。しかし、全庁的な基準づくりに対しては、「発信する内容が様々であり、全庁的な基準の設定が困難」、「対象者によって表現方法が異なるため、統一した基準を設けることが難しい」などといった課題も抱えていることが、アンケートの自由回答から読み取れる。 このように、ある程度の基準が必要であるものの、統一的な基準を作成するのが技術的に難しいことが問題点である。 (6)中心となって取り組む体制や人材の問題 わかりやすい情報発信に全庁的な基準をもって取り組んでいる自治体は1/3の 13市町村にすぎない(p.17、図表2−1)。全庁的な取組になっていない市町村では、「それぞれの部署で工夫している」、「各課の判断に任せている」など、各部署に任せているケースも多い。一方各部署においては、「全庁の基本的方針や統一的な基準にそって取り組んでいる」部署が 5割弱であり、そのほかは「各担当者が独自に工夫して取り組んでいる」など、部署としての取組というよりは担当者が工夫して取り組んでいることが読み取れる(p.17、図表2−2)。 アンケートの自由回答によると、全庁的に取り組めない理由としては、「取り組む部署がない」、「マンパワー不足で全庁的取組に至るまでの余力がない」など、庁内体制が整っていないことが挙げられた。一方で各部署の側からは、「全庁統一的に取り組むべき事項であるため」などの理由で取り組んでいない部署があった。 このように、全庁的な取組の中心になりうる部署と情報発信を行う個々の部署で、取組に対する意識の違いがあり、取組を組織横断的に展開できないことが問題点である。 第3章わかりやすい情報発信に向けた研究や取組事例 1. 減災のための「やさしい日本語」 2. 公文書の書き換えを行う「やさしい日本語」 3. 情報のユニバーサルデザイン 4. 多くの取組に共通する要素 第3章では、第2章で整理した多摩・島しょ地域の市町村が情報発信を行う上で抱えている問題点に対し、解決策を考える上で参考となる先行研究や取組を整理する。なかでも、公的文書の作成を念頭におき、減災のための「やさしい日本語」と多言語対応の一つとしての「やさしい日本語」及び情報のユニバーサルデザインに注目し、文字情報をわかりやすく伝えるためのノウハウや、先行して取り組んでいる自治体等の事例について紹介する。 1.減災のための「やさしい日本語」 (1)取組の背景と経緯 1995年に発生した阪神・淡路大震災では、日本人だけでなく日本に暮らす多くの外国人も被災者となった。中でも、日本語を中心とした災害に関する情報をうまく取得できなかった外国人は、一層不自由な状況を強いられる等、二重三重にも被災する結果となった。 外国人に対する情報発信は、理想をいえば、それぞれの人が母語とする言語を用いた多言語による情報発信が望ましい。しかし、全ての言語を網羅することは不可能であり、時間的余裕も人的余裕もない災害発生時においてはなおさらである。 そこで、発災時に全ての言語に対応する代わりに、普通の日本語よりも平易で、外国人でもわかりやすい日本語である「やさしい日本語」を用いて情報発信する取組が、弘前大学人文学部社会言語学研究室の佐藤和之教授らを中心に始まった。【図表3−1】 図表3−1 「やさしい日本語」書き換え例 【普通の日本語】 けさ7時 21分頃、東北地方を中心に広い範囲で強い地震がありました。 大きな地震のあとには必ず余震があります。 引き続き厳重に注意してください。 【「やさしい日本語」】 今日 朝 7時 21分、 東北地方で 大きい 地震が ありました。 大きい 地震の あとには 余震 あとから くる 地震が あります。 気をつけて ください。 (この図表終わり) 出典:弘前大学社会言語学研究室『「やさしい日本語」作成のためのガイドライン(増補版)』、 2013年3月 <http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/ej-gaidorain.pdf> 2017年1月10日確認 (出典終わり) この背景としては、特に次の3点が重要である。 はじめの2点は、「日本語で発信する」ということについてである。まず1点目として、外国人向けの情報発信といえばまず英語が思い浮ぶが、その限界に目を向ける必要がある。国立国語研究所が外国人に対して実施した「生活のための日本語」調査結果の速報(注4)によれば、日常において困らない言語は、「英語」が 36.2%であるのに対し、「日本語」は 61.7%と上回っているのである。ただし当該調査は、国際交流協会や日本語教育関係者を通じて実施したため、一定の日本語教育を受けた者が回答者であることを考慮する必要がある。 2点目は、「やさしい日本語」による情報発信は、外国人だけでなく日本人にもわかりやすいということである。これは情報を受信する側にとってだけでなく、発信する側にとってのメリットでもある。迅速な情報発信が求められる災害時においては特に、翻訳という作業を経ずに情報発信できることは有意義である。発信情報の内容確認が容易であることも、素早い情報発信に寄与する。 3点目が、外国人にわかりやすいということの意義についてである。外国人は、前述のように災害発生時の情報不足から重大な被災状態に置かれるため、配慮が必要であると考えられている(注5)。しかし、十分な情報提供を受ければ、外国人は自分で避難することができ、さらには支援する側に回ることができる可能性が高い。居住または滞在する外国人が少なく、個別に外国人向け対応を行うことが難しい場合にはなおさら、このような方法を用いて外国人に必要な情報をわかりやすく伝えることが、より有効となる。 注4 国立国語研究所『「生活のための日本語:全国調査」結果報告<速報版>』、2009年5月 <https://www.ninjal.ac.jp/archives/nihongo-syllabus/research/pdf/seika_sokuhou.pdf> 2017年1月13日確認 注5 内閣府『災害時要援護者の避難支援ガイドライン』(2006(平成18)年3月)では、「災害時要援護者」として高齢者、障害者、外国人、乳幼児、妊婦等を想定していた。 (注終わり) (2)減災のための「やさしい日本語」研究の内容 この研究では、災害発生時に伝えるべき情報を、時間軸に沿って次の4つに整理した。 @発災直後に伝えるべき(被災者が知りたい)情報 A平静を取り戻した頃(約 12時間後)に伝えるべき(被災者が知りたい)情報 B日常の生活に戻ろうとし始めた頃(約 48時間後)に伝えるべき(被災者が知りたい)情報 C復旧支援の準備が整った頃(72時間後)に伝えるべき(被災者が知りたい)情報 減災のための「やさしい日本語」は、このうち@からBまでを対象としている。Cの行政や救援団体などの支援が整う前に、適切な情報提供を実施することで、被災者の精神的な負担を軽減することができる。特に外国人の場合、地震の経験を持たないことが多いため、初期段階での情報提供はより重要となる。 「やさしい日本語」で文章を作るために、この研究では 12の規則が示された【図表3−2】。また、使用する語彙はおよそ 2,000語である。日本語能力試験出題基準3級若しくは4級(最も初級)程度(注6)の日本語能力が想定されている。この水準の日本語を用いると、日本語の学習歴が半年から2年程度の外国人であれば理解度は90%台になると言われている。通常の日本語では30%台であったことに比べると、効果が大きい。このことは、検証実験により確認されている。さらに、同時に行われた、日本語を母語とする小学生(低学年)を被験者とした実験により、外国人のみならず、子どもにとっても有効な情報提供手段であることが確認された。 注6 1から4級は、2009年まで実施されていた旧試験の基準である。2010年からの新試験での基準はN1からN5の5段階とされた。4級は新試験N5、3級はN4相当。 (注終わり) 図表3−2 減災のための「やさしい日本語」 12の規則 @難しいことばを避け、簡単な語を使ってください A1文を短くして文の構造を簡単にします。文は分かち書きにしてことばのまとまりを認識しやすくしてください B災害時によく使われることば、知っておいた方がよいと思われることばはそのまま使ってください Cカタカナ・外来語はなるべく使わないでください Dローマ字は使わないでください E擬態語や擬音語は使わないでください F使用する漢字や、漢字の使用量に注意してください。すべての漢字にルビ(ふりがな)を振ってください G時間や年月日を外国人にも伝わる表記にしてください H動詞を名詞化したものはわかりにくいので、できるだけ動詞文にしてください Iあいまいな表現は避けてください J二重否定の表現は避けてください K文末表現はなるべく統一するようにしてください (この図表終わり) 出典:弘前大学人文学部社会言語学研究室『減災のための「やさしい日本語」ホームページ』 <http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/EJ9tsukurikata.ujie.htm>2017年1月10日確認 (出典終わり) 誰もが簡単に減災のための「やさしい日本語」で情報を作れるように、弘前大学社会言語学研究室のホームページでは、作成したガイドラインや語彙集、案文集、Eラーニング版教材等を公開している。また「やんしす(YAsashii Nihongo SIen System)」【図表3−3】というソフトウェアも開発され、ダウンロードできるほか、日本語教育へのインターネット活用を提言しているグループ(東京国際大学・川村よし子代表)が開発した「リーディング・チュウ太」という語彙の難易度判定システムにもリンクが貼られ利用できる【図表3−4】。 図表3−3 やんしす(YAsashii Nihongo SIen System) <画像:ホームページ画面> 出典:<http://www.spcom.ecei.tohoku.ac.jp/~aito/YANSIS/> 2017年1月16日確認 (この図表、出典終わり) 図表3−4 日本語読解学習支援システム「リーディング・チュウ太」 <画像:ホームページ画面> 出典:<http://language.tiu.ac.jp/> 2017年1月10日確認 (この図表、出典終わり) さらに、災害時に重要となる放送による情報発信、掲示物等による情報発信についての研究も行われ、放送読み上げ案文やポスター案が提示されている。 被災者は、災害発生直後には特に、テレビやラジオに情報を求める。しかし緊急時において刻々と変化する状況を伝えるマスメディアが、いわゆる情報弱者に十分に配慮することは現実には難しい。そこで佐藤教授らは、アナウンスする人が、情報弱者を含めた被災者に対してわかりやすく情報を伝え、適切な行動を促せるよう、アナウンスのための案文を時間軸に沿って用意している【図表3−5】。放送用に用意した案文は 560文あり、1分あたりひらがなだけで書いて 360文字読むスピートを奨励している通常のニュースより、1.3倍ほど時間をかけて読むようにした。 これらによる特に災害発生初期の的確な情報提供は、二次災害を予防する意味でも重要である。またこうした音声による情報は、外国人のみならず視覚障害者にとっても有効である。 図表3−5 災害発生時の放送用案文(抜粋) @これからも大きい地震が 続くかもしれません(災害発生から0から2分) A弘前市の お知らせを 信じて ください(20から60分) Bラジオで 外国語のニュースがあります(60から 180分) 出典:佐藤和之「災害時の言語表現を考える.やさしい日本語・言語研究者たちの災害研究」、『日本語学 特集:伝え方の諸相』2004年 (この図表、出典終わり) また、掲示物や配布物などの表現については、前述「12の規則」に加え、さらに視覚的効 果のためのルールを定めている【図表3−6】。 このような書き言葉による情報は、音声による情報と異なり、繰り返し読んだり、遡って確認したりすることができるため、災害時には有効な情報伝達手段【図表3−7】となる。従って、わかりやすさへの配慮はここでも重要である。 図表3−6 掲示物など文字媒体に使用する表現方法の留意点 @見出し語は目をひくように大きく太めに書く。見出し語だけは多言語化することもある。 A見出し語は「あいています」や「もらえます」といった動作を指示する表現にする。 B絵や地図などの視覚情報を多用する。 Cただし、絵は様々な意味をもってしまい、誤解を生ずることもある。そのようなときは、意味を限定するために語を図中に書きこむようにする。 D絵や地図は、重要な要素だけを太めの線で大きく描く。詳細なものは情報が煩雑になり逆に肝心な情報の理解を妨げる。 E1枚の掲示物で伝える情報は一つとする。 F文字は漢字と仮名にし、ローマ字は使わない。 G文は分かち書きにする。 H漢字を使うときは、すべての漢字にひらがなでルビを振る。 出典:佐藤和之「災害時の言語表現を考える.やさしい日本語・言語研究者たちの災害研究」、『日本語学 特集:伝え方の諸相』2004年 (この図表、出典終わり) 図表3−7 電話を使えることを知らせる例 <画像:電話受話機のイラストと、日本語・英語・ハングル・スペイン語で「注意」の表示、大きな文字で「使うことが できます」の表示など)> 出典:弘前大学人文学部社会言語学研究室『減災のための「やさしい日本語」ホームページ』 <http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/EJ13poster-mokuji.htm>2017年1月16日確認 (この図表、出典終わり) このような災害に備えた「やさしい日本語」であるが、情報を発信する側が日常的に訓練しておかなければ、いざという時に使うことができない。そればかりか、情報を受ける側である外国人等も、日ごろから減災のための「やさしい日本語」を通じた情報に接していなければ、どこで情報が得られるのかわからない。したがって、非常時にすぐ使えるためには、情報を発信する側と受ける側の両方が、平常時から減災のための「やさしい日本語」に慣れ親しんでおく必要がある。 そこで弘前大学社会言語学研究室では、災害発生直後の情報伝達をさらに進め、生活情報をわかりやすく言い換えて伝えるための用字用語辞典を2016(平成28)年3月に作成した(「カテゴリU」)。災害発生から 72時間以内の情報であれば約 2,000語で足りたが、確定申告の手続きのような情報なども表現できるようにしたこの辞書には、約 6,800語が納められている。 なお、「やさしい日本語」に慣れるという意味には、情報を発信する側が「やさしい日本語」を用いた表現で伝えられるようになるということだけでなく、これを日本語の乱れなどと指摘せず、外国人住民のためにやさしく言い換えた表現であることを、日頃から理解してもらうということも含んでいる。 (3)自治体等の取組 全国で、この「やさしい日本語」の趣旨に賛同し、災害時のみならず日常業務においても有効と捉える自治体や団体が出てきた。既に、「やさしい日本語」による情報発信体制を整える活動は、自治体職員相互の教え合い・学び合いを通じ、草の根的に全国的な広がりをみせている。 一方、各地の国際交流協会や障害者支援団体においても、同じように趣旨が理解され、取り入れられるようになった。研究チームの意図を超え、外国人以外、防災分野以外への応用が、各地で行われている。これらの取組は弘前大学社会言語学研究室ホームページにも紹介されているが、ここではヒアリングを実施した3例について述べる。 @青森県弘前市 弘前市は、一部の市内標識に減災のための「やさしい日本語」を採用している【図表3−8】。防災分野だけにとどまらず、広聴広報課が中心となって、外国人観光客や要配慮者に向けた情報発信にも活用を拡大している。 弘前市は「情報を外に出さない部署はない」という認識のもと、基本となるコンセプトは減災のための「やさしい日本語」を踏襲しつつ、外部講師を招いて研修を開催し、職員の広報力・広聴力のレベルアップを図っている。 こうした取組は着実に成果を生み、職員が文字の大きさひとつにもこだわりながら制作した広報誌は、県の広報コンクールで 2015から2017年と3年連続で特選(広報紙部門・総合の部)を受賞している。 図表3−8 弘前市内の標識 (「やさしい日本語」で「逃げるところ」と表記) <画像:避難場所を指し示す看板の写真。イラストや矢印、「観光客避難場所(逃げるところ)」等の表示> 撮影地:弘前市内 (この図表終わり) A大阪府堺市 東日本大震災が発生した際に、NPO法人多文化共生マネージャー全国協議会は「やさしい日本語」を含めた多言語による迅速な支援を行った。堺市はその効果に注目し、文化観光局国際部国際課が中心となって「やさしい日本語」の取組を始め、外国人等のより多くの地域住民にわかりやすく情報を発信する方法として「やさしい日本語」を取り入れることを目指し、ホームページへの導入や研修を通じ窓口業務への浸透を図った。 その結果、外国人への情報発信ややり取りの有無にかかわらず全庁的に「やさしい日本語」の存在やその重要性への認識が広がり、障害者が多く利用する施設の案内や窓口での活用、多様な部署での外国人来庁者への説明等への活用など、各部署でも積極的に導入され始めた。 例えば上下水道局では、この研修を受講した広報担当者が局内研修で広め、災害情報や水道事故(漏水等)のような緊急情報、水道の開閉栓のような最低限知ってほしい情報などの発信を「やさしい日本語」でも行い、より分かりやすい周知に努めている。 また、取組を通じて、「やさしい日本語」での情報発信は、外国人だけでなく小学生や行政の文書や用語に慣れていない人など、より多くの人に有効であるとの実感が生まれている。情報を受け取る側のことを考え、たとえ相手が日本人でもうまく伝わっていなければ「やさしい日本語」で言いかえてみる、等の姿勢を身につければ、「やさしい日本語」は対象者を限定せず有効だと考えられている。 B(社福)大阪市手をつなぐ育成会 大阪市手をつなぐ育成会は、知的障害者の支援団体である。 この会では、「やさしい日本語」による文章の作り方が、知的障害者に情報をわかりやすく伝える場面でも有効であると、利用者や保護者から共感を得ている。日本語をどう噛み砕いていくかという考え方や、二重否定やあいまいな表現を避ける、文末表現を統一する等の文章の作成ルールが、大変参考になっているという。大阪市手をつなぐ育成会では職員への研修を実施し、知的障害者に向けた情報提供を行う際に「やさしい日本語」を活用している。例えば、知的障害者に対して選挙のしかたを説明する際、「やさしい日本語」で説明した資料を作成している【図表3−9】。 図表3−9知的障害者に向けた選挙についての説明資料 <画像:投票の仕方についてのイラスト入り説明書。説明文は短文で、ふりがなが振られている> 提供:社会福祉法人大阪市手をつなぐ育成会 (この図表終わり) コラム 担当者の気付き【どんな分野でも、わかりやすさは必要】 市町村から住民に向けて発信される情報の中でも、選挙に関するものは、対象者が広範囲なもののひとつでしょう。様々な決まりごとがあり、厳密でなければならないこの分野で、文書をわかりやすい表現にしていくのは難しいことと思います。しかし、選挙権を持つ知的障害者に投票の仕方を理解してもらうことは必要です。そのために支援団体自らが工夫したのが、図表3−9です。 防災はもちろん、水道の部署も、すべての人にお知らせしなければならないことがあります。外国人や高齢者、障害者などを直接の対象とする部署だけでなく、すべての分野で、わかりやすい情報発信を心がけていく必要があることを先進的取組から確認できました。 (コラム終わり) (4)参考にできること @災害を想定した情報発信の取組 近年次々と起こる様々な災害を見ても、それに対する備えは多摩・島しょ地域の全ての市町村の共通課題といえる。その備えの一つとして情報発信の在り方を準備しておくことも、また同様である。減災のための「やさしい日本語」の取組では、各地の自治体がすぐ使用できるよう考えられたマニュアルや素材が用意されているので、各地域の状況に合わせて取り入れていくことができる。 また、わかりやすい情報発信の取組を進めるにあたり、緊急性の高さや発災時の想定を共有しておくことは、取組への動機づけや取組内容への理解につなげやすい。 A具体的な表現方法の基準の存在 わかりやすい情報発信に取り組むにあたり最初にぶつかる壁は、どのような基準に沿って表現したらよいか、という問題である。減災のための「やさしい日本語」では、文を簡単にする方法、言葉の使い方や表記の仕方などが端的に整理されている。また、視覚情報、音声情報の表現方法についても、体系的に整理されている。 これは、対象や場面を明確にしていることにより実現しているといえる。“誰に、どんなときに、どの方法で、何を伝えたいか”が明確であると、その想定に合わせた基準を作ることができる。 このことを十分に踏まえたうえで、減災のための「やさしい日本語」に示されている基準の応用により、効果的なわかりやすい情報発信のための基準づくりが可能である。 B応用の広がり 減災を目的として生まれた「やさしい日本語」が、今では防災・減災以外の分野にまで広く応用されている。また、対象者を外国人以外にも広げる取組も多くみられる。これは、減災のための「やさしい日本語」研究当初に意図したことではないかもしれないが、減災のための「やさしい日本語」の基準の明確さ、補助手段の使いやすさ、理念などについて応用可能性が高いと受け止められた結果であると考えられる。 ただし、減災のための「やさしい日本語」ですべての問題が解決されるわけではないことは付けえる必要がある。「やさしい日本語」表現の、日本人にとっての“もの足りなさ”は、緊急時だから受け入れられるという面がある。これは、減災のための「やさしい日本語」の性質上、避けることができない。即時的に活用することは有効であるが、本来はそれぞれの母語で、すなわち多言語での発信が理想的であることを忘れてはいけない。特に医療、裁判の分野など、生命・人権に関わる情報については、それぞれの母語による情報のやりとりが保障されるべきである。 コラム ≪NHK地震速報の「すぐにげて!」≫ 2016年 11月 22日早朝に発生した福島県沖を震源とする地震では、福島県、茨城県、栃木県で震度5弱を記録した。気象庁は福島県と宮城県に津波警報を出し、仙台港には1メートル 40センチの津波が来た。NHKは画面に「すぐにげて!」の文字を大きく表示するとともに、アナウンサーは強い口調で繰り返し避難を呼びかけた。 NHKは、東日本大震災を契機に 2011年 11月に規定を改正し、津波災害の危機感を視聴者により強く伝え、一人でも多くの人に逃げてもらうよう、避難を呼びかける表現を切迫感のある強い口調や命令調、断定調に改めたという(注7)。「すぐにげて!」の端的なテロップも、緊急性と伝わりやすさを勘案した結果といえよう。 (コラム終わり) 注7 参照:「津波警報・ NHKが強い口調で非難呼びかけ」、『放送研究と調査(月報)』メディアフォーカス、NHK放送文化研究所、2013年 2月 <http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/focus/545.html>2017年2月15日確認 (注終わり) 2.公文書の書き換えを行う「やさしい日本語」 (1)取組の背景 減災のための「やさしい日本語」に対し、外国人の日本語学習教材や、公文書の書き換えについて研究を行っている一橋大学国際教育センターの庵功雄教授らによる取組も、もうひとつの「やさしい日本語」として知られる。 法務省の在留外国人統計(旧登録外国人統計)によると、日本在留外国人は 2016年6月末時点で約 230.7万人となっている。在留外国人統計が始まった 2012年 12月末の数は 203.4万人であるため、5年半の間に約 27万人増加した計算である。このうち約半分の国籍は中国・韓国【図表3−10】でその多くは多数は日本で生まれた二世以上といわれるが、残りは日本語以外の言語を母語とする人々である。 図表3−10 在留外国人数(上位 10カ国) <国別の在留外国人数を示す棒グラフ> 在留外国人数(人) 中国 677,571 韓国 456,917 フィリピン 237,103 ブラジル 176,284 ベトナム 175,744 ネパール 60,689 米国 53,050 台湾 50,908 ペルー 47,670 タイ 46,690 (この図表終わり) 出典:法務省『平成 28年6月末における在留外国人数について(確定値)』における『確定値公表資料』第1表<http://www.moj.go.jp/content/001204549.pdf>(2017年2月15日確認、脚注2も参照のこと)から作成 (出典終わり) 近年は多言語対応として、日本語・英語・中国語・ハングルを標準とする動き【図表3−11】が普及している。しかし、あらゆる行政情報をこれらの言語で表すには非常に費用がかかるうえに、4言語で十分かという意見もある。さらに日本在住外国人全ての母語に対応することは、一層困難を極め、多言語対応にも限界があると言わざるを得ない。従って、災害時のみならず、日常的に「やさしい日本語」を活用した情報発信が、外国人住民に適切な情報発信をする上で有効である。 図表3−11多言語対応の例 <画像:写真、トイレとベビールームを示す。日本語・英語・中国語・ハングルで表示> 撮影:羽田空港国際線ターミナルトイレ (この図表終わり) (2)「やさしい日本語」研究の内容 前述のとおり、地域に暮らす外国人も増加している中で、彼らとの共生を図るいわゆる多文化共生社会の実現と、彼ら自身の居場所づくりを保障する日本語教育が求められている。 「やさしい日本語」には、まず、定住外国人が日本で生活する上で最低限必要となる日本語能力を身につけることを公的に保障するという意味がある。定住外国人が日本社会の中で「母語で言えることを簡単な文型を使って日本語で言える」(注8)ようになるための、日本語学習に資するものである。 注8 庵功雄『やさしい日本語−多文化共生社会へ』2016年、岩波新書 (注終わり) 次に、「やさしい日本語」は、地域において住民と定住外国人の共通言語として機能することが期待される。これまでの日本では日本人並みの日本語能力を身につけた外国人だけを受け入れるという考え方が支配的であったこともあり、“外国人が ”いかに効率的に日本語力を高めるか、という観点で日本語教育は考えられてきた。これに対し「やさしい日本語」の場合は、外国人に最低限の日本語習得を求める一方で、日本人にも外国人が理解できる日本語で話したり書いたりできるように、自らの日本語を調整し、歩み寄ることを求める点に特徴がある【図表3−12】。 図表3−12地域日本語教育における「やさしい日本語」の位置づけ 日本語母語話者〈受け入れ側の日本人〉 は、コード(文法,語彙)の制限,日本語から日本語への翻訳によって、 日本語ゼロビギナー〈生活者としての外国人〉は、ミニマムの文法と語彙の習得によって、 ともに「やさしい日本語」に近づける 出典:庵功雄、岩田一成、森篤嗣「「やさしい日本語」を用いた公文書の書き換え」、『一橋大学機関リポジトリ』2011年 (この図表、出典終わり) 「やさしい日本語」のホームページでは、自分で用意した日本語の文章について「語彙」、「漢字」、「硬さ(注9)」、「長さ」、「文法」の 5項目について診断できるソフト「やさ日チェッカー」【図表3−13】を無償で公開しており、日本語を母語として使用する側も、自身の文章の難易度を確認することができる。このように、「やさしい日本語」を使おうとするとき、日本人(日本語母語話者)も自らの日本語を見直すことになるといえる。 注9 文章の硬さは、文中の名詞の親密度で測定する。 (注終わり) 図表3−13「やさ日チェッカー」 <画像:ホームページ画面> 出典:「やさしい日本語」ホームページ <http://www4414uj.sakura.ne.jp/Yasanichi1/nsindan/>2017年1月16日確認 (この図表、出典終わり) 3つ目に、地域で日本語を学ぶ外国人への教育法・教材としての役割が挙げられる。定住外国人への日本語教育は、学校における学習と地域における学習とに分けられる。本来は公的に保障されるべき学習機会であるが、実際にはボランティアによる学習機会が地域で提供されている。学校における学習の初級レベルに達するのには 300時間ほどの学習時間が必要とされるが、学校と比べ短時間で学ばざるを得ない地域の日本語学習では、より効率的な学習方法が求められる。そこでこの研究では、最低限の「ミニマム文法」を開発した。一橋大学 庵教授が提案する「ステップ1レベル」、「ステップ2レベル」と呼ぶ文法は、従来の初級文法に比べ文法項目が軽くなっている点が特徴である。 このような最低限の文法に基づく学習方法は、例えば外国にルーツをもつ子どもやろう児など、言語獲得の困難さが社会生活における自己実現の阻害要因となってしまう言語的少数者の進学・就職を助ける効果も期待できる。さらには地域で暮らす上で必要となる行政情報を入手するための公的文書が、「やさしい日本語」で書かれることにより、外国人が被る不利益は軽減すると考えられる。加えて、外国人のみならず、日本人高齢者などにとっても利益があると考えられる。こうしたいわゆる情報弱者へも平等に情報を伝えられるようにすることが、公文書の書き換え研究の目的である。 (3)公文書の書き換えへの取組 「日日ほん訳プロジェクト」と名付けられた研究では、「やさしい日本語」を媒介とした外国人と日本人のコミュニケーションを目指し、普通の日本語を「やさしい日本語」へ変換する作業を、(部分的に)機械化することを目標としている。この取組では横浜市との協働研究が重ねられている。 そもそも外国人や障害者に対する情報伝達は、対象者の状態が異なることを前提としてきたため、対応策も対象者によってそれぞれ異なると考えられてきた。しかし、伝えたい情報の中核は、対象者が異なっていても同じであるということ、また情報伝達の際は情報を一度単純なものにした後、対象者に応じて書き分けていく作業がとられるということの2点【図表3−14】は、どの対象者にも共通している。すなわち、一連の変換プロセスは、外国人や障害者向けだけでなく、広く市民にわかりやすく情報発信する際にも応用できるものである。 さらに、普通の日本語から「わかりやすい日本語」に翻訳された情報は、外国語へと翻訳する際の中間言語として位置付けることができる。 図表3−14 情報変換プロセスのイメージ 原文(難解なものを対象)⇒情報の核 ⇒各種「わかりやすい日本語」へと分化 出典:松尾慎ほか「社会参加のための情報保障と「わかりやすい日本語」」、『社会言語科学』2013年9月 (この図表、出典終わり) 公文書は災害時の情報と異なり、減災のための「やさしい日本語」よりも広く様々な状況を想定する必要がある。語彙数に関しては、災害時の用語に比べると行政用語の方が多岐にわたるため、6,000語から 10,000語(旧日本語能力試験2級から1級相当)は必要になると見込まれる。この場合は用語に対して、よりわかりやすい言葉による説明をつける必要がある。一方で、文法については減災のための「やさしい日本語」が初級と想定する日本語能力のレベルよりもさらに文法の負担を軽減することによって、書き換え基準の作成を試みている【図表3−15、図表3−16】。 図表3−15文法上の書き換え基準 @複合述部は副詞と述部に分ける (例)備蓄しておきましょう。 →前に買いましょう。 A言いさし・体言止めは述部まで明示する (例)住みよいまちを! → 住みよいまちを作りましょう! B排他文は非排他文に改める (例)18 歳未満又は65 歳以上の労働者には適用されません。 → 18 歳から64 歳までの人にあてはまります。 C長文はナンバリングや箇条書きにする D連体修飾(外の関係、非制限的連体修飾)は解体する (例)誰もが安全で快適に暮らせるまち。このための身近な組織としてご近所のつながりでできた町内会・自治会があります。→ 誰もが安全で快適に暮らせるまち。このために町内会・自治会があります。自治会は身近な組織としてご近所のつながりでできています。 出典:庵功雄、岩田一成、森篤嗣「「やさしい日本語」を用いた公文書の書き換え」、『一橋大学機関リポジトリ』2011年から作成 (この図表、出典終わり) 図表3−16 語彙の原則的な書き換え基準と方針 @固有名詞はできるだけ書き換え、元の固有名詞は()で残す A漢語やカタカナ語の長い複合語・複合名詞は積極的に分割して書き換える B語彙を開くときに文法が使える場合は文法項目を用いて書き換える C助数詞は汎用性が高いと考えられるので、おおよそ残す D接頭辞、接尾辞は辞書で引きにくいので、分割して書き換える 出典:庵功雄、岩田一成、森篤嗣「「やさしい日本語」を用いた公文書の書き換え」、『一橋大学機関リポジトリ』2011年から作成 (この図表、出典終わり) 庵教授らはこの研究を通じて多くの公文書に目を通す中で、共通する問題点を指摘している。例えば、 ◇責任の所在を明らかにしないため、意図的に断定的表現を使っていない ◇丁寧な文を心がけた結果、情報が重複している ◇内容を過不足なく伝えることに集中するため伝達内容が長く、わかりにくくなり、内容自体が不明になっている などである。これらの表現は、文章が冗長になったり、正確さを欠いたりという結果を招いている。中には敢えて意図的にこうした表現を取り入れている場合も考えられるが、情報をわかりやすく伝えるためには改めるべきである。 (4)自治体の取組 @横浜市 横浜市には、2017年1月現在でおよそ 160ヵ国から8万5千人を超える外国人が住んでいる。市の「多言語広報指針」により、外国人に対しては6言語に加えて「やさしい日本語」ですべての行政情報を発信するという基本方針はあったものの、本格的な取組には至っていなかった。また、市在住・在勤の日本語を母語としない外国出身者へのインタビュー調査では、横浜市のホームページで使用している「やさしい日本語」に対して、「わかりやすい」「役に立つ」という意見が多く聞かれた。そのような時、庵教授らの研究に接し連携する中で、取組が大きく前進した。 市の「やさしい日本語」作成基準は 2013(平成25)年度に作成された。「やさしい日本語」で伝えるための「基準」は、2016(平成28)年6月に第3版を発行している【図表3−17】。2014(平成26)年度からは、分野ごとに、行政特有の用語の説明にも取り組み、 2016(平成28)年度が最終年度にあたる。現在、書き換え用語は 392語にのぼる。なお、書き換えの対象は、横浜市が発行するすべての文書である。 また、全庁に広めるための研修も継続的に実施している。責任者向けと担当職員向けに行い、文書作成だけでなく窓口対応の内容でも行っている。この研修の中では、外国人向けだけでなく高齢者や障害者にも有効なのではないかという意見が現場職員から出てきており、取組の庁内への広がりにもつながっている。 取組を庁内に広めるにあたっては、「やさしい日本語」に正解はないという姿勢を持っている。正解があると思われると、自身の部署に戻った後の広がりを狭めてしまう可能性があると考えたためである。技術的な部分もあるのは事実だが、技術や知識を身につけることよりも、「相手の立場に立つ」、「主語を市民にする」という根底の考え方を身につけることをより重視している。これは、「やさしい日本語」の取組を通じて、発信する情報の普通の日本語をわかりやすいものにするということでもある。 また、庵教授らが取り組んでいる書き換え支援システム(日本語レベルを判定し、難しい日本語を抽出して書き換え候補を提案してくれるシステム)の開発に協力している。 2017(平成 29)年度中に運用開始予定であり、庵教授らの研究グループが、他自治体職員も使用できるよう公開する計画である。 図表3−17 横浜市発行の作成基準と概要版 <画像:「作成基準」(表紙)> <画像:「概要版」> 「やさしい日本語」で伝える  わかりやすく 伝わりやすい日本語を目指して  第3版 2016年6月 横浜市市民局広報課 「やさしい日本語」で伝えるためのポイントこれだけ! 「やさしい日本語」は日本語から機械的に翻訳できません。やさしい日本語は日本語を単純に言い換えるだけでなく、外国人住民にわかりやすく伝えることを意識して文章の構成を大きくきく見直すことも必要になります。 下記は、その際のポイントです。 ・文字量を A4サイズ1枚(12ポイントで 1000字程度が.安)以内に収める ・伝えるメッセージを絞る(例:「どんなときに.続が必要なのか」というメッセージ) ・メッセージを伝える相手は外国人住民に特定する ・読み手目線で情報を整理し、優先順位の低い情報(例:根拠法令)は削除する ・ 例が多数あるときは、最頻出の例1つから3つ程度に限定する ・メッセージの結論や.番伝えたい部分は.章の最初に書 ・金.額や時間、場所などの重要な情報は枠で囲うなどの目立つ工夫をする ・手順や長い解説などは番号をつける・対象を複数に分けるときは箇条書をする ・文書の流れを明確にする ・読み手が本文と注釈とを区別できるよう、※などを活用して書き分ける ・イラストや表を活用する(ただし、イラストは国や地域によって解釈が異なる場合があります) 場所を示すときはできるだけ地図を載せる ・ 関連した情報(例:書類名とダウンロードリンク)は同じ所にまとめて載せる ・複雑な表現はポイントを整理して書き直す ・名詞や複合名詞は文で表す(例 :水分補給 ⇒水を飲む) ・抽象的な表現はせず、具体的に書 ・文は話し言葉調の平易な表現にする ・重複は避ける ・一文につき一つの意味にする ・文を短くする ・主語は明記し、読み読み手目線で統一する(例 :〜を発行する ⇒〜をもらう) ・「類義語」は平易な一語に統一する(例:問い合わせる、相談する ⇒聞く) ・擬音語・擬態語(オノマトペ)、世間一般であまり聞かないカタカナ語は使わない ・裏面の「言葉遣いの表記のルール」にない文.法も使わない(例:二重否定) ・国により制度が大きく異なるもの(教育制度)や日本独特の文化は説明を追加する ・外国人住民に向けた工夫をする(例 :本人確認資料「在留カード、運転免許証」) ・制度の説明をするときはメリットとデメリットを簡潔に伝える ・リンクを設定するときは漢字にルビが振ってあるページ先に限定してリンクを設定する 出典:横浜市ホームページ<http://www.city.yokohama.lg.jp/lang/ej/kijun.html> 2017年1月11日確認 (この図表、出典終わり) A宇都宮市 宇都宮市の外国人住民数は、2016(平成28)年1月末日現在で約 8,100人、その内の約6割が長期滞在の資格を持ち、地域で生活している。宇都宮市国際交流プラザは、こうした外国人住民の生活全般を支援するための部署であり、同一名称の公共施設である。 宇都宮市では、これまで英語を含む5言語による情報発信にも取り組んできたが、これ以上の多言語対応には限界があった。そこで 2014(平成26)年度を開始年度とする第二次宇都宮市国際化推進計画の中で「やさしい日本語」の普及を決め、国際交流プラザが主体となり、同年度から「やさしい日本語」を使った情報発信を開始した。具体的には、外国人住民のための生活情報紙について、多言語版に加え「やさしい日本語」版を作成するといった事業に取り組んでいる。 国際交流プラザとしては、この「やさしい日本語」を活用したわかりやすい情報発信の取組を、部署内にとどまらない庁内全体のものとしたい方針であったため、関係課との検討を踏まえ、全庁の部長級で構成される行政事務改善委員会に諮った。その結果、必要性の認識が共有されたとともに、高齢者や障害者にとっても有効ではないかとの意見があり、やさしい日本語の普及が全庁的な方針として決定された。そのうえで、下記の「外国人への情報提供ガイドライン」を作成した【図表3−18】。前述の弘前大学社会言語学研究室のホームページを主に参考にしたほか、庵教授を勉強会に招くなどしながら作成が進められた。 多言語翻訳がふさわしい情報の種類と「やさしい日本語」が適しているもの等も整理し、掲載している。このガイドラインは、市役所ホームページや市職員が日常的に利用するイントラネットに掲示しており、誰でも活用することができる。 全庁対象の職員研修は、「やさしい日本語」で文章を作成する内容と、文書だけでなく窓口での会話でも活用できるような内容に分けて実施している。例えば、教育関連窓口に外国人親子が来庁した場合に、親子それぞれの日本語理解度に合わせて、難しい言葉を分かりやすく言い換えていくことが想定される。そのため、希望する窓口対応が必要な職場の職員や、外国人住民と接する機会のある職員に対し、外部講師による研修を毎年2回実施している。 また、外国人住民向け生活情報誌「おーい!」(毎月発行)の「やさしい日本語」版に、行政情報を掲載する場合には、各主管課が「やさしい日本語」で原稿を作成することとしている。 図表3−18宇都宮市の外国人向け情報提供のガイドライン <画像:「宇都宮市の外国人向け情報提供のガイドライン」(表紙)> <画像:「やさしい日本語窓口対応」> <画像:「やさしい日本語で話す3つのポイント」> <画像:「やさしい日本語の作り方(基本ルール)」> 出典:宇都宮市ホームページ<http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/505/yasasii.pdf>2017年1月11日確認 (この図表、出典終わり) (5)参考にできること @対象者や対象分野の広がり 最初は外国人に対する日本語教育の一環として始まった「やさしい日本語」の有効性は、外国人にとどまらず、子ども、障害者や高齢者など広く当てはまる。本章1.で述べた減災のための「やさしい日本語」にも共通していえることで、2つの「やさしい日本語」を知った自治体職員や支援団体等の支援者がこのことを現場で感じ取り、応用していったと考えられる。さらに、庵教授らの研究の中では、ろう児も含めた言語的少数者を対象と考えるように深化している。 また、前述した減災のための「やさしい日本語」は、防災・減災分野における取組であったにもかかわらずそこに留まらない広がりをみせているが、庵教授らの取組は、さらに、広く平時の日常生活に関わる公文書の書き換えを対象としている点でより高い汎用性を目指している。 A分量制限 わかりやすい情報発信を行う上で、課題となるのが情報量の絞り込みである。このことの重要性は、減災のための「やさしい日本語」でも、庵教授らの取組の中でも指摘されている。 しかし、発信側は、どの情報も必要だ(と感じている)から載せているのであって、どのように絞っていくのか、その作業は難しい。 一つのヒントとして提示されたことであるが、庵教授らの研究によると、職員向け研修を通じて最も効果を発揮したのは、A4判 1枚に収まるように制約する方法であったという。 B発信側には、本当に伝えたいことと、相手にとって重要なことを考える力が問われる わかりやすい日本語で情報発信するよう努めることによって、その文書を作成する側は自らの日本語を見直すことになる。同様に、情報をわかりやすく伝えようと努めることには、その情報の内容を見直し、情報の核を明確にすることが求められる。 情報の重要度、優先度を判断するには、職員自身の業務内容への深い理解が必要である。それと同時に、相手の立場に立って本当に重要な情報は何かを考える力も問われる。 C「やさしい日本語」書き換えシステム 一橋大学庵教授と横浜市が協働して研究を進めている「やさしい日本語」への書き換えシステムは、2017(平成 29)年度中の運用開始を予定している。このシステムは各自治体が共有できるものとして公開される予定である。 コラム 担当者の気付き【わかりやすさの基本は誰でも同じ】 この調査研究のきっかけは、「やさしい日本語」を知ったことです。 「やさしい日本語」は、もとは外国人にもわかりやすい言葉で情報を伝えるためのもの。でも、その勘どころとしては、次のようなものがありました。 .最も伝えたい情報に絞り、それをはじめに書く .一文には一つの内容だけ .文を短くする .箇条書きや付番 これは、誰に対してでも共通するのではありませんか? 「やさしい日本語」は、外国人のためのものとして出発しましたが、多くの人がこの応用の可能性に気づき、多くの自治体や民間団体に広がっています。 (このコラム終わり) コラム ≪NHKによる「やさしい日本語ニュース NEWS WEB EASY」≫ NHKは、人にやさしい放送やサービスを目標に、2013年5月から「NEWS WEBEASY」を公開している【図表3−19】。これは、小・中学生や日本に住む外国人を対象にニュースをわかりやすい言葉で伝えるものである。 作成方針としては、旧日本語能力試験3から4級レベルの単語と文法表現を使用する。掲載記事の選定後、記者と日本語教師が共同でやさしい日本語原稿を作成し、さらに原稿作成部局がその確認を行っている。漢字には全部ふりがなを、 難しい言葉には辞書の説明をつけているほか、音声で聞くこともできる。また元となったニュースにもリンクさせており、読み比べることもできるようになっている。 図表3−19 NHK「NEWS WEBEASY」 <画像:ホームページ画面> 出典:NHKホームページ <http://www3.nhk.or.jp/news/easy/>2017年1月11日確認 (この図表、出典終わり) (このコラム終わり) コラム≪東京日本語ボランティア・ネットワーク 「わかる日本語」≫ 東京日本語ボランティア・ネットワークは、各地域で行われている日本語教室を担うボランティアのネットワークである。外国人への情報提供として日本語教室の紹介、「ボランティア日本語教室ガイド」の作成などをボランティアの手により行っている。 2010年9月に日本語の学習者と支援ボランティアの双方にアンケートを実施したところ、85%が「情報はわかりやすい日本語で書いてほしい」という回答が得られた。このことから、東京日本語ボランティア・ネットワークでは、わかりやすく簡素な情報を提供すべく、「わかる日本語研究会」を発足させ、書き換えの手引きを作成した【図表3−20】。行政や公共施設から出される日本語でのお知らせ・情報をわかりやすく書き換える手法を提供し、講座等の開催依頼に協力している。 図表3−20 「わかる日本語」作成のための手引き <画像:手引きから「リライトのポイント」のページ> 出典:東京日本語ボランティア・ネットワークホームページ <http://www.tnvn.jp/information/pdf/wakaru_nihongo_tebiki.pdf>2017年1月16日確認 (この図表、出典終わり) (このコラム終わり) 3.情報のユニバーサルデザイン (1)取組の背景 ユニバーサルデザインとは、文化や言語、国籍の違い、あるいは老若男女などの差異等を問わずに利用することができる施設・製品・情報のデザインや設計思想をいう。身の回りの製品や公共施設等まちづくりの分野では、ユニバーサルデザインの7原則【図表3−21】にもとづき、様々な実績を重ね広く普及してきている一方で、情報コミュニケーションの分野では、未だ明確な基準がない状況のままである。 情報コミュニケーションの分野におけるユニバーサルデザインの理念が、身体条件等に左右されることなく誰もが情報をやりとりする権利があるというものだとすれば、あらゆる方法を使ってすべての人に情報のやりとりを保障していくことが、その理念の実践だといえる。 情報発信においては、情報の受け手の誰もが最も受け取りやすく理解しやすい形で発信することが理想であり、その理想に近づけていくことが求められている。 図表3−21 ユニバーサルデザインの 7原則 原則1:公平な利用 どのようなグループに属する利用者にとっても有益であり、購入可能であるようにデザインする。 原則2:利用における柔軟性 幅広い人たちの好みや能力に有効であるようデザインする。 原則3:単純で直感的な利用 理解が容易であり、利用者の経験や、知識、言語力、集中の程度などに依存しないようデザインする。 原則4:わかりやすい情報周囲の状況あるいは利用者の感覚能力に関係なく利用者に必要な情報が効果的に伝わるようデザインする。 原則5:間違いに対する寛大さ 危険な状態や予期あるいは意図しない操作による不都合な結果は、最小限におさえるようデザインする。 原則6:身体的負担は少なく 能率的で快適であり、そして疲れないようにデザインする。 原則7:接近や利用に際する大きさと広さ 利用者の体の大きさや、姿勢、移動能力にかかわらず、近寄ったり、手が届いたり、手作業したりすることが出来る適切な大きさと広さを提供する。 出典:独立行政法人国立特殊教育総合研究所ホームページ <http://www.nise.go.jp/research/kogaku/hiro/uni_design/uni_design.html> 2017年1月17日確認 (この図表、出典終わり) (2)一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会の取組 一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(以下、UCDA)は、企業・団体が生活者に提供する情報コミュニケーションの問題点を発見し「見やすく、わかりやすく、伝わりやすく」改善すること、情報コミュニケーションにおける「わかりやすさの基準」を確立すること等をミッションとしている。基準作成等の研究や、わかりやすい文書への認証制度、人材育成のための資格認定制度等の活動を行っている。 従来あいまいであったわかりやすさの基準を作るために、UCDAではわかりにくさの要因を特定し、定量化により測定可能なかたちにしている。これが以下に示すDC9ヒューリスティック評価法である【図表3−22】。「なんとなく読みにくい」、「わかりにくい」と感じる帳票類がもつ問題点を発見するツール、測る尺度として、評価手法を開発した。各項目について問題点を4段階で可視化することにより改善に結びつけている。 図表3−22 DC9ヒューリスティック評価法(ver.3) @情報量:情報量として適正か、許容量を超えていないか Aタスク:ユーザーに要求される行動がわかりやすいか Bテキスト(文意):文意のハードルがないか Cレイアウト:認知の導線が自然に設計されているか Dタイポグラフィ(文字):文字の読みやすさ、可読性への配慮があるか E色彩設計:多様な色覚のユーザーへの配慮があるか Fマーク・図表:既知性に基づく図形化がされているか G記入欄:記入する際の書き込みやすさが保たれているか H使用上の問題:情報の利用上の阻害要因がないか 出典:一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会ホームページ <https://ucda.jp/solutions/dc9/koumoku.html>2017年1月16日確認 (この図表、出典終わり) また、この基準等を活かし、第三者機関として文書の「わかりやすさ」の認証を行っている。この UCDA認証制度は、デザインの「見やすさ」と、ユーザーの理解度まで含めて検証した「伝わりやすさ」の二つのレベルを認証するものである。前者は UCDA認定評価員と UCDA理事による審査会で、後者は生活者を加えた UCDA認証委員会により審査される。ユーザーにとって見やすく配慮された対象物には「見やすいデザイン」マークを、ユーザーにおける情報の利用品質が認められた対象物には「伝わるデザイン」マークを、それぞれ発行し、認証マークは対象物に表示することができる【図表3-23】。 この認証を受けた一例に、東京都発行の『東京防災』(2015(平成27)年9月)(注10)がある。 また、全国の市町村でも、納税通知書や健診のお知らせ、住民票等申請書類等で認証を受けた例がある。 注10 『東京防災』作成に際しては、ユニバーサルデザインに関する認証取得が仕様に定められていた。その内容は、UCDAおよび特定非営利活動法人カラーコミュニケーションデザイン機構の両機関の認証であった。 (注終わり) さらにユニバーサルコミュニケーションデザインの考え方を広めるため、ホームページやセミナー、イベント、メディアを通じての情報発信を行っている。そのひとつが UCDAアワードである【図表3−24】。UCDAアワードは、企業(団体)・行政が生活者に発信するさまざまな情報媒体を、産業・学術・生活者の知見により開発した尺度を使用して「第三者」が客観的に評価し、優れたコミュニケーションデザインを表彰するものである。2016年は自治体分野では「介護保険料決定通知一式部門」がテーマとなり、「アワード」には福岡市、「情報のわかりやすさ賞」には高松市が、それぞれ選ばれた。 図表3−23 UCDA認証のレベルと認証マーク <画像:認証マーク> 出典:一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会ホームページ<https://ucda.jp/ninsho_mokuteki/ninsyo_level.html> 2017年2月24日確認 (この図表、出典終わり) 図表3−24 UCDAアワード等受賞結果 <2014年から2016年の、テーマ、賞の種類、受賞自治体の表> 出典:一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会ホームページから作成<https://ucda.jp/awards/>2017年2月24日確認 (この図表、出典終わり) (3)自治体の取組 @香川県高松市 高松市では文書作成にあたって、マニュアルに基づき文字の種類や大きさ、行間、色についてもユニバーサルデザインの考え方を反映している。 これらの取組の結果、前述の UCDAアワード(2015年)において、健康福祉総務課の臨時福祉給付金の申請書【図表3−25】が、「情報のわかりやすさ賞」を受賞した。受賞においては、記入する順番が見やすい、色遣いがわかりやすいといった点が評価された。 この申請書は、対象者が多く、添付書類も必要なので、申請に不備があると事務処理に負担がかかると予測されたため、わかりやすい書類とするための検討が行われた。書式の作成に際しては、この通知を受け取る人には(独居)高齢者が多いことを想定し、その人たちが一人でも申請しやすいようにすべきと考えた。そして、職員の家族等にも協力を得て実際に記入してもらい、意見を取り入れるなどの工夫も行ったという。この結果、申請率は全国でも上位となった。 一方、市民課では、職員提案による業務改善の一環として、窓口業務書類の見直しに取り組んだ。住民票の写し交付申請書、印鑑登録証明交付申請書、戸籍等交付申請書等、以前はそれぞれA5判サイズで文字も小さくデザインもバラバラであったため、記入漏れや見落としが頻発していた。そこで、若手職員中心のプロジェクトチームで検討して各書式をまとめた統一様式のレイアウト案を作成し、ユニバーサルデザインを得意とする印刷会社の意見も取り入れながら新たな申請書を作成した。これは、201 3年に UCDA認証を取得している【図表3−26、図表3−27】。この変更により、書きにくさに起因する質問が減ったという効果があった。 図表3−25高松市の臨時福祉給付金申請書(現物はA3判) <画像:帳票> (この図表終わり) 図表3−26 高松市の住民票の写し等交付請求書(旧) <画像:帳票> (この図表終わり) 図表3−27 高松市の住民票の写し等交付請求書・印鑑登録証明書交付申請書(新) <画像:帳票> (この図表終わり) 画像提供:3点とも高松市 A栃木県宇都宮市 宇都宮市は、保健福祉総務課が中心となり、「ユニバーサルデザイン文書マニュアル」を作成している【図表3−28】。市では以前から、公文書作成にあたってのマニュアル「心配りのある文書づくり」があり、全職員がその考え方の研修を受けてきていた。それをさらに、ユニバーサルデザインの観点から補完したものとなっている。 本マニュアルは、「第2次宇都宮市やさしさをはぐくむ福祉のまちづくり推進計画」におけるリーディングプロジェクトの一つ、「こころのユニバーサルデザイン推進運動」の一環として作成した。推進計画策定時の「人づくり検討部会」が母体となり、中でもその部会の作業班が中心となってマニュアル案作成に取り組んだものである。福祉のまちづくりの観点から作成しておりすべての人にやさしいデザインを目指すものであるため、外国人対応等、必要に応じて国際交流プラザ等の参加も得て検討した。 具体的な内容は、配慮した文字の使い方(大きさや字体など)から始まり、配慮した表現方法(用語、文章、図表など)、色使い、文書以外の情報媒体などにまで及んでいる。また、自己診断用のチェックシートもあり、配慮された内容となっているか、職員一人ひとりが確認できるように工夫されている。 この「ユニバーサルデザイン文書マニュアル」は、前出の「外国人への情報提供ガイドライン」同様、宇都宮市ホームページと職員が日常的に利用するイントラネットに掲示し、全庁研修と併せて周知している。 こうした取組のひとつの成果として、健康増進課が新たにデザインを見直し発行した後期高齢者健康診査受診ハガキは、UCDAアワード(2014年)公的医療保険分野において、「情報の伝わりやすさ賞」を受賞した。受診券を兼ねているためハガキサイズで文字は小さいものの、コンパクトで流れがわかりやすくなっている。特に、ハガキの表面に、市からの健康診査に関するお知らせである旨や、無料で受診できる旨を表記した点が評価された。 図表3−28 宇都宮市のユニバーサルデザイン文書マニュアル抜粋 <画像:〈表紙〉> <画像:〈文書・印刷物チェックシート〉> 出典:宇都宮市ホームページ <http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/shisei/machizukuri/fukushi/index.html> 2017年1月11日確認 (この図表、出典終わり) B大阪府堺市 堺市では平成 27年度市民税・府民税納税通知書で UCDA認証を取得した。 毎年の税制改正、公的年金からの特別徴収制度の開始等、特に高齢者にとって市民税・府民税の制度が大変複雑なものとなっていた。さらに、市民の方からも「納税通知書が見にくい」、「文字が小さい」といった意見もあったことから、多くの職員が改善の必要性を感じていた。そこで、先行して UCDA認証を取得していた高松市の取組を視察し、ユニバーサルデザイン化に取り組んだ。 2015(平成27)年6月に納税通知書を発送した後、1か月間の問い合わせ件数が、前年より約2割(約 800件)減少した。また、納税通知書をフルカラーにした効果で、電話での応対時に「○色のところを見てください。」と説明できて市民にも理解してもらいやすくなり、職員の応対の負担が軽減された。さらに、今まで納税通知書をよく見ていなかったという市民が「見やすくなったので質問したくなった。」といって電話してきた例もあり、納税通知書に関心をもってもらったという喜ばしい効果もあったという。 (4)参考にできること @わかりやすさの基準はつくることができる UCDAは、情報のわかりにくさに着目することで、定量的なわかりやすさの基準づくりを試みている。定性的にとらえがちな“わかりやすさ”というものを定量化することで、客観的な管理を可能にしている。 測定には UCDAが開発した独自のノウハウがあるため、誰もがすぐに取り入れることはできないが、情報伝達を阻害する要素を取り除くことでわかりやすさを実現しようとする基本的な考え方は取り入れることができる。「わかる」・「わからない」には個人差が伴うため、個々人の感性の問題として捉えられがちである。しかし、 UCDAの取組のように、文書をまずは定量的に測定し、わかりやすさの水準を管理するという手法は、それぞれの組織の文書を分析・評価する際に参考になる。 A第三者評価を利用した水準の担保 文書の改善の取組に客観的な視点を取り入れるために、外部の評価を利用することは有益である。そこで UCDAが定める伝わりやすさや見やすさの評価基準による UCDA認証を得ることにより、文書のわかりやすさについて一定水準を担保することが可能になる。 もう一つ、UCDAアワードという方法がある。これは毎年テーマと評価対象物が異なるため、どのような文書でも対象になる訳ではないが、全国の中で評価されれば、当該文書が第三者からの好評価を獲得したことになる。 第三者の客観的な基準による評価を得ることにより、取組の方向性、内容、効果を確認することができることから、積極的に取り入れていく価値がある。 Bデザインの見直しによりわかりやすさを改善できる 行政が発信する情報は、専門用語等の点で、わかりやすくすることに一定の難しさがある。 しかし、配色やレイアウトなどデザインの見直しによっても改善が可能であることは、高松市や堺市の例が示している。堺市の市民税・府民税納税通知書の例が示すように、わかりやすいデザインへの変更により市民が疑問を感じることが減少し、その結果問い合わせも減少するなど、業務効率の向上にも寄与している。 デザインがわかりやすさを高める効果は、問い合わせ件数の減少や業務コストの低減など、測定によって証明されている。デザインの工夫は、文法の見直しや語彙の言い換えなど文章の改善とは違った面から、わかりやすさを向上させることができる。 厳密にいえばデザインは文章の中身にまで踏み込むことはできないが、盛り込むべき情報を整理し情報量を減らす行程は、内容にも影響する。したがって、文章の見直しとデザインの見直しは相互補完的な関係にあるともいえる。このため、デザインに関しては丁寧な検討による効果が期待でき、デザイナーなど外部の専門家の力を借りることも積極的に検討すべきである。 コラム 担当者の気付き【情報の量を減らすことが大事!】 この調査では、情報をわかりやすくするために「何をすると伝わるようになるのか」のヒントになる話を多く集めました。そして、ほとんどの話に共通していたのが、「情報量を減らすこと」でした。文章に着目した取組でも、デザインの観点からも、情報の受け手から見ても、同じことが指摘されました。そして自治体アンケートからも、職員はそのことの有効性をすでに理解していることがわかります。 それでも、実際に文章を削るのは勇気がいります。読み手にはいろいろな人がいる、と思えばさらに、すべての人のあらゆるケースに対応できていなくてはならないと感じてしまいます。 しかし、100%に応えようとしたその結果、ほとんどの人が理解できないようでは逆効果です。問い合わせも増えてしまいます。 「文章の削減」「情報の整理」に努めてきた職員のみなさん、その方法は間違っていないのです。自信を持って削りましょう。 (このコラム終わり) コラム≪全庁的な推進のために担当室を設置(高松市の取組)≫ 高松市は、全庁をあげてユニバーサルデザインに取り組んでいるが、その中核を担っているのが市民政策局政策課内に設置されたユニバーサルデザイン推進室である。 室長は政策課長が兼務するほか、政策課の中の数名が兼務するかたちをとっている。兼務ではあるが、ユニバーサルデザインに関する専門部署が設置されたことで、市としての方針が明確になり、各課も取り組みやすくなっているといえる。 2012(平成24)年4月の推進室設置後、 2013(平成 25)年5月にユニバーサルデザイン基本指針、 2014(平成26)年3月に推進マニュアルを策定した。これに基づき各課での取組がなされるが、各課からのユニバーサルデザインに関する相談は推進室に寄せられる。そのため、情報の集約や取組の統一感が図られることが可能となる。 庁内の推進体制として、市長、副市長、局長等で構成される推進会議を年1回開催している。会議では各局のユニバーサルデザインの取組が一斉に報告・公表され、取組の促進を図っている。各課においては全部署で、課長補佐級職員又は係長職員からなるユニバーサルデザイン推進員を配置している。このユニバーサルデザイン推進員が研修などをもとに各課で取組を進めている。この仕組みにより、各課でユニバーサルデザインについての意識が根付きやすくなり、トップダウンだけでなく、ボトムアップでの取組が進みやすくなっている。 (コラム終わり) 4.多くの取組に共通する要素 第3章では、減災のための「やさしい日本語」と多言語対応の一つとしての「やさしい日本語」、及び情報のユニバーサルデザインについて見てきた。それぞれ生まれた背景や個別の基準は異なるものの、共通点も見られた。主なものを整理すると、次のようになる。 (1)情報の重要度、優先度を判断する 最も重要なこと、優先的に伝えるべきことを選び、文書等の情報を作成していくことが必要である。この判断に際しては、情報発信側にとって重要であること(伝えたいこと)だけでなく、情報の受け手にとっての重要性(知りたいこと)も考えるべきである。優先順位をつけることは、次項の情報量の削減のための判断材料にもなる。 (2)情報量を絞る 情報量の多さは、情報の受け手の負担となるだけでなく、限りある紙面に見やすい大きさの文字で情報を掲載するためにも、情報量を最小限に抑えることが必要である。 そのためには、重要度、優先度の判断により必要性の低い情報を削るほか、注釈や敬語の見直し、内容重複の解消、形式的な記入欄の削除などを検討する。このようにして全体の分量を減らすことにより、最も重要なことを伝わりやすくする。 (3)文を単純にする 一つの文は短い方が伝わりやすい。一文では一つのことのみを述べるようにすると、直ぐに理解できる。二重否定や排他文などは文章が複雑化するため、二重否定は肯定文に、排他文は非排他文に変換すると、文は単純になる。用語や文字の使い方においても、修飾が続く複合語や漢語・カタカナ語の多用を避けるなどの単純化を図る。 (4)情報を受け取る際の視線や思考の流れを考慮し、行動すべきことを明示する 情報を見る際の視線の動きや思考の流れに沿った表記法やデザインは、理解しやすさにつながる。関連情報をまとめて記載する、具体例を挙げる、番号を付けるなどである。 さらに、その情報を受け取った後の行動も想定する。行動を促す場合は、その内容をはっきり示すことが必要である。記入を求める書類の場合は記載箇所の明示、通知文の場合は封書を確実に開封してもらうための工夫等も重要である。 (5)情報の受け手を考える 情報の受け手の立場に立つことが、全ての基本である。相手を想定し、その相手にとり必要な情報、理解しやすい表現や伝わりやすい方法を考えることから、わかりやすさの基準が作られる。この基準は、現場で見直し・改善が行われ続けていることも、特徴である。 第4章わかりやすい情報発信の課題 1. 職員の取組意欲の向上 2. 読み手の立場に立った文書の作成 3. 取組を組織内で展開するための体制の構築 これまで、第2章では、わかりやすい情報発信の取り組み状況や住民の評価などから、自治体がわかりやすい情報発信に取り組む際の問題点を6項目に整理した。第3章では、先行研究や先進的な取組事例から問題点を解決するためのヒントを探った。これらの点を踏まえ、多摩・島しょ地域の自治体がわかりやすい情報発信に取り組むにあたっての課題を3つに整理する。 1.職員の取組意欲の向上 前述のとおり、自治体がわかりやすい情報発信に取り組むにあたっては、行政分野の違いによる部署間の取り組みにくさや職員間の取組意識に差があるという問題が挙げられた。 わかりやすい情報発信に取り組むことの必要性は、職員にも認識されている。自治体の責務としての認識、あるいは、問い合わせや苦情などの外的要因をきっかけとして必要性を認識した場合もあろう。しかし、その必要性を感じているにもかかわらず、積極的に取り組めない状況も生じている。その理由として、「やり方がわからない」「作業量が増える」「情報不備等のリスクが生じる」「他の業務に比べ緊急性が低い」などが挙げられる。 これは、文書の見直し作業に伴う作業時間の増加や、文書の書き換えによる新たな情報不備の発生リスクなどを考慮してしまい、躊躇する心理が働くことによるものと考えられる。 まして、住民からの問い合わせやクレーム等の外的要因もない場合などは、取組の緊急性も低く感じられ、自ら進んで取り組む必要性を感じることは難しい面もある。その結果、わかりやすい情報発信の取組に消極的になったり、優先順位の低い課題になったりする。取り組みにくい分野においては、なおさらである。 また、そもそもわかりやすい情報発信の取組の必要性を認識していない職員もいる。その理由には、「問い合わせや苦情などを受けたことがない」「現状で問題ない」などが挙げられている。 このような状況の中、わかりやすい情報発信に取り組むためには、職員の自発的な取組意欲をどのように高めるのかが重要となる。 取組意欲を高めるには、動機づけが必要である。取組の必要性や重要性、業務における効果などに気付いてもらうこと、わかりやすい情報発信の方法を知ることは、動機につながる。また、担当者個人の取組に留めず、同僚、上司、部下など、周囲を巻き込むことは、取組を持続させることにつながる。さらに、取組の効果を測定することや評価を得ることで、継続的な取組や改善につなげていくことができる。 例えば高松市の臨時特例給付金の事例(p.81から82)のように、わかりやすい申請書の作成が記載漏れや添付書類漏れを減らし、その結果窓口での業務量の減少につながる。このような効果を実感し共有することで、全庁的な取組が進むきっかけとなる。 このように、動機付けや周囲の理解、取組効果の実感などにより、職員の意欲を高めることがわかりやすい情報発信の取組に向けた課題である。 図表4−1問題点と課題の整理 <問題点> (1)行政分野の違いによる取り組みにくさの差 (2)職員の取組意欲を高めることの難しさ <課題> 職員の取組意欲の向上 ・動機付け ・取組の共感 ・効果の測定、評価 (この図表終わり) コラム 担当者の気付き【電話が鳴らなければ仕事ははかどる】 自治体職員の皆様は、残業中や休日出勤の際、仕事がはかどると感じたことがおありかと思います。はかどる主な理由は、電話が少なく、集中できるからではないでしょうか。問い合わせ等で受ける電話が少ないこと、提出書類の不備等でかけなければいけない電話が少ないことは、業務の効率化に直結します。実際、先進自治体では、問い合わせ件数や業務コストの減少が確認されています。 近頃、働き方改革として、残業の削減が求められていますが、仕事は減らず、人は増えないという声が多くあります。わかりやすい情報発信の取組は、業務時間短縮のための有効な方策です。広報誌やホームページの所管課だけでなく、全部署において 取り組み、問い合わせを減らし、仕事を効率的に進め、早く帰宅しましょう。 (コラム終わり) 2.読み手の立場に立った文書の作成 わかりやすい文書作成にあたっては、行政情報が持つ表現の難しさや、受け手の違いによるわかりやすさの評価の差の問題があった。 行政情報の中には、制度が複雑で内容が難しいもの、専門用語が多いものなど、その性質上、理解が困難な情報が多くあり、このような情報をわかりやすく表現することは難しい面もある。さらに、受け手となる住民は、子ども、高齢者、障害者、外国人など、対象が様々であり、すべての人に向けてわかりやすく表現することは難しい。例えば、子どもや知的障害者、外国人向けに平仮名を多くし、すべての漢字にふりがなを振ると、一般の住民には読みづらいものになる。また、高齢者向けに文字を大きくすると書類の枚数が多くなり、外国人向けに多言語化すると文書の数も増える。費用の面からも対応に限度がある。 このような状況の中ではあるが、わかりやすい情報発信に取り組むためには、誰に向けて文書を作成するのか対象者を想定し、読み手の立場に立つことが重要である。 行政から発信する情報の対象は広く一般的であるために具体的な想定が難しいことも多い。しかし、対象者がすべて均一なわけではない。受け手の中でもより情報入手が困難だと考えられる人を想定することが有効である。その際には、読み手がどのような状況で、どのような情報を必要としているかを考えながら文書を作成することも必要である。また、行政の情報のわかりにくさを改善するための方策を探り、基準や方法を共有していくことも必要になる。 このように、具体的な読み手の想定とわかりやすい文書作成の基準などによる読み手の立場に立った文書作成が、わかりやすい情報発信の取組に向けた課題である。 図表4−2問題点と課題の整理 <問題点> (3)受け手の違いによるわかりやすさの評価の差 (4)行政情報の表現方法の難しさ <課題> 読み手の立場に立った 文書の作成 ・具体的な読み手の想定 ・一定の基準やルール ・読み手の立場での見直し (この図表終わり) 3.取組を組織内で展開するための体制の構築 わかりやすい情報発信に努めることを、職員個人や一部の部署の課題意識や取組に留めず、自治体全体で取り組むにあたっては、わかりやすい文書作成のための統一的な基準作成の難しさの問題や、行政内部の体制や人材の確保の問題が挙げられる。 頻度の差はあるものの市町村ではほとんどの部署が住民への情報発信を行う。全庁的な方針や統一的な基準などがあると、各部署ではそれに沿って積極的に取り組むことができ、庁内全体での取組が広がりやすいと考えられる。しかし、どの部署でも関連しうる事柄であるがゆえに、中心となって取り組む部署が決まらず、全庁的な方針が策定できないという現状がみられる。また、部署によって発信する内容や対象が異なるため、基準の作成にあたり技術的な調整が難しいという点もある。 このような状況の中、わかりやすい情報発信を自治体内で拡げていくためには、どの部署が中心となり、どのような取組方針や基準を掲げ、どのように展開していくのか、庁内での取組体制を構築していくことが重要である。この際、庁内体制には様々な形がありうる。専門部署の設置の意義は大きいが、それがなければ取り組めないわけではない。自治体の状況にあった体制の構築を進めていくことが求められる。 また、取組を展開するには、一定の方針や基準が必要である。方針や基準は、全庁統一的なものもあれば、各部署独自のもの、複数の部署で共通したものもある。組織の状況や段階に応じて、方針や基準を作成することが求められる。 さらに、わかりやすい情報発信に対する組織風土を醸成していくことも重要である。ひとりでも多くの職員が必要性を理解することが必要であり、部署内や庁内での啓発活動は重要な役割を果たす。必ずしも専門担当部署でなくとも、問題意識を持った職員や部署が発信を始め、庁内に取組を拡げることもできる。 このように、わかりやすい情報発信に取り組むためには、方針や基準の作成や取組の普及、組織的な展開など、取組体制の構築が課題である。 図表4−3 問題点と課題の整理 <問題点> (5)統一的な基準づくりの難しさ (6)中心となって取り組む体制や人材の問題 <課題> 取組体制の構築 ・方針や基準の作成 ・部署内及び庁内での啓発 ・継続した取組の展開 (この図表終わり) 第5章わかりやすい情報発信の取組の提案 1. わかりやすい情報発信の取組 2. 有効性の検証 3. 本調査研究のまとめ 第4章で整理した3つの課題を踏まえ、それぞれの課題に対応した取組手法を以下に提案する。 1.わかりやすい情報発信の取組 (1)職員の取組意欲を高めるための方策 わかりやすい情報発信に取り組むためには、職員一人ひとりが取組の必要性を認識し、自主的に取り組んでいくことが大切であり、そのためには取組の動機が必要である。問題意識を持ち、取組の必要性や重要性を認識することは、取組の動機につながる。また、取組が評価されることや取組の効果を実感することは、取組意欲を高め、継続させることにつながる。 そのため、職員の取組意欲を高める方策として、次の5つの取組を提案する。 @動機付けのための職員研修を実施する ◆より多くの職員の取組意欲を高めるための職員研修 ◇外部の専門家による講演 わかりやすい情報発信の必要性や効果を伝えることができる専門家 ◇先進的な取組を行っている自治体職員の講演 他地域の取組事例や成功事例を学ぶことで、取組の可能性や効果を実感できる ◇部署ごとの研修から市町村間の共同の取組まで、様々な研修の方法 研修の単位や方法は、業務や対象、課題の特徴や共通性などから、柔軟に考える ◆具体的な技術を学ぶ職員研修 ◇具体的な方法を知ることで、すぐに取り組めるようにする ◇講義形式のほか、その場の具体的な実践で、業務の中での取組をイメージできる A周囲の共感を得るための勉強会を実施する ◆周囲の協力や理解を得るための勉強会 ◇取組の効果や課題の共有 効果や課題などの共有により、共感を得るとともに、仲間を増やす ◇過去の発信文書の見直し 過去に部署で発信した文書をみんなで見て、わかりやすいかどうかを考えることも、取り組むきっかけにつながる ◇朝礼や回覧など、既存の仕組みを活用 勉強会が開催できなくても、朝礼や回覧などで取組の効果などを伝える B部署内や庁内で取組を共有する ◆取組状況を部署内や庁内で共有するための場や仕組みの構築 ◇部署会議や全庁会議等、既存の会議等の活用 ◇各部署の取組内容や取組状況の回覧、掲示 C取組の効果を測定する ◆取組の成果や効果を実感するための継続的な測定 ◇実数として比較できるデータを継続的に記録 問い合わせ件数や申請書類の不備件数、イベント等の申込数など、実数として比較できるデータを継続的に記録し、変化を測定する D取組の評価を得る ◆定期的な住民評価の把握 ◇住民への調査による評価の把握 アンケートやグループインタビュー、モニタリングなどにより、わかりやすさ・伝わりやすさの評価を得る ◆第三者からの評価の把握 ◇UCDAアワードへの参加等による第三者評価の把握 第三者からの評価を得ることで、取組意欲も高まる コラム 担当者の気付き 【先進自治体のマニュアルへの依存はだめ?】 本報告書で紹介した先進自治体の多くは、ホームページでマニュアル等を公開しています。アンケート結果からもわかるように、各自治体が情報発信で抱える課題には共通点も多くあります。マニュアル作成にあたっては、オリジナルに拘泥せず、積極的に先進自治体を参考にすることをお勧めします。 しかしながら、言葉は時代とともに変化しており、「これで完璧」というものはありません。たゆみない改善活動が求められます。したがって、スタート時点では先行者に学びながらも、いずれは自分たちの成果もオープンにし、自治体相互の学びあいに貢献してはいかがでしょうか。 (このコラム終わり) コラム≪職員研修の例≫ ◎青森県弘前市 ・テーマ 外部講師による、伝わる情報発信の研修 ・担当部署 経営戦略部広聴広報課 ・内容 ノウハウ等の講義の後、広報文や通知文等の書き換え作業 ・対象 全部署の広報担当者(各部署1名は参加必須) ・取組効果 広報分野や観光分野を中心に取組が広がっている ◎神奈川県横浜市 ・テーマ 「やさしい日本語」で伝えるための実務研修 ・担当部署 市民局広報相談サービス部広報課 ・内容 「やさしい日本語」で発信する必要性や、発信する際のポイント等の講義の後、同市の行政文書を題材に外国人ボランティアと共に書 き換えを実践。情報の取捨選択を行い簡潔にまとめることや、文章表現の工夫を行う作業などで、「やさしい日本語」の使い方や、相 手の立場に立った情報発信の仕方を学んでいる ・対象 全部署、責任者向け研修と担当者向け研修 ・取組効果 具体的な情報発信の仕方を学ぶことができ、組織の中で「やさしい日本語」に対する理解が進み始めている ◎栃木県宇都宮市 ・テーマ 「やさしい日本語」の実践研修(文書作成・窓口対応) ・担当部署 市民まちづくり部国際交流プラザ ・対象 全部署の窓口担当者や事務担当者 業務において必要性を感じる意欲の高い人や教育委員会職員が多い ・取組効果 実践的な取組手法を学ぶことにより、業務の中で実践する部署が広まりつつある ◎香川県高松市 ・テーマ 「文書のユニバーサルデザイン」に関する研修 ・担当部署 市民政策局政策課ユニバーサルデザイン推進室 ・内容 ユニバーサルデザインの考え方やノウハウの共有 ・頻度 年1回 ・対象 全部署 ・取組効果 各部署でユニバーサルデザイン化に向けた取組が広がっている ◎大阪府堺市 ・テーマ やさしい日本語の有効性と意義及び使い方の実践に関する研修 ・担当部署 文化観光局国際部国際課 ・内容 講義形式と実践形式で行う。実践では、実際に日本語があまりわからない外国人を対象に文書を書いたり、窓口業務における説明をしたりして、どの程度伝わるか、どうすればもっと伝わるか等を話し合う ・頻度 年1回 ・対象 全職員のうち希望者(50から60名) ・取組効果 全庁的に「やさしい日本語」の存在やその重要性が認識され、各部署において積極的に導入し始めている (コラム終わり) (2)読み手の立場に立った文書を作成するための方策 わかりやすい文書を作成するには、書き手の伝えたいことを一方的に表現するのではなく、読み手が理解できる表現を心がけることが大切である。理解しやすいかどうかを判断するためには、具体的な読み手を想定することが必要となる。また、一定の基準や方針にそった文書を作成することで、文書のばらつきを抑えることができる。 読み手の立場に立った文書を作成するための方策として、次の3つの取組を提案する。 @具体的な読み手を想定して文書を作成する ◆情報を確実に伝えたい人を具体的に考える ◇より情報を届ける必要がある人を想定 「高齢者」ではなく「一人暮らしの高齢者」、「子育て中の親」ではなく「初めて 子どもを育てる父親・母親」など、より情報を届ける必要がある人を具体的に想定する ◇情報を受け取ることが困難な人を想定 読み手を絞るのが困難な場合は、情報を受け取ることが困難な人を想定する ◇家族や知り合いを想定 ◆想定した読み手がどのような情報を必要としているのかを考える ◇読み手がどんな状況でこの書類を読むかを想像する ◇読み手の目線で文書を書く ◇読み手が文書を読み、どう考え、どう行動するかを考える A一定の基準や方針に沿って文書を作成する ◆情報の重要度(優先度)を考え、記載する情報を絞り込む ◇読み手にとって必要性の低い情報を削る ◇具体的に、文書の量を制限する ◇重要な(優先度の高い)情報を初めに書く ◇読み手が知りたい情報を初めに書く ◇読み手が知っていることでも、その重要性に気づかせる ◆端的に伝える ◇一文をなるべく短くする ◇構造を単純にする(一文に一情報) ◇二重否定をしない ◇尊敬語・謙譲語などを使わない ◇情報の重なりをなくす ◆文章の作り方やデザインなど表現方法を見直す ◇箇条書きなどを活用する ◇付番により、思考や行動の流れを示す ◇具体的に書く ◆難しい表現を避ける ◇行政用語や専門用語はなるべく使わずに、平易な言葉に書き換える ◇行政用語等を使わざるを得ないときは、可能な限りその説明を添える ◇難しい表現を平易な表現に置き換える B読み手の立場に立って文書を見直す ◆読み手にとってわかりやすいかを確認する ◇読み手の立場で文書を読み返す ◇当事者や対象者に近い人に文書を見てもらう ◇文書を読んで実際に行動してみる コラム 担当者の気付き【目の前にいる人には…】 「やさしい日本語」を活用して情報をわかりやすく伝えようと先進的に取り組んでいる自治体でも、担当者は、庁内で理解を得ることに苦労していました。「なぜ外国人のためだけに…?」「『やさしい日本語』は難しい」という声も少なくないようです。「でも、」と担当者は続けました。「目の前にいる人に自分の話が通じていないと感じたら、何とかして話を伝えようと工夫するでしょう。それと同じことです」と。 市町村の窓口では、税や福祉などの専門用語を平易な言葉に言い換えながら、住民の方にご理解をいただけるような説明に努めることがよくあります。 通知文を送る場合、相手の姿が目に見えないので、つい送り放しになりがちです。 そこは想像力を働かせ、「目の前にいない人」は、この書き方で理解していただけるかな?と考える癖をつけると良いかもしれません。 (このコラム終わり) コラム≪具体的な基準の例≫ 文書作成の基準は、主に情報量、語彙、デザインなどの項目について定められている場合が多いが、その具体的な基準の内容については、対象や目的によって異なる。発信する情報の特性や自治体の方針などに応じて取捨選択が可能である。 ◎情報量(文書の量や一文の長さ) ・文書量はA4サイズ1枚(1 2ポイントで 1,000字程度)以内(横浜市「「やさしい日本語」による公文書書き換えの基準」) ・一文の長さは 24拍程度(1拍は平仮名1文字程度)(「減災のための『やさしい日本語』」) ・漢字の量は一文に3から4字程度(「減災のための『やさしい日本語』」) ・一つの文につき一つの内容(横浜市「「やさしい日本語」による公文書書き換えの基準」) ・一行は 45文字程度を推奨(「UCDA認証基準」) ◎語彙 ・旧日本語能力試験認定基準3級・4級を基準(「減災のための『やさしい日本語』」) ・日本語能力試験認定の目安N4(旧3級)程度、 1,500語程度を基準(横浜市「「やさしい日本語」による公文書書き換えの基準」) ・擬音語、擬態語、外来語は使わない(「減災のための『やさしい日本語』」、宇都宮市「ユニバーサルデザイン文書マニュアル」など、複数に共通) ◎デザイン(フォントや行間など) ・文字の大きさは、原則は 12ポイント、読みやすくするには 14ポイント以上(宇都宮市や高松市のユニバーサルデザイン文書の基準) ・字体は「みんなの文字」(注11)フォントを推奨。文字の大きさが6ポイント以上8ポイント以下の場合は、「みんなの文字」フォントを使用(「UCDA認証基準」) ・行間は 1.5行を推奨(「UCDA認証基準」) 注11 UCDAと(株)イワタ、(株)電通が共同で開発した書体。様々な方に読みやすいことを科学的に検証し、完成させた。小さなポイントでも見やすく、自治体や民間企業において使用事例がある。登録することで一部無料で使用できる(みんなの文字WEBフォント)。 (注終わり) (コラム終わり) (3)取組を展開するための体制を構築するための方策 わかりやすい情報発信の取組を全庁的に展開していくために、庁内の体制を整えることが大事である。推進の担当部署を明確にし推進体制を決めることは、全庁的な取組を展開しやすくすることにつながる。また、統一的な方針や基準などがあることで、各部署での取組を後押しする。そのため、取組体制を構築するための方策として、次の3つの取組を提案する。 @組織の状況等に応じた統一的な方針や基準を作る ◆基本的な方針や基準の作成 ◇全庁的な基本方針の作成 全庁的な取組の基本方針を作成し、各部署は方針に沿って、部署の状況に合わせながらわかりやすい情報発信に取り組む ◇表現方法などの基準の作成 表現方法や作成の視点などの統一的な基準を作成し、各部署は基準に沿ってわかりやすい文書を作成する ◇書き換え基準の作成 行政用語や専門用語の書き換え集を作成し、各部署は用語集に沿って文章を書き換える ◇基本方針や基準に沿いつつ、各部署の業務や状況に合わせた基準を作成する ◆方針や基準の改善 ◇方針や基準を固定化せず、要望や評価をもとに改善を重ねる ◆基準の作成方法 ◇関係部署での共同による作成 全庁的なものや組織横断的な基準の作成にあたっては、関係部署を集めて共同で作業を行う ◇先行的な取組の全庁展開 先行的に取り組んでいる部署があれば、必要に応じ改善を加え、全庁的に展開させる A庁内に展開していくための庁内研修を行う ◆方針や基準を定着させるための全庁を対象とした継続的な研修 ◇既存の研修の活用 新たに研修等を実施するのではなく、新人研修や主任研修など、既存の研修を活用する ◆方針や基準を共有するための仕組みの構築 ◇いつでも閲覧や内容確認ができる体制 各部署への配布や、庁内の共有システムなどを活用し、いつでも閲覧や確認ができる体制を整える B取組の庁内推進体制を整える ◆担当部署を設置する ◇わかりやすい情報発信に取り組む自治体であることを明確にする ◇方針や基準作りの中心的な役割を担う ◇取組を推進するための庁内会議等を運営する ◆庁内全体で推進する仕組みをつくる ◇部課長の庁内検討会議等を設置する ◇庁内各部署に推進のための担当者を置く コラム≪取組体制について≫ ◎自治体によって異なる担当部署 本調査で先進事例調査としてヒアリングした自治体は5市であるが、管轄担当部署はそれぞれ異なっている。 ・弘前市:経営戦略部広報広聴課 ・宇都宮市:市民まちづくり部部国際交流プラザ、保健福祉部福祉総務課 ・横浜市:市民局広報相談サービス部広報課 ・堺市:文化観光局国際部国際課 ・高松市:市民政策局ユニバーサルデザイン推進室 ◎共通点 少ない事例ながら類型化を試みると、首長の強いリーダーシップのもと、トップダウンで行われる場合は企画担当が管轄となり、草の根的な運動として広がる場合は、広報や外国人対応を担当する部署が中心となって、ボトムアップでスタートするケースに分けられる。もうひとつの共通点は、対象業務を当該担当課内にとどめることなく、マニュアルづくりや研修等を通じて、他部署まで周知・啓発を広げようとする動きに発展している点である。 ◎トップダウン、ボトムアップのメリットとデメリット ボトムアップは、現場から始められるためスタートが早い一方、行政の縦割を乗り越えて、全庁的に普及するのが難しい側面がある。一方、トップダウンは、首長の強いリーダーシップで進むため、決断が早く全庁的な取組の実施や研修への全職員参加などができる半面、トップが代われば方針も変わる恐れがあり、持続性に不安が残る。 図表5−1 トップダウンとボトムアップのメリット・デメリット トップダウン メリット ・組織の決断がはやい ・強制力を持って取組を進めることができる デメリット ・トップが交代すると継続性が失われる恐れがある ・自発的な取組でないため、定着しにくい ボトムアップ メリット ・有志が集まればすぐにスタートできる ・意欲があるため、職員が異動しても異動先の部署で取り組み続けることができる デメリット ・普及にあたり行政分野ごとの組織の縦割を打破するのが難しい ・合意形成に時間がかかる このように、ボトムアップ、トップダウンには、ともにメリットとデメリットがある。また庁内の普及には、どの部署が担当するかはあまり大きな問題ではない。 (この図表終わり) (このコラム終わり) コラム 担当者の気付き【ボトムアップからトップを動かす!】 わかりやすい情報発信の取組が必要だと思っていても、組織的な取組とするために声をあげることは、なかなか腰が重いものです。 組織的に取組を展開するには、トップダウンで強制的なほうが取り組みやすいのではないかと考えていました。しかし、先進的な自治体をみると、トップダウンでスタートしたところもあれば、ボトムアップでスタートしたところもありました。ヒアリングでは「トップダウンのほうが取り組みやすい」という声もあれば、「ボトムアップでないと続かない」という声もあり、どちらの取組も一長一短であると感じました。 図表5−1で整理したトップダウンとボトムアップのメリット・デメリットは、相互補完関係にあるようです。トップダウンの取組はボトムアップのデメリットを解消することができ、ボトムアップの取組はトップダウンのデメリットを解消することができます。また、トップダウンがきっかけであっても、担当者が草の根的な運動を展開することで仮にトップが代わっても取組を持続することができますし、ボトムアップからスタートしても、あとからトップダウンでルールに強制力を持たせる方法も考えられます。 職員が首長へ直接働きかけることは難しいかもしれませんが、草の根的な取組をスタートすることで、トップにつながり、組織的な取組へと展開できるかもしれません。 「大きな取組にできないからだめだ」と諦めるのではなく、できるところからコツコツと始めてみてはいかがでしょうか。 (コラム終わり) 2.有効性の検証 本調査研究の取組手法の有効性を検証するために、自治体職員へのワークショップ及び住民へのグループインタビューを行った。自治体職員へのワークショップでは、本調査研究の成果が、自治体職員の取組意欲を高め、実践に結び付くかを検証した。また住民へのグループインタビューでは、本調査研究で提示した取組の方策が、住民にとってわかりやすい情報発信に寄与しているのかを検証した。 (1)自治体職員に対する有効性の検証(ワークショップ) 多摩・島しょ地域市町村職員を対象に、次の内容で実施した。 ◆この調査研究の成果の提示 ◇アンケート結果や先進事例のヒアリングから得られたこと ◇わかりやすい情報発信の意義 ◇わかりやすい情報にするための文章の書き換えやデザイン ◆実践(グループワーク) ◇受け手の立場になってみる ◇文章の書き換え【図表5−2】 その結果、次の3点が検証できた。 @必要性や問題点を伝え、具体的な取組事例を示すことで、取組意欲が高まる このワークショップでは、自治体職員に対し「第2章自治体から住民への情報発信の現状」や「第3章わかりやすい情報発信に向けた研究や取組事例」に記載した内容を講演形式で伝えた。この結果、取組の必要性や重要性に気づき、取組に対して前向きな姿勢になった参加者が多かった。 ワークショップアンケートから ・伝わらなければ伝えたことにならないことに気がついた ・情報量や行間、色使いなど、住民がわかりにくいと感じている点がわかった ・先進的な取組の事例が参考になった ・相手の立場に立つことの大切さがわかった ・文書作成のポイントがわかった このように、取組の必要性を伝え、現状や問題点を整理した上で、具体的な取組事例を提示することは、職員の取組意欲向上につながることが検証できた。 A具体的な行政文書を使って実践することで、取組の方法や考え方が実感できる 具体的な申請書類や行政文書を例にわかりにくい部分を指摘し、実際に書き換える作業をグループワークで行った。この結果、これまで気づかなかった(情報の受け手になってみて気づくことができた)「わかりにくさ」に気づき、読み手の立場に立った文書を考えるようになった。具体的には、 ・行政用語や専門用語を平易な言葉に置き換え ・条件を箇条書きに整理 ・不要な情報の削除 等である。 このように、職員同士が共同で具体的な文書を使った書き換えを実践することで、読み手の立場やわかりやすさの視点などに気づきやすくなる。研修や勉強会等を通じわかりやすい文書作成の考え方や方法などを実感することで、取組意欲の向上につながることが検証できた。 B取組意欲が高まることで、周囲への波及効果が期待できる 研修を通じて、わかりやすい情報発信に取り組むことの必要性や、具体的な取組方法を実感することにより、日常業務においてすぐに取り組むことや部署内で共有することを参加者自身が整理できた。具体的には、自身の業務において「対象者の立場に立って文書を作成する」ことや、「文字数やレイアウトをわかりやすく表現する」ことなどが挙がり、また周囲に対し「研修の内容を伝える」、「研修プログラムに組み込む」などが挙がった。 このように、取組意欲の高い職員が中心となり、部署内や庁内への取組の展開が期待できることが検証できた。 図表5−2 書き換え実践作業の題材(原文と結果) 原文 【病後児保育の対象者】 病後児とは、生後6カ月から小学校第3学年までのお子さまで、病気の回復期にあり医療機関による入院加療の必要性はないが、安静の確保に配慮する必要があることから、集団保育が困難なお子さまのことです。 基調講演及び研究報告等を基に書き換えた結果 A班 【病後児とは】 病院での治療が必要なほどではないけれど集団で生活するよりも静かに休むことが必要なお子さんをいいます。 あてはまる年齢 生まれて半年から小学校3年生まで B班 【病後児保育の対象者】 次の @からBの全てに当てはまるお子さまです。 @生後6ヵ月から小学校3年生 A病気の回復中で入院が必要ない B安静が必要 C班 【「病後児保育」の対象となる方】 「病後児」とは、 [年齢]●生まれてから6ヵ月から小学3年生     ●病気の治りかけで、入院されていない     ●集団生活が難しい 上記のお子さんがいて、保育を希望する方は、ご相談ください。 D班 病後児保育の対象者は、生後6ヵ月から小学校3年生までの、病気のあと、まだ保育園・学校などに行けないお子さまです。 E班 病気の治りかけで安静が必要である、生後6ヵ月から小学校3年生までのお子さまです。 (図表終わり) コラム 担当者の気付き【理想は「取り組むことは当たり前」】 今回のワークショップの参加者アンケートでは、参加者 29名全員に、「参考になった」もしくは「やや参考になった」とお答えいただくことができました。研修で取り組む意義や方策をお伝えすることの有効性を確認することができた一方、思い出したのはヒアリングで伺った先進自治体の担当者の方のお話でした。 ヒアリングではこのような点が素晴らしいのでぜひ参考にしたい、とお伝えしても、「これは各職員が当たり前のように行っていることなので、特別なことではない」という反応でした。 この先進自治体のように、各職員がわかりやすさに配慮することの意義やその方策は当たり前の知識となることが理想なのでしょう。今回ワークショップで実施したような研修を地道に繰り返すことで、多摩・島しょ地域自治体の当たり前になる日が来ると考えています。 (コラム終わり) (2)住民に対する有効性の検証(グループインタビュー) 乳幼児から小学生の子どもを育てている多摩地域住民6名に、次のことを聞いた。 ◆自治体から受け取る情報について普段から感じていること ◆ワークショップにおける書き換え実践の文章(書き換え前・後)を見て感じること その結果、次の3点が検証できた。 @読み手の立場で文書を作成することが重要 住民へのグループインタビューでは、子育て世帯の女性に対し、自治体が情報発信の際に何を心がけてほしいかについて質問した。その結果、「当事者の視点で文書を作成してほしい」、「初めての子育て中だったり 10歳代で子育てしていたりなど、慣れていない人を対象に文書を作成してほしい」などの指摘があがった。また、「子育て中は落ち着いて文書を読む時間的精神的余裕がないことを理解してほしい」、「そんなあわただしい状況の中では、自分がこのサービスを使えるのかどうか、どの順に何をすればいいのかを簡潔に伝えてもらえると助かる」との意見も挙がった。 これは読み手の立場に立って文書を作成してほしいということであり、その読み手は具体的に想定すべきであることを指摘している。このことは、提案の内容にも盛り込まれている。 このように、読み手の立場で文書を作成することの重要性が検証された。 A受け手の立場に立ったことにより、わかりにくい部分に気がついた また、自治体職員のワークショップでの題材原文を提示し、わかりにくい部分を指摘してもらった。書き換え前の文章では、住民と自治体職員とで、指摘部分に共通点が見られた。具体的には、住民側からは「言葉の定義がわかりにくい」、「対象がわかりにくい」などの指摘があったが、自治体職員もそのことに気づき書き換えを行っていた。 このように、わかりにくい要素や書き換えるべき視点について、職員と住民の意識は共通しており、取組の有効性が検証できた。 B住民にとってわかりやすい文書に書き換えることができた さらに、実際に書き換えた後の文章は、概ねわかりやすくなったと評価された。具体的には、箇条書きや用語の書き換えに効果があったようである。箇条書きにさらに番号が振られていると確認しやすい、曖昧な表現でなく断言されているほうが安心できる、などの意見があった。しかし、書き換え後の言葉について新たな視点での指摘もあった。解釈が複数ありうる表現(「集団生活がむずかしい」…性格的な問題で難しいという意味か、「入院されていない」…入院できないという意味か、など)への指摘である。書き換えに際しては、入念な検討が必要ということであろう。 このように、課題は残ったものの、ワークショップでの書き換えの結果についても住民から良い評価を得られ、この面でも、取組の有効性が検証できた。 コラム 担当者の気付き【住民は日常的に小さな不満を抱えている?】 グループインタビューでは、「行政からの情報発信について」と題し、子育て支援カフェを通じて参加者を募りました。6名程度の募集でしたが数日のうちに集まり、当日も開始直後の自己紹介から、活発な意見交換が行われました。日頃育児や家事で余裕がない中、行政から分かりにくい通知が来ることに対し、不満や要望を抱いていることが感じられました。役所での日常業務において、「情報がわかりにくい」という意見を頂戴することはほとんどありませんでしたが、行政に伝えるまででもないものの、不満を感じている住民が多いのでは、と再確認することができました。 (コラム終わり) 3.本調査研究のまとめ ◆わかりやすい情報発信に取り組む理由 自治体から住民に向けて発信する情報は、正確性や公平性に加え、確実に伝わり理解や行動に結びつくことが必要である。この「確実な伝達」のためには、表現のわかりやすさが重要となる。ただ、わかりやすく情報を発信することと、情報を正確に伝えることの両立は難しい。正確性や公平性を追求すると、情報量が増え法律用語や専門用語が多くなりがちで、わかりやすく表現しにくい。逆に、わかりやすい表現を心がけると、伝えるべき情報が正確に伝わらず、誤解を生じさせるのではないか、その結果苦情が多くなるのではないか、という懸念がある。しかし、発信した情報は、受け手が理解できなければ伝えたことにならない。自治体は、住民の信頼を得るためにも、選ばれる自治体になるためにも、情報をわかりやすく確実に伝えることが求められる。 そのような中、災害時の緊急情報の発信や外国人住民への情報提供という場面でのわかりやすさへの要請から、全国各地でわかりやすい情報発信の取組が広がっている。また、広報や福祉、税などの分野において、住民からの苦情や問い合わせなどがきっかけとなり、わかりやすい情報発信に取り組む自治体があることも判明した。多様な取組の結果、苦情や問い合わせが減少し、業務の効率化につながっていることも報告されている。このことも、自治体がわかりやすい情報発信に取り組む一つの理由である。 このように、様々な観点から、自治体から住民への情報発信をわかりやすいものとすることの重要性は、増してきている。 ◆多摩・島しょ地域市町村の、わかりやすい情報発信に向けた3つの提案 多摩・島しょ地域の自治体においては、わかりやすい情報発信の必要性は認識されているものの、組織的・全庁的な取組には広がらず、担当者や部署ごとに独自に工夫している状況にあることが明らかになった。そこで、取組の現状や問題点から、わかりやすい情報発信に取り組む上での課題を3点に整理して、それぞれの課題に対応する提案を行った。 ●職員の意欲を高めるための 取組の動機づけ、周囲の共感や取組評価の獲得に向けた研修会や仕組みの構築 ●読み手の立場に立った文書を作成するための 具体的な読み手の想定や基準づくりの考え方 ●組織内での展開に向けた取組体制を構築するための 統一的な方針・基準づくり、普及体制の整備 ◆取組の考え方の要 この提案には、様々な先行研究や自治体・民間団体の先進的取組から多くのヒントを得ている。それらの研究や取組に共通して指摘されていたのは、次の2つであった。 ●「相手の立場に立つこと」の重要性 ●「情報量を減らすこと」の重要性 この2つが、わかりやすい情報発信のための“要”である。 「相手の立場に立つこと」は、一見あたりまえのようだが、最も基本的な姿勢である。技術的な基準やマニュアルには正解や完成形はなく、恒常的に見直しや更新が必要だが、根底にあるこの考え方は変わらず、常に拠りどころとなる。 次に、「情報量を減らすこと」についてであるが、これは前者に比べると技法(テクニック)の要素を含んでいる。情報をわかりやすくするための基準や技法の作成・整理は、様々に努力されている。その基盤となるのが、適切な情報量にすること、さらに言えば現状より減らすこと、である。情報量の削減を意識的に行うことによって、まず何が重要な情報であるかの確定を迫られる。そのためには、相手に本当に伝えたいことは何か、相手が本当に知りたいことは何かを考えることになる。その先に、用語や表現、デザインをどう改善するかという技法と、そのための基準が求められている。 ◆わかりやすい情報発信のための基準づくり 庁内や部署内の共通の基準やマニュアルは、わかりやすい情報発信の取組を推進していくための効果的なツールである。基準やマニュアルは、個人での取組を助け、さらに周囲に拡げ組織での取組にしていくことにもつながる。前述の2つの“要”を基本に据えつつ、自治体や業務の状況に合わせた基準やマニュアルを作成することは、わかりやすい情報発信の取組の一歩となる。一人ひとりの職員の取組に参考となるチェックリスト、組織として取り組む際に考えるべき基準の目安を整理し、次ページ以降に掲載しているので、ぜひ活用いただきたい。 ◆おわりに 各自治体において、わかりやすい情報発信に取り組む組織風土を醸成し、職員ひとりひとりがわかりやすい情報発信を心がけるとともに、自治体としての取組が広がることを願っている。その際に、この調査研究報告が参考になれば幸いである。 <表> わかりやすい情報発信のためのチェックリスト 一人ひとりの職員が取り組むために @具体的な読み手を想定する □誰に向けた文章ですか? ・読み手をなるべく具体的に想定する 例えば、「高齢者」⇒「一人暮らしの高齢者」、「子育て中の親」⇒「初めて子どもを育てる父親・母親」など ・身近な人を思い浮かべるとより想定しやすい ・「広く一般的にすべての住民に届けたい」場合であっても、より具体的な人を想定する 例えば、より情報を届ける必要がある人、情報を受け取りにくい人など □読み手の目線になっていますか? ・受け取った人が読むときの状況を考える ・受け取った人が読むときに必要とする支援を考える ・その文章は、自分や家族が読んだ時、疑問なく理解でき、行動することができるかを考える A必要な情報を精査する □読み手は何を必要としていますか? ・読み手が初めに知りたいことは何かを考える ・読み手が最も知りたいことは何かを考える ・自分が伝えたいことよりも、読み手が知りたいことを先に書く □読み手は何をしようとしていますか、何をしてほしいですか ・読み手の自然な思考の流れに合わせた順序で書く ・読み手がとるであろう、またはとってほしい行動に合わせた順序で書く □詳細な情報が必要ですか? ・伝えたいことの優先度を整理する ・読み手にとって必要のない情報は記載しない 例えば、制度の目的や全体の説明が、読み手にどの程度必要な情報か考える また、根拠となる法律や条例などは読み手に必要な情報かどうか考える ・読み手のすべての人が、詳細な情報を必要としている訳ではない。記載する情報を精査する 例えば、詳細な情報を知りたい人には、公式ホームページなどを準備し誘導する B表現方法を再確認する □複雑な文章になっていませんか? ・一文を短くする ・一文には一つの内容(情報 ) ・二重否定を使わない ・不必要な語や繰り返しの表現はやめる 例えば「または」「および」などは「や」「と」「句読点」などに置き換える □もっとわかりやすくする方法がありませんか? ・箇条書きなどを活用する ・番号を付けて、思考や行動の流れを示す ・文章では伝わりにくいものは、図・表を活用する(ただし、視覚障害者への配慮を忘れずに ) ・具体例や見本などを示す ・尊敬語や謙譲語を使わず、丁寧語のみを使用する □難しい用語を使っていませんか? ・ふりがなを振る。 ・行政用語や専門用語は平易な言葉に置き換える ・制度上の用語などそのままの使用が必要な場合は、平易な言葉で別に説明する ・カタカナ語・外来語は、できる限り日本語で言い換える ・日本の文化を理解していなくても意味が分かる単語か考える ・辞書で引きやすい単語に言い換えられないか考える □見た目が読みづらくなっていませんか? ・読み手の状況に応じて、文字の大きさを変える ・行間は適度に空ける ・字体(フォント )の種類を工夫する ・複数の色を使用している場合、白黒で印刷しても識別できるか確認する C読み手の立場に立って文章を見直す □すぐにわかる文書になっていますか? ・読み手の立場(気持ち)で文書を読み返す ・文書を読んで、実際に行動してみる。 □独りよがりの文書になっていませんか? ・職場の同僚や上司に読んでもらう ・文章に沿って自分で行動してみる ・当事者や対象者に近い人に読んでもらい、実際に行動してもらう (チェックリストの表終わり) コラム 担当者の気付き【情報の量を減らすことが大事!その2 地図】 情報量を減らすとわかりやすくなる、という実例として、少し観点は異なりますが、地図が挙げられます。 あらゆる情報が書き込まれている地図は、大変役に立つ、あるいはどうしても必要な場面があります。しかし一方で、概略図のほうがわかりやすく、行きたい場所にたどり着きやすい、ということも経験します。私たちは、自然に、場面に応じてそれらを使い分けているのです。 文書を作る場合は、概略図に近いものをイメージすると良いように思います。 (コラム終わり) <表> 組織としての取組における基準の目安 @部署として取り組むための姿勢 □マニュアルではなく、考え方の基準を作る □正解も唯一絶対の方法もないので、基準に縛られることなく常に見直す姿勢を持つ □情報の精査を通して業務への理解を深められるという利点があることを理解する A読み手の想定のために □部署内で共有できる読み手をいくつか設定する □部署の業務に合った読み手を想定する B情報の精査のために □読み手が求めているもの、読み手にしてほしいことを確認する □最も伝えたいこと、その次に伝えたいこと、など情報の順位付けをする □できれば用紙の大きさや枚数などを制限し、情報量を多くしない方法を採る C文章表現やデザインなどの取組のために □ 想定した読み手に合わせて、重視すべき点を選ぶ (一文には一つの内容、箇条書き、文字の大きさと行間、などから) □専門用語の扱いについては、その部署での基準を作る D読み手の立場での見直しのために □見直すための方法を決めておく (目安の表 終わり) コラム 担当者の気付き【最も大切な考え方を身に付けるために】 情報をわかりやすく、誰にでも伝わるような表現にするには、ある程度の標準的な技術があるのではないかと考えて、調査を始めました。先進的な取組では、 やはり、基準を作るなど、わかりやすく書き換えるための技術的な要点を整理していました。しかし、調査を進めれば進めるほど、技術以上に大切なのは相手の立場に立つという考え方だということに収斂していきました。 この報告書で、わかりやすく情報発信する具体的な方法を提示していない理由(言い訳)は、そこにあります。 しかし、例えば「やさしい日本語」のような具体的な取組をする中で相手の立場に立つことを習慣づけると、その考え方を身につけることができます。 それは、文書作り以外の場面でも、発揮されていくことになるでしょう。 (コラム終わり) 公益財団法人 東京市町村自治調査会 1986(昭和61)年 10月に、市町村の自治の振興を図ることを目的に東京都全市町村の総意により設立された行政シンクタンクです。 多摩・島しょ地域の広域的課題や共通課題に関する調査研究・普及啓発のほか、市町村共同事業、広域的市民活動への支援等を行っています。 本書は、(公財)東京市町村自治調査会及び株式会社アール・ピー・アイによる共同調査方式で作成しました。 (公財)東京市町村自治調査会 永尾 昌文 調査部長 中川 慎一 主任研究員 石井 史 研究員 白坂 奈往 研究員 株式会社アール・ピー・アイ 坂井 雪執行役員 佐藤 孝弘 マネジャー 矢野 雄介 マネジャー 西田 幸司 プランナー 平成 29年3月発行 誰にも伝わる情報発信に関する調査研究報告書 発行 公益財団法人東京市町村自治調査会 〒 183-0052 東京都府中市新町2‐77‐1東京自治館内 TEL:042‐382‐7722 FAX:042‐384‐6057 URL:http://www.tama-100.or.jp 調査委託 株式会社アール・ピー・アイ 〒 101-0051 東京都千代田区神田神保町2‐38 いちご九段ビル3階 TEL:03‐5212‐3411 FAX:03‐5212‐3414 E-mail:toiawase@rpi.co.jp URL:http://www.rpi.co.jp/ 印刷 明誠企画株式会社 〒 208-0022 東京都武蔵村山市榎2 ‐25‐5 TEL:042‐567‐6233 FAX:042‐567‐6230 URL:http://www.meiseikikaku.co.jp/